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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
最終章 終わりへと向かう物語

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第四十話 奈落へ

 翌朝。準備を終えた七人は、ついに奈落の入口へとたどり着いた。


 黒いクレーターのような穴。

 底の見えない暗黒の裂け目が、まるで意志を持つように七人を待っている。


「……ここが、最終ダンジョンってわけか」


 レンが冗談めかした声で言うが、喉が震えるのは隠せない。


「戻れる保証はありません」


 ネロはいつになく真剣な声で呟いた。


「奈落は、本来のゲームでも、重課金者向けの最高難度ダンジョンでしたし。転落したら、物理的にも精神的にも……帰ってこれません」


「お前、その言い方やめろよ……」とレン。


「でもまあ、やるしかねぇな。倒さなきゃ、未来はねぇ」


 グレンデルは斧の柄を握りしめ、肩を鳴らした。


「バロン……必ず倒す。あいつを放置したら、誰も眠れねぇ」


「ええ。あの人は、放っておいたらまた誰かを傷つけるわ」


 ミサトは静かに刀を抜き、目を閉じる。


「だから、私たちが終わらせるの」


 ベリーが冬吾の隣で深呼吸し、「どうか、誰も死にませんように」と祈るように呟いた。


 冬吾はその声を聞き、仲間をひとりずつ見回す。

 この数週間で、寄せ集めだった七人は、思いもしなかった最強パーティへと変わった。


「お前ら」


 冬吾は静かに口を開いた。


「ここまで来れたのは、みんなのおかげだ」


「冬吾が言うと、やべぇな。死亡フラグみたいじゃね?」とレンが笑う。


「どんな旗立てようが構わねぇ。全員で生き残って戻ってくるだけだ」


 冬吾は黒い裂け目を見つめ、喉を鳴らした。


「行くぞ。俺たちの、生きるための最終決戦だ」


 七人はそれぞれ頷き、暗黒の口へと歩みを進めた。

 一瞬、風が止まり、世界そのものが息を呑んだように感じられる。


 そして七人は、底のない闇へと消えていった。


【奈落 第一層 遺跡エリア】


 落下の感覚が消えた瞬間、視界が開けた。

 そこは朽ちた石柱が立ち並ぶ巨大な空間。

 神殿の残骸がどこまでも続く、荒廃した遺跡だった。


「……ここ、完全に別世界じゃん」


 ベリーの声が震える。


 最初に現れたのは、骨の剣を引きずるスケルトンナイト数体。

 冬吾の脚絆が死霊からのタゲを外し、レンが背後から一撃で落とす。

 ミサトが白雲を振るい、グレンデルが骨砕き。

 ネロのヘイストが全体を加速し、コルトが小まめに回復を入れる。


 死霊モンスターだらけのエリアだったが、七人の動きは噛み合い、連携は過去最高。


「ボスは……どこ?」


 ミサトが最後のスケルトンを斬り伏せたあと、周囲を見渡す。


 だが、ボス部屋にあったはずの石棺は、空っぽだった。残骸のような血痕が残るだけ。


「……喰われたな、バロンに」


 冬吾の低い声が響く。


 第一層は、ボス不在のまま突破となった。


【奈落 第二層 砂漠エリア】


 階段を降りた瞬間、世界が反転した。

 熱風が肌を刺し、乾いた砂が頬を切り裂く。さっきまでの遺跡の冷気は跡形もない。


「うわっ……これ、本気で死ぬやつだろ」


 レンが腕で顔を覆いながら呻く。


「気温……高い。魔力流の質まで違う」


 ベリーは砂に膝を落とし、指先から魔力の流れを探る。


「地脈そのものが砂の属性に引っ張られてる……」


「これが奈落か。層ごとに、世界そのものが違うのね」


 ミサトは遠くの蜃気楼を見据えた。敵影はまだ見えないが、かすかな振動だけが地面から伝わってくる。


「油断するな。……この風、何かおかしい」


 冬吾が一歩前へ出る。

 額の 砂塵の鉢金 が、砂の流れを視覚化するように微かに脈動した。


 その瞬間、冬吾だけが気づいた。


「来るッ!! 前じゃねぇ、下だ!! 全員飛べ!!!」


 冬吾の叫びと同時に、地面が爆ぜた。


 ドゴォォォォン!!!


 砂を巻き上げ、巨大な影が飛び出す。

 蛇のようにしなやかで、ビルのように太い全長。

 口腔は人ひとり飲み込めるほど開き、砂と血を混ぜた臭気をまき散らす。


 奈落第二層の支配者・タイラントワーム。


「で、でけぇぇぇ!!」


 レンが絶叫する。


「コイツがボスモンスター?……本来のゲームとは、違うのかしら」


 ベリーは呟く。ネロは即座に詠唱に入る。


「ディレイフィールド展開! 動きを鈍らせる!」


「効かねぇッ!!」


 グレンデルが斧を構えた瞬間、ワームの尾が砂煙をくぐって襲いかかる。


「オラッ!」


 冬吾は一歩も動かず、タイミングを読み、尾の鞭を 紙一重で回避。

 砂の粒の流れを鉢金が読み取り、未来の軌道が見えるようだった。


「すげぇ……また避けた」


 ベリーが息を呑む。


「砂の流れが見えるんだよ。こいつの動きは砂を伝ってくる」


 冬吾は目を細めた。


「この層じゃ、俺が前張る」


 ワームが咆哮とともに潜り直す。


「潜った! 来るぞ冬吾!!」


「わかってらぁ!!!」


 冬吾は砂の隆起を読み、ワームの再浮上点へ疾走。

 その真上に跳び込む形で、黒炎龍の手甲+ベオウルフブーツの加速が噛み合い、地面が盛り上がる一瞬前、冬吾は反動を利用して横へ跳び、ワームの露出した硬い皮膚へ約束の剣を突き立てた。


「ぐおおおおおおぉ!!」


 約束の剣はワームの岩のように硬い皮膚を、まるで紙切れのように切り裂く。


「冬吾がタンクやってんじゃねぇか……!」


 レンが呆れる。


「いや、あれはタンクじゃない」


 ミサトが真剣に言った。


「回避盾よ。冬吾にしかできない役割」


 ワームに刺した傷口から黒い砂が逆流する。

 その隙を逃す七人ではない。


「いけぇぇぇ!! 今だ、集中攻撃!!」


 斧、魔法、刀、双剣が一斉に火を吹く。

 圧倒的な物量とコンビネーションが重なり、ワームの体がバチバチと裂ける。


 最後に冬吾が跳び、渾身の一撃を叩き込んだ。


「終われぇぇぇぇッ!!」


 ズガァァァァン!!!


 ワームが断末魔をあげ、巨大な体を砂へ崩した。


 砂嵐が止む。

 灼熱の風が、ほんの少しだけ穏やかに吹き抜けた。


「はぁ……なんとか、突破だな」


 冬吾は息を整えながら言った。


「冬吾がいなかったら、今ごろ誰か食われてたわね」


 ミサトが微笑む。だがその時、ベリーが砂をすくって表情を曇らせる。


「……この砂、魔力が後ろに流れてる。次の層……ただのダンジョンじゃない」


 奈落は、深く、そして冷たく彼らを待ち構えていた。


【奈落 第四層 古城エリア】


 黒い月が空に浮かび、朽ち果てた城塞が不気味にそびえ立つ。

 その大広間で、バロンは玉座に座り、虚ろな瞳で天井を見上げていた。


「……来たよ、レゾナンスの奴ら。奈落に」


 リサージュが現れ、黒い薄膜のような視界共有を解除した。


 バロンはピクリとも動かない。

 ただ、喉の奥から獣のような呼吸音を漏らす。


 リサージュは彼の頬に触れ、微笑む。


「ふふ……感がいいね。あの子たち。逃げずにここまで来るなんて」


 だが、彼女の瞳は笑っていない。


「けどこれ以上、深層へは行かせられない。あなたが完全体になったとはいえ、まだ外の干渉が強い。今、五層より下に行くのは危険」


 バロンはゆっくりと顔を上げた。

 虚ろな瞳の奥に、淡い血の光。


「……皆殺しだ」


「ええ、全部あなたのために。 一緒に……ここで待ち伏せしよう?」


 リサージュは指を鳴らす。


 第四層のモンスターたち――

 吸血鬼、影獣、リッチ、デュラハン……黒い魔力に引き寄せられ、玉座の周りに群がる。


「まずはボスを借りるね」


 リサージュの足元、巨大な影が揺れる。

 古城の主・ドラキュラロードが強制的に引きずり出され、悲鳴を上げる。


「やめ……やめて……っ!? ぐあぁあああ!」


 リサージュの身体が霧状に溶け、ドラキュラの胸から侵入した。


 そして――

 全身が破裂し、血の翼を持つ妖艶な悪魔へと変貌する。


 その姿は、凶悪なサキュバス。


「……ふふ。どう? 似合う?」


 サキュバス・リサージュが微笑む。


 バロンはゆっくりと頷いた。


「……キレイだ」


「ありがとう、バロン。ここで、レゾナンスのみんなを迎え撃とう?」


 サキュバスとなったリサージュの笑みは、甘く、そして残酷だった。

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