表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
最終章 終わりへと向かう物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/52

第三十八話 約束の剣

 死霊との戦いを終えた七人は、奥へ奥へと神殿を探索した。

 巨大な祭壇、崩れかけた回廊、黒炎で焼かれたような痕跡。

 だが肝心の男の姿はどこにもなかった。


「……いねぇな。バロン」


 グレンデルが斧を肩に担ぎながら言う。


「ここまで派手にやったのに、痕跡だけ置いてトンズラかよ」


 レンが悪態をつきながら、壁の裏の仕掛けをいじっていた。


 その時、ゴゴッと鈍い音がして、隠し扉がゆっくりと開いた。


「……おい。マジで当たり引いたかも」


 レンの声には珍しく興奮が混じっていた。


 扉の向こうは、金属のきしむ広間。

 積み上げられた宝箱、古代武具、魔石の山。


 宝物庫。


「……すげ」


「うおお……!」


 七人に歓声が漏れた。


 ミサトは細身の刀を手に取る。


「重心が完璧……。名工が鍛えた代物だ」


 グレンデルは両刃斧を引き抜き、試しに振る。


「おお……! 軽いのに、これ……威力倍になってるぞ」


 レンは二本の剣を手に取り、にんまり笑う。


「切れ味エグ……最高じゃんこれ」


 ネロとベリーは、魔法具の棚をあさりながら楽しそうに吟味している。


 そして、ベリーが一冊の古い魔導書に手を伸ばし、ふと真顔になった。


「……このネクロマンサー、やっぱり奈落の個体だったんだ」


「奈落?」


 コルトが振り返る。


「最高難度ダンジョン。神獣クラスの巣にも匹敵する……。そこからモンスターが出てくるなんて、本来なら絶対ありえない」


 ベリーは本を閉じて、言葉を絞り出す。


「たぶん……バロン達は奈落に行ってる。 でも、奈落はヤバい。バロンがいようがいまいが、普通に命落とす場所……」


 場の空気が重くなった。


「……まあ、それでも行くしかねぇけどな」


 冬吾が肩を回しながら言う。だが次の瞬間、冬吾の表情がふっと緩み、ぽつりとつぶやいた。


「……あ、そういやさ。 みんな、この世界来て最初にガチャ引いてから……その後って、誰か引いた?」


「……あれ? 言われてみりゃ……」


「最初の一回だけだな」


 全員が顔を見合わせる。


「ってかさ」


 レンが眉をひそめる。


「入り込んでるんだぞ? 課金なんて出来るわけねえだろ」


「いやまあ、普通はそうなんだが……」


 冬吾は頭をかきながら苦笑した。


「一応さ、帰ったら試してみようぜ。課金できなくても、フリーチケットとかワンチャンあるかもだし」


「……こんな状況でガチャの話してる自分らが怖いわ」


 ミサトが呆れたように笑う。


「でも……」


 コルトが微笑んだ。


「ちょっとだけ、気が紛れた」


 重たい道中の中で、久しぶりに訪れた小さな笑い。


 しかしその先に待つのは、奈落。この世界で最も恐ろしい深淵だった。


 拠点へ戻った七人は、補給を済ませるとガチャ神殿へ向かった。

 そこは初日に訪れた時と同じはずなのに、どこか空気が違っていた。内部の祭壇には淡い青白い文字が浮かび、その条件が示されていた。


【ガチャ可能回数:死亡プレイヤー数】


「……は?」


「何だよこれ……」


 全員が言葉を失った。


 ベリーが震える声で読み上げる。


「死んだ人数……つまり、三十六回……?」


「ようやく戦力差の謎が解けた。バロンは気づいていたんだ……」


 ミサトが唇を噛む。


 敵も味方も、死んだ分だけ回せる。

 その残酷すぎるルールに、七人は黙り込んだ。


 だが、悼んでばかりはいられない。今生きている七人は、生き延びるために引くしかなかった。


「……行くぞ」


 冬吾が静かに、回転盤の前に立つ。


 七人、各々が 36回 のガチャを開始した。


「……はぁ……、SR、R、R、またR……」


 冬吾は回しながら、ぼんやりと思い返していた。


 あの日、クラウドがガチャの仕組みを教えてくれた時のこと。


ーーーー


「冬吾さん、あそこ。あの神殿の魔法陣に触れると……ほら、チュートリアルガチャが引けます!」


「ガチャ!?」


「ええ。ゲームはガチャっすよ!」


ーーーー


 あれはクラウド……いや、直哉の優しさだった。


 現実では、俺はあいつに轢かれて死んだ。


 冬吾は深く息を吸う。


 でも、この世界では……あいつのおかげで、俺は生き残ってる。

 日雇いで食い繋ぎ、酒とタバコと借金以外、なんもなかった現実。それより、()()()()()この世界で……


「……直哉。いまの俺はよ……感謝しかねえよ」


 小さくつぶやいた、その時だった。


――プチュン……!


 祭壇の光が弾け、冬吾の視界が真っ暗になる。


「うわっ……な、何だよ!? 」


 耳鳴り。

 無音。

 息すら止まったような虚無。


 しばらくして――


――カァァァァァァッ!!


 神殿全体が白光に包まれた。


「お、おい……!?」

「冬吾!? 何が……」

「これ……演出……まさか……!」


 七人は目を見開く。


 輝きの中から、一本の剣がゆっくりと浮かび上がった。


 LR 約束の剣(Friendship Oath)


 銀と群青が混ざった刀身。

 浮かび上がる二つの紋章。

 その形はまるで――


「……クラウドのギルドマーク」


 ミサトが息をのむ。


「もう一つ……冬吾のナイフの紋章じゃねぇか……」


 グレンデルが呟いた。


 ベリーが震える声で言う。


「これ……冬吾と、クラウドさんの……友情そのものが形になってる……」


 武器の名が表示される。


【LR 約束の剣 二つの誓いが重なるとき、その刃は全ての虚無を断つ。】


 冬吾はしばらく言葉を失っていた。

 やがて、そっと剣に触れる。


「……直哉。こんな形で……応えてくれるとか……」


 笑いながら、少しだけ涙がこぼれた。仲間たちも、その奇跡の瞬間を黙って見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ