第三十七話 待ち受けていた者
狩りから戻ったレゾナンス一行は、久々に大成功と呼べる成果を抱えて拠点へ帰還した。木材の束、イノシシ型モンスターの解体肉、薬草、火打ち石。
久しぶりに、拠点のロビーには生活の匂いが戻った。
「今日は……ほんと、上手くいったな」
レンが背伸びをしながら言うと、ベリーが小さく笑った。
「うん。もう、こうやって普通に帰ってこられる日が来ないかと思ってた」
しかし、楽観できるほど状況は甘くはない。応急処置的に壊れた壁を立て直し、窓を塞ぎ、ささやかな火を囲んで食事をとった一行は、自然と円を作って座り込む。
最初に口を開いたのは、ベリーだった。
「……今日みたいな日が続けばいいって、思うわ。でも……バロン達が、またスカルドラゴンみたいなのを連れてきたら……それこそ終わりだよ」
その言葉の重さに、誰も否定できなかった。
ミサトは腕を組み、静かに頷く。
「確かに……あんなの、もう一度来られたら流石にきついね」
「となれば、結論はひとつだろ」
グレンデルが地面に突き立てた斧の柄を握りしめる。
「……早く叩くしかない。アイツが準備を整える前に」
コルトは不安げに指先をいじりながら、震えた声で言う。
「あ、あの……大神殿って、本当に、行けるんですか……?」
「行くしかないんだよ」
冬吾が短く、だが覚悟のこもった声で言った。
「もう逃げ場はねぇ。なら先に潰す。それだけだ」
沈黙が落ちた。しかし、その沈黙は恐怖ではなく、決意を固める時間だった。
その夜、一行は見張りを交代しながら、久しぶりにまともな睡眠をとった。いつまた、バロンの気まぐれが襲いかかってくるかわからない。眠りは浅く、夢見は悪い。それでも明日を生きるために眠った。
そして翌朝。
夜明けの薄光が大地を照らすと同時に、レゾナンス七名は立ち上がった。
「行こう」
ベリーが先頭に立つ。
「中央金大区画、大神殿へ」
ミサトが剣を背負い直す。
「バロンを……倒すために」
ネロが短く頷いた。
七つの影が、崩れた大地を踏みしめながら、中央の巨大区画へ向かう。そこには、バロンと、彼の中に潜むリサージュがいる。
すべてを終わらせるための旅が、いま始まった。
道中は、不穏なほど静かだった。やがて特に問題もなく、一行は中央金大区画へとたどり着いた。
中央金大区画その最奥にそびえる大神殿は、まるで金属と骨で組まれた巨大な墓標のようだった。扉は開きっぱなしで、内部は濃い瘴気が渦巻いている。
「……行くわよ、みんな」
ベリーの声に、一行は頷き、覚悟を決めて武器を握る。そして七人は慎重に足を踏み入れた。
次の瞬間、祭壇の前に立つ影が、ゆっくりと振り返る。
枯れた皮膚。紫紺のローブ。無数の死霊石をぶら下げた杖。
上位モンスター・ネクロマンサー。
「……リサージュ様の、敵だな?」
しわがれた声が響いた瞬間、黒い霧が沸き上がり、床から無数の死霊兵が這い出してくる。
「来るぞっ!」
レンが身構えるより早く、死霊達が群れをなして突撃した。ミサトが剣を振り抜き、グレンデルが大斧を振り下ろす。ネロとベリーは背後から援護し、白い光が連続して死霊の頭蓋を弾く。
混戦の中、冬吾はふと気づく。
「……あれ? 俺、狙われてねぇ?」
死霊達は冬吾のすぐそばを通り抜け、他のメンバーへ向かっていく。
足元を見る。その脚には、この世界に来た時に引いた、新規ボーナス UR装備10連ガチャから出た、死霊使いの脚絆。
(死霊に気づかれない……死霊属性からの敵対値が低いってわけか)
冬吾は静かに息を潜め、気配を殺しながらネクロマンサーへと忍び寄った。
あと少し、あと一歩、コイツを落とせば全てが止まる。
だが、気づかれた。
「そこかァッ!」
ネクロマンサーの杖から、白青の雷撃が閃いた。
逃げられない距離。
「……行くしか、ねぇだろっ!」
冬吾は歯を食いしばり、雷撃をまともに胸で受けながら突っ込んだ。
皮膚が焼け、視界が白く染まる。
しかし足は止まらない。
悪魔殺しのナイフが、冬吾の背中の反動と共に、ネクロマンサーの腹へ深々と突き立てられた。
「ぐ、ぶ……が……ッ……!」
悪魔属性の本体が裂かれ、ネクロマンサーは崩れ落ちる。呼び出されていた死霊達は主を失い、一斉に黒い砂となって消えた。
「冬吾さんッ!!」
コルトが駆け寄り、急いで治癒魔法をかける。光が冬吾の焦げた皮膚をじわりと繕っていく。
「おまえ……!」
ミサトが駆けつけるや否や、怒り混じりの声で叫んだ。
「その雷龍の手甲がなければ、確実に死んでいたぞ!」
冬吾は焼け焦げた手袋を見下ろし、薄く笑った。
「……ああ。……俺の装備が、たまたま刺さっただけだな」
生き延びた実感が遅れて胸に湧く。
しかしまだ、大神殿の奥にはバロンがいる。
これしきで立ち止まっていられなかった。




