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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
最終章 終わりへと向かう物語

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第三十六話 もしもバロンを倒したら

 拠点に戻ると、焼け残った建物の影が黒い爪痕のように並んでいた。まだ煙の匂いがわずかに漂っている。


 ベリーは震える指で、サーバー総合力ランキングのウィンドウを開いた。


「……っ……」


 画面には、サオリんの名前が灰色に……


「いやだ……サオリん……も……」


 ベリーの喉の奥から声が漏れた。ミサトがそっと背に手を置く。


「ベリー……見なきゃよかったかもね。でも……現実だから」


 グレンデルも黙って画面を見つめる。レゾナンスの一覧はさらに無惨だった。


グレンデル

ミサト

レン

冬吾

ベリー

コルト

ネロ


 七人。

 もう七人しかいない。


 冬吾は拳をぎゅっと握った。


「……残り七人……」


「七人じゃ……まともな探索も戦闘も……」


 コルトが呟き、ネロは唇を噛む。


「治癒・補助はできます……でも、私一人じゃ……前衛の負担が重すぎます……」


 レンが石を蹴るように地面を見た。


「これ……もう……詰んでるんじゃねぇの……」


 その言葉に、誰も否定できなかった。

 スカルドラゴンを倒したのに報酬はゼロ。消費した回復薬、食料はもう底が見えている。死者は増え、拠点は半壊し、守る者もいない。


 そして、七人。

 七人では、何をしても戦力が足りなかった。


 ミサトが深く息を吸い込み、決断するように言った。


「……もう、留守番なんて言ってられない。七人しかいないなら、七人で全部やるしかない」


 冬吾が顔を上げる。


「全員で……食料調達に……?」


「うん。危険だけど……誰かを置いていったら、その誰かが死ぬ」


 言い切るミサトの声は、震えていたが真っ直ぐだった。グレンデルも腕を組みながら頷く。


「そうだな……七人なら、全員で固まって狩りに行った方がまだ安全だ。 この人数で分散なんてできるかよ」


 コルトも、ネロも、レンも、ベリーも、小さく頷いた。


 不安は消えない。

 恐怖も消えない。

 それでも行かなければ、本当に全滅する。


 冬吾が最後に、仲間一人一人の顔を確認し、静かに言った。


「……よし。行こう。食料を確保する。七人で……生き延びるために」


 七人は装備を整え、薄暗い森へ向かって歩き出す。


 薄く霧のかかった森の奥へと七人は足を踏み入れる。湿った土の匂い、遠くの鳥の声。戦闘の緊張は続いているはずなのに、どこか張り詰めた空気がゆるむ瞬間もあった。


 そんな中、レンがぽつりと言った。


「でもよ……」


 全員が振り返る。


「ナニかと思ったらまた妙なこと言い出すんじゃねぇぞレン」


 冬吾が呆れ顔で笑う。


「いやさ……単純な話なんだけどよ」


 レンは肩をすくめ、手にしたナイフを光にかざす。


「バロンさえ倒せば……もうビクビクせずに暮らせんじゃね?この世界に来て結構レベルも上がったし……アイツさえいなきゃ、案外……それなりに楽しく暮らせんじゃねぇの?」


 唐突な未来の話。だけど、その言葉は七人の胸に、少しだけ明かりを灯した。


「……楽しく、ね」


 ミサトが苦笑する。


「でも……わかるよ。バロンがいなきゃ、確かに……私たちは少し楽になれる」


 ベリーが小さく手を上げる。


「おっきな畑、もう一回つくりたい。今度は、レゾナンスみんなで世話して……いっぱい野菜とかできたら……いいな」


 その言葉に、コルトも微笑みをこぼす。


「私は……うん、魔力の研究をしたいです。元の世界じゃできなかった夢みたいなこと……この世界なら、できる気がして」


 ネロが少し照れたように眼鏡を押し上げる。


「じゃ、じゃあ僕は……!大規模なバフ魔法を開発したいです。七人全員を同時に強化できるような……そんなのが使えたら、もう二度と誰も……」


 ネロの言葉が詰まった。

 でも誰も続きを求めなかった。


 グレンデルが大きく笑った。


「俺は決まってる! でっけぇ家だ! でっかくて頑丈で……みんなで集まれるような、騒げる家を建てる。その前にバロンをぶっ倒すがな!」


「……いいね、それ」


 ミサトが腕を組む。


「じゃあ私は……戦闘班の隊長でもやるかな。 戦いたくてやるわけじゃないけど……みんなを守れるくらいには強くなりたいし」


 最後に、みんなの視線が冬吾に集まった。


「冬吾は……?」


「俺?」


 冬吾は後頭部をかいた。


「んー……ま、バロン倒したら……」


 少し考え、ぽつりと言う。


「……平和な村とか作ってみたいな。戦いじゃなくて……普通に暮らせる場所。ゲームみたいにさ、拠点レベルアップ!みたいな……くだらねぇようで、案外楽しいやつ」


 七人の間に、ふっと笑いが生まれた。

 ほんの一瞬だけ、恐怖の影が薄れた。


 ミサトが言う。


「いいじゃん、それ。全部、いいね。……だからさ。バロンを倒さなきゃね」


「倒そう」


 ベリーが拳を握る。


「七人で……絶対に」


 ネロが頷く。


「はい……七人で、生きて戻るために」


 レンがニヤッと笑い、ナイフをくるりと回す。


「だろ? 未来つくんのに……まずはあのクソ野郎ぶっ倒すだけだって!」


 グレンデルが豪快に笑う。


「バロンの野郎、待ってろよ!」


 七人の、明るい声が森に響いた。

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