第三十六話 もしもバロンを倒したら
拠点に戻ると、焼け残った建物の影が黒い爪痕のように並んでいた。まだ煙の匂いがわずかに漂っている。
ベリーは震える指で、サーバー総合力ランキングのウィンドウを開いた。
「……っ……」
画面には、サオリんの名前が灰色に……
「いやだ……サオリん……も……」
ベリーの喉の奥から声が漏れた。ミサトがそっと背に手を置く。
「ベリー……見なきゃよかったかもね。でも……現実だから」
グレンデルも黙って画面を見つめる。レゾナンスの一覧はさらに無惨だった。
グレンデル
ミサト
レン
冬吾
ベリー
コルト
ネロ
七人。
もう七人しかいない。
冬吾は拳をぎゅっと握った。
「……残り七人……」
「七人じゃ……まともな探索も戦闘も……」
コルトが呟き、ネロは唇を噛む。
「治癒・補助はできます……でも、私一人じゃ……前衛の負担が重すぎます……」
レンが石を蹴るように地面を見た。
「これ……もう……詰んでるんじゃねぇの……」
その言葉に、誰も否定できなかった。
スカルドラゴンを倒したのに報酬はゼロ。消費した回復薬、食料はもう底が見えている。死者は増え、拠点は半壊し、守る者もいない。
そして、七人。
七人では、何をしても戦力が足りなかった。
ミサトが深く息を吸い込み、決断するように言った。
「……もう、留守番なんて言ってられない。七人しかいないなら、七人で全部やるしかない」
冬吾が顔を上げる。
「全員で……食料調達に……?」
「うん。危険だけど……誰かを置いていったら、その誰かが死ぬ」
言い切るミサトの声は、震えていたが真っ直ぐだった。グレンデルも腕を組みながら頷く。
「そうだな……七人なら、全員で固まって狩りに行った方がまだ安全だ。 この人数で分散なんてできるかよ」
コルトも、ネロも、レンも、ベリーも、小さく頷いた。
不安は消えない。
恐怖も消えない。
それでも行かなければ、本当に全滅する。
冬吾が最後に、仲間一人一人の顔を確認し、静かに言った。
「……よし。行こう。食料を確保する。七人で……生き延びるために」
七人は装備を整え、薄暗い森へ向かって歩き出す。
薄く霧のかかった森の奥へと七人は足を踏み入れる。湿った土の匂い、遠くの鳥の声。戦闘の緊張は続いているはずなのに、どこか張り詰めた空気がゆるむ瞬間もあった。
そんな中、レンがぽつりと言った。
「でもよ……」
全員が振り返る。
「ナニかと思ったらまた妙なこと言い出すんじゃねぇぞレン」
冬吾が呆れ顔で笑う。
「いやさ……単純な話なんだけどよ」
レンは肩をすくめ、手にしたナイフを光にかざす。
「バロンさえ倒せば……もうビクビクせずに暮らせんじゃね?この世界に来て結構レベルも上がったし……アイツさえいなきゃ、案外……それなりに楽しく暮らせんじゃねぇの?」
唐突な未来の話。だけど、その言葉は七人の胸に、少しだけ明かりを灯した。
「……楽しく、ね」
ミサトが苦笑する。
「でも……わかるよ。バロンがいなきゃ、確かに……私たちは少し楽になれる」
ベリーが小さく手を上げる。
「おっきな畑、もう一回つくりたい。今度は、レゾナンスみんなで世話して……いっぱい野菜とかできたら……いいな」
その言葉に、コルトも微笑みをこぼす。
「私は……うん、魔力の研究をしたいです。元の世界じゃできなかった夢みたいなこと……この世界なら、できる気がして」
ネロが少し照れたように眼鏡を押し上げる。
「じゃ、じゃあ僕は……!大規模なバフ魔法を開発したいです。七人全員を同時に強化できるような……そんなのが使えたら、もう二度と誰も……」
ネロの言葉が詰まった。
でも誰も続きを求めなかった。
グレンデルが大きく笑った。
「俺は決まってる! でっけぇ家だ! でっかくて頑丈で……みんなで集まれるような、騒げる家を建てる。その前にバロンをぶっ倒すがな!」
「……いいね、それ」
ミサトが腕を組む。
「じゃあ私は……戦闘班の隊長でもやるかな。 戦いたくてやるわけじゃないけど……みんなを守れるくらいには強くなりたいし」
最後に、みんなの視線が冬吾に集まった。
「冬吾は……?」
「俺?」
冬吾は後頭部をかいた。
「んー……ま、バロン倒したら……」
少し考え、ぽつりと言う。
「……平和な村とか作ってみたいな。戦いじゃなくて……普通に暮らせる場所。ゲームみたいにさ、拠点レベルアップ!みたいな……くだらねぇようで、案外楽しいやつ」
七人の間に、ふっと笑いが生まれた。
ほんの一瞬だけ、恐怖の影が薄れた。
ミサトが言う。
「いいじゃん、それ。全部、いいね。……だからさ。バロンを倒さなきゃね」
「倒そう」
ベリーが拳を握る。
「七人で……絶対に」
ネロが頷く。
「はい……七人で、生きて戻るために」
レンがニヤッと笑い、ナイフをくるりと回す。
「だろ? 未来つくんのに……まずはあのクソ野郎ぶっ倒すだけだって!」
グレンデルが豪快に笑う。
「バロンの野郎、待ってろよ!」
七人の、明るい声が森に響いた。




