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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第六章 カイセイの物語

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第三十四話 また会おうぜ

 灰色の空の下。

 音も色も薄れたような、広い湖畔に、開成は立っていた。


「……ここ、どこだよ……」


 足元を見れば湖面が鏡のように光り、風のない空気が肌に触れる。生前の痛みは、まったくなかった。


「よう、開成」


 背中から声がした。


 振り返ると、静かな顔つきの男が石の上に腰を下ろしていた。ギルドマスターのクラウドではなく、素顔の直哉として。


「……直哉か」


「そうだよ。もう来たのか……」


 直哉は立ち上がり、開成から数歩の位置で止まる。


 ほんの一瞬、気まずい沈黙が落ちた。互いに言いたいことが多すぎて、整理できない沈黙だった。


 先に口を開いたのは、直哉だった。


「……開成。まずは……本当に悪かった」


 静かで、重く、誤魔化しのない声だった。


「お前を……あの事故に巻き込んだのは、俺だ。本来なら、俺一人が死んで終わるはずだった。お前まで……連れて来るつもりはなかった」


 開成は黙って聞いていた。


「止めるどころか、危ないなんて微塵も思わなかった。完全に俺の判断ミスだ。本当に……すまなかった」


 淡い霧の中で、直哉はどこか弱く見えた。

 しかし開成は、ふっと笑った。


「いや、それ……違ぇよ」


「……?」


「大丈夫だろ、行こうぜって言ったのは……俺だよ」


 直哉の目がわずかに揺れる。


「直哉が責任感じるのは、たぶん違う。俺が止めなかったどころか、余裕っしょって先に言ったんだ。だから……巻き込んだとか、気にすんな」


 開成は鼻をこする。


「てか、お前だけ悪者みたいなの……ムカつくし」


 直哉は、少しだけ笑った。それは、生前ほとんど見せなかった、年相応の柔らかい笑みだった。


「お前は……強いな、開成」


「強くねぇよ。ただ、ダチを一人で責めさせたくねぇだけだ」


 湖面に二人の影が揺らぐ。


 しばらく、二人は座って水面を眺めていた。生きていた頃には絶対に共有しなかった、静かな時間。


「なぁ直哉」


「ん?」


「向こう……まだヤバいよな」


「ヤバいだろうな。リサージュに乗っ取られたドラゴンもいるし、戦いは続く」


「……そっかぁ。俺、もう行けねぇの……なんか悔しいな」


「それでも、お前は向こうで生きた。仲間のために死んだ。それは……誰にも奪えないお前の物語だ」


 開成は、少し照れたように横を向いた。


「……お前にそう言われると……なんか救われるわ」


 直哉が立ち上がる。


「そろそろ時間だ」


「そっか……」


 開成は湖の奥から差す光に目を細める。


「直哉」


「なんだ」


「……あの世界でさ。お前のギルドに入れて……良かった」


「俺もだよ、開成」


 直哉が手を差し出す。開成も、その手をしっかりと握った。


「じゃあな。 お互い……来世でやり直そうや」


「あぁ、また会おう。 生まれ変わっても、どっかで必ず」


 手を離し、開成は光の方へ歩き出す。

 後ろから直哉の声が届いた。


「お前を巻き込んだこと、忘れない」


 開成は振り返らず、手をひらひらと振った。


「だから言ってんだろ。 気にすんなって、直哉」


 やわらかな光の中に、開成の姿がゆっくりと溶けていった。


 そして静寂が戻る。


 ここは死者の世界。

 もう戻ることはない。

 けれど、二人の間にあったわだかまりだけは確かに消えていた。


ーーー 第六章 カイセイの物語 完 ーーー

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