第三十三話 VSスカルドラゴン
炎に包まれた拠点の外。
黒い煙が夜空へ昇り、熱で空気が揺らめく。
その中心で、スカルドラゴンが咆哮した。
「グォォォォォン!!」
骨だけの顎が開き、黒煙を吐き散らす。
リサージュの魔力が絡んだその体は、普段より明らかに巨大で、骨の隙間から黒い糸が脈打っていた。
「全員、戦闘態勢ッ!!」
カイセイが剣を構え、血を吐きながら前へ躍り出る。
「くそっ……サオリんを……連れていきやがって……!!」
スカルドラゴンの尾が地面を横薙ぎに砕く。
「避けろッ!!」
冬吾とレンが左右に跳び、刃を投げ込む。刃が骨の関節に刺さるが、黒い糸が内側から弾き返した。
「全然効かねぇ……っ!」
「前より硬い……リサージュの魔力増強だ!」
ベリーが歯噛みしながら火球を放つ。
「ファイアランス!!」
火の槍がスカルドラゴンの顔面に直撃。炎が骨を赤く染めるが、わずかにヒビが入っただけ。
「効くには効く……」
スカルドラゴンが口を大きく開く。赤黒い魔力が喉奥で蠢く。
「来るぞ! ブレスだッ!!」
「ネロ、ヘイスト!!」
「はいッ! ヘイスト・オール!」
時間が伸び、身体が軽くなる。全員が一瞬で左右へ散開した。
直後、地面がえぐれるほどの黒炎ブレスが放たれる。
「うおおおおっ!? まじかよこれ……!」
「冬吾! そっち回ったぞ!!」
「分かってる!!」
冬吾が黒炎をスレスレで避け、懐に飛び込みナイフを突き立てる。レンも反対側から同時に斬り込んだ。
その二人を守るようにミサトが剣を振り下ろす。
「下がれッ!! 私が押し返す!!」
スカルドラゴンの頭部から火花が散る。冬吾とレンが距離を取り、ミサトが剣を深く突き刺した。
「この……! サオリん返しなさいよッ!!」
しかし、骨が締まり、剣を噛み砕こうとしてくる。
「っ──が……!」
「ミサトッ!!」
グレンデルが咆哮しながら斧を叩きつけ、頭部を強引に割り込ませた。ミサトの剣が解放される。
「恩に着る!!」
「礼はあとだ!! こいつ……通常の三倍は硬ぇ!!」
スカルドラゴンが再び尾を振り下ろす。
「下がれぇッ!!」
カイセイが跳び、尾を剣で受け止める。
火花が散り、地面が割れる。
「くそっ……重てぇぇぇっ!」
コルトの治癒が響く。
「ヒール・サークル!! みんな、動ける人だけ……!」
温かな光が広がるが、拠点全域が炎のため、コルト自身も息が荒い。
「ご、ごめんなさい……魔力が……!」
「いい、無理すんな!! 回復はこれで十分だ!!」
ネロがディレイを発動する。
「動き止めます!! 今のうちに体勢を整えて!!ディレイ・ショック!!」
空間が一瞬ねじれ、スカルドラゴンの動きが鈍る。
「今だベリー! 全力で!!」
「任せてッ!! ファイアストーム!!」
紅蓮の炎が竜を包み、ようやく大きな亀裂が骨に入った。
「いけるっ……!?」
「いや……まだだ!!」
冬吾が叫ぶ。黒い糸が、竜の骨の隙間から血管のように浮き出し、亀裂を修復し始めた。
「チートかよ!!」
「リサージュの魔力が……自動回復してる……!」
「だったら……壊しきるしかねぇ!!」
カイセイが剣を構え、足に力を込める。
「グレンデル!! ミサト!! 前行くぞ!!」
「おう!!」
「わかった!!」
カイセイが正面、グレンデルが左、ミサトが右から同時突撃。
「冬吾、レン!! 眼窩狙え!!」
「了解!!」
「わかった!!」
二人のナイフが竜の目のくぼみに突き刺さる。
「ネロ!! 今!!」
「ヘイスト!!」
「ベリー!! 撃て!!」
「うおおおおおおっ!! メガフレアアロー!!」
七本の火矢がスカルドラゴンの頭部に突き刺さった。
骨が砕け、竜がぐらりとよろめく。勝機が見えた、その瞬間。
スカルドラゴンの尾が、ベリーに向かって鞭のようにしなる。
「……え?」
ベリーはまだ詠唱の硬直から抜けていない。
体が動かない。
「ベリーッ!!」
ミサトが叫ぶ。グレンデルが走る。冬吾とレンが跳ぶ。
しかし、誰も間に合わない。
尾が迫る──。
「……チッ!」
カイセイが動いた。剣を投げ捨て、全力でベリーに体当たりする。
「どけぇぇぇぇぇッ!!」
ベリーが横へ吹き飛ばされる。
次の瞬間、尾がカイセイの腹を貫いた。
「……っ……!」
空気が震えるほどの衝撃。
カイセイの背中から血飛沫が弧を描く。
「カイセイィィィィィ!!!!」
ベリーの叫びが夜を裂いた。
カイセイの体は地面に叩きつけられ、そこから動かなくなった。
スカルドラゴンが振り払うように尾を抜くと、カイセイの体はぐらりと揺れ、血の柱が地面に散った。
「カイセイ!! カイセイッ!!」
ベリーが駆け寄る。膝から崩れ落ち、震える手で彼の肩を揺さぶる。
「……バカ……なんで、なんで……!」
カイセイは荒い呼吸をしながら、血が泡となって口元に浮かんだ。
「……お前……避けられねぇ、だろ……馬鹿火力……」
「しゃべらないで! コルト!! 治癒を──」
「む、無理です……! その傷は……!」
コルトが泣きそうな声で首を振る。カイセイは、弱々しく手を上げてベリーの頬に触れた。
「……なぁ、ベリー……」
焦点の合わない瞳が、それでも彼女だけを見ようとしていた。
「今まで……散々やらかしたよな、俺……お前にも……みんなにも……嫌なことばっか言って……」
血が一筋、口元から落ちる。
「……でもよ……これで……ちょっとくらい……帳消しに……なった、かな……?」
ベリーの目から大粒の涙が零れる。
「なるわけない……!そんなので……そんなのでチャラになるわけない!!カイセイ生きて!!…っ……死んだら許さないッ!!」
リュウセイの口元が、かすかに笑った。
「……悪いな……」
ミサトも、グレンデルも、冬吾も、レンも、息を呑んで見守っている。炎の音だけが周囲を満たした。
「最後に……一つだけ……」
カイセイは空を見た。
「サオリん……取り戻して……くれ……あいつ……泣いてたから……」
声は風に溶けるほど弱くなった。
次の瞬間、力の抜けた手が地面に落ちる。
「カイセイ……?ねぇ……カイセイ……?」
呼びかけはもう届かない。静かに、カイセイの胸は動きを止めた。
誰も、言葉を発せず。スカルドラゴンの咆哮だけが、空しく夜に響いた。




