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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第五章 クラウドの物語

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第三十話 死闘の結末

 魔獣となったバロンは、咆哮とともに大地を揺らす。白い靄が渦を巻き、リサージュの意思がその身を満たした瞬間、理性は完全に霧散した。


「……来いよ、怪物」


 剣先を構えながら、エースは仲間三人へ短く告げる。


「前と違ぇのは、俺たちがバロンの動きを知ってるってことだ」


 かつてラウドたちを失ったあの地獄。

 あの時、唯一残った収穫……魔獣バロンは考えずに喰らうだけの怪物だと知ったこと。


 ならば。


「クラウド! ロイド! 動き読ませて撃ち込め!!」


 バロンは考えない。

 だからこそ、単純な直線攻撃しかしてこない。

 その直線に誘導し、遠距離で削る。それがエースの導き出した活路だった。


 クラウドの岩槍が地面から連続で突き上がり、ロイドの矢がその狭間を射抜く。

 ブライトが槍で牽制しながら、エースは最前線でバロンを誘導し続けた。


 しかし。


「がっ……!」


 勘一つで避けきれるはずのない一撃。魔獣の腕が薙ぎ払い、エースの脇腹が深々と裂かれる。


「エース!!」


「心配すんな……まだ、立てる!」


 血が滴り、視界は揺れる。

 それでも、エースの眼は折れていなかった。


 一瞬、脳裏によぎる。


 ラウドが。

 ケビンが。

 ミスタが。

 コンドルが──


 この世界で出会い、そして無慈悲に引き裂かれた仲間たちの姿が。


 胸の奥が熱くなる。

 痛みでも、悔しさでもない。


 背中を押す意思だった。


 ラウドの、叫びながら自分を逃した覚悟の重さ。

 ケビンの、最後まで冗談を言って場を和ませようとした笑顔。

 ミスタの、震える手で剣を握りしめていた横顔。

 コンドルの、仲間を守り続けた広い背中。


 そのすべてが、エースの胸に同時に響いた。


『まだ行けるだろ、エース』

『お前が倒れるなよ……!』

『頼む……あとは任せたぞ』

『お前なら、できる。絶対にだ』


 幻聴なんかじゃない。

 これは仲間が残した()()だ。


「……ああ、わかってるよ。見てろよ、みんな」


 ふらつく膝を押し上げ、エースは前へと踏み込む。


「オオオオオッ!!」


 叫びとともに剣を振り下ろす。

 その剣に宿ったのは、エース一人の力ではなかった。


 落ちた仲間、戦い抜いた仲間。

 全員の想いが重なった一撃。


 閃光のような斬撃が走り、

 バロンの右腕が凄まじい勢いで吹き飛んだ。


 同時に、後ろからロイドの短い叫び。


「エース!! 下がれっ!」


 高速三連射。

 矢が一直線に重なり一本の槍のように変貌し、鈍い音を立てて、バロンの左眼を貫いた。


 魔獣は凄まじい悲鳴を上げ、暴れ狂う。

 それは勝ちの流れに見えた。だが……


 暴走したバロンの反撃は、もはや避ける術もなかった。四人は一人、また一人と致命傷を受け倒れ込む。


「……ここまで、か……」


 地面に崩れたクラウドは、震える手でメッセージウィンドウを開いた。

 視界はぼやけ、文字が二重に見える。


 宛先は、冬吾。


『冬吾さん状況は、最悪ですバロンは強すぎる……ですが、右腕と左眼を潰しました』


 指が震え、最後の文章がにじむ。


『最後になるので……いいます。現実で冬吾さんを殺したのは僕です……ごめんなさい……』


 その言葉を打ち終えた瞬間、ウィンドウは霧のように揺らぎ消えた。


 そして、クラウドの視界も闇に沈んでいった。



 冬吾は、突然届いたクラウドからのメッセージを、何度も何度も読み返した。


 右腕破壊。左眼破壊。

 そして、四人の全滅。


「嘘……だろ……?」


 冬吾の呟きに、コルトが顔を青ざめさせる。


「ど、どうしたの……? なにがあったの……?」


 冬吾は震える声で皆を集め、メッセージの内容を読み上げた。


 拠点の空気が一変する。

 誰も息を飲むことすら忘れていた。


「エースたちが……全滅?」


「うそだろ……あの四人が?」


 ベリーは唇を震わせ、涙がひとすじ頬を伝う。


「……だから嫌な予感したんだよ……! やっぱり……!」


 カイセイは一歩も動けなかった。


 強がりばかりの男が、今はただの高校生の顔に戻り、拳を握りしめて震えている。


「……クラウドが……死んだってのかよ……」


 その目には、こらえきれない涙がにじむ。

 だが、冬吾の読み上げた最後のメッセージ。


 『現実で冬吾さんを殺したのは僕です』


 その意味だけは、誰にも理解できなかった。


「……殺した? クラウドが……現実の俺を……?」


 冬吾本人が最も困惑していた。

 すると、突然カイセイが叫んだ。


「わざとじゃねぇ!!」


 全員がカイセイを見る。

 涙と怒りで顔がぐしゃぐしゃだった。


「アイツは……直哉は……!」


 言葉を詰まらせながら、それでも吐き出すように叫んだ。


「飲酒運転の事故だ……!」


 拠点が静まり返る。カイセイは俯き、肩を震わせながら続けた。


「直哉……クラウドの本名な……あいつ、飲んで運転して…… 冬吾さんがタバコ吸ってた居酒屋に突っ込んじまったんだよ……!」


 ベリーが口元を押さえ、コルトは涙をこぼした。

 飲酒運転による殺人。

 絶対に許されることではない。


 冬吾は言葉を失っていた。


「なんで……今さら……?」


 リュウセイは泣きながら叫ぶ。


「バカだからだよあいつ!!冬吾さんに謝るチャンス、ずっと探してたんだよ……! でも言えなくて……ずっと後悔してて……! たぶん、最後だから……やっと言えたんだよ……!!」


 拠点に嗚咽が響く。


 冬吾は拳を握りしめ、ゆっくりと空を仰いだ。

 クラウドの最期のメッセージが胸に刺さったまま、抜けない。


「クラウド……いや、直哉……お前……そんなこと……抱えてたのかよ……」


 その朝、誰も動けなかった。


 エースたちの死。

 バロンの脅威。

 そしてクラウドの最後の懺悔。


 あまりにも重すぎる現実が、拠点全体を押し潰していた。


ーーー 第五章 クラウドの物語 完 ーーー

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