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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第五章 クラウドの物語

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第二十八話 決戦前夜

 夕暮れが山の端に沈む頃、火山組が拠点へ戻ってきた。


 荷車に積みきれないほどの戦利品。

 火山龍・インフェルノ・バハムートの巨体から採れた牙や爪、灼熱を帯びた鱗。

 それらは武器にも防具にも最高級の素材となる。

 さらに、強靭な“溶岩鉱”“竜核石”といった鉱石も大量に確保した。


「……すごい。これなら、当面の強化は全部いけるじゃないか」


 クラウドが感嘆の息を漏らす。

 誰もが満足げに疲れを滲ませていた。火山は過酷だが、そのぶん成果は圧倒的だった。


「肉も大量だよー! しばらくごちそう続きだね!」


 ミサトが笑って肉塊を掲げると、周囲にも明るい声が広がる。本来ならば、喜びと達成感に包まれた帰還になるはずだった。


 だが、拠点が視界に入った瞬間、全員の表情が固まった。


 扉の前にロイドが立ち尽くしていた。

 いつもの冷静な瞳が揺れている。


「ロイド? どうかし――」


 クラウドが近寄るより早く、ロイドはかすれた声で言った。


「……コンドルが、やられた」


 隊の空気が、一瞬で凍り付いた。


「嘘……だろ?」


 エースが呆然と呟く。

 ネロは真っ赤に腫れた目でこちらを見つめていた。誰よりもコンドルを兄のように慕っていた彼の姿に、仲間たちは事態の重さを悟る。


「エースさんの姿をした何者かが来たんです……」


 ネロの声が震える。


「僕……止めたのに……でもコンドルさんが、近づいちゃって……」


 その先は言葉にならなかった。


 ブライトが拳を握りしめ、沈痛な声で続ける。


「姿も、声も、癖も……完全にエースだった。あれはもう、真似の域じゃない」


「……内部に入り込まれたってことか」


 クラウドの低い声に、誰も否定しなかった。

 コンドルの名前欄は、もう灰色だ。


 火山で得た大量の素材の輝きが、まるで別世界の出来事のように色を失っていく。


「くそ……なんで、なんでコンドルなんだよ……!」


 エースが拳を壁に叩きつける。

 その腕が震えているのは怒りか、悔しさか、恐怖か。


 クラウドは目を閉じ、静かに言った。


「……みんな。今日は戦利品の整理は後にしましょう。まずは、コンドルの弔いを」


 仲間の誰もが、深く頷いた。


 火山での大成功……その喜びは、コンドルの死という現実によって、無惨に消し飛ばされたのだった。


 深夜。拠点の灯りが落ち、ほとんどの仲間が眠りについた頃。


 ただひとり、エースだけが起きていた。


 装備棚を開け、静かに剣を磨き、ポーションを数え、腰袋へ詰めていく。

 動きは無言だが、その表情には明確な“殺意”が宿っていた。


 コンドルの仇を討つ。


 その一心だけが、エースを動かしている。


「……エース」


 背後から声がした。

 振り返ると、ブライトとロイドの二人が入口に立っていた。


「何をしようとしてるか……言わなくてもわかる」


 ブライトが腕を組んで言う。

 ロイドも静かに頷き、言葉を続けた。


「気持ちは痛いほどわかる。だが、今のお前が一人で行けば死ぬ」


 エースは目を伏せ、ゆっくりと答えた。


「……でもよ。許せるわけねえだろ。一人なら……誰に化けられても絶対騙されねぇ。俺が行くべきなんだよ」


「それでも、一人で行かせるわけにはいかねぇよ」


 ブライトが言い切る。

 ロイドも反対するために口を開こうとしたその時。


「……なら、僕も混ぜてください」


 三人が振り向くと、クラウドが影の中から静かに歩み出てきた。


「話は全部聞いていました」


 クラウドはエースの前に立ち、真っ直ぐにその目を見る。


「エースさんが行きたい理由はわかる。でも感情に任せた突撃は、仲間を二度殺すのと同じです」


「クラウド……」


 エースの拳が、怒りと悲しみで震えている。


「だけど誰かが行かなきゃいけないのも事実だ。バロンまでの道は、もう安全じゃない」


 クラウドは深く息を吸い、三人を見渡して続けた。


「作戦を立てます。前衛はエースさんとブライトさん。後衛はロイドさんと僕。少し距離を取って進む」


 そして、最も重要な条件を告げた。


「――何があっても、お互いの目の前には現れないこと。連絡は全て個人メッセージのみです」


 その場が静まり返る。


 ロイドが小さく息を飲み、ブライトが眉をひそめ、エースは言葉を失った。


「……それで、偽物を判別するのか」


 ロイドが呟くと、クラウドは頷く。


「偽物は、間違いなく姿を現します。だから、絶対に現れてはいけない。もし姿を見せたら、偽物。それでいい」


 エースは拳を握りしめ、強く頷いた。


「……わかった。それなら、行ける」


「よし。なら決まりだな」


 ブライトが剣帯を締め直し、ロイドも弓の弦を軽く鳴らす。


 クラウドは地図を広げ、中央金区間・バロンのいるエリアを指差した。


「目的地は、ここ。バロンの本拠地――中央金区間」


 深夜の拠点に、緊張が満ちていく。

 四人は言葉少なに装備を整え、それぞれの役割を胸に刻む。


 前衛には剣士エースと槍使いブライト。

 後衛には土魔法使いクラウドと弓使いロイド。


 互いに姿を見せず、メッセージのみで連携。

 偽物が混ざれば即座に判別できる、命を張った作戦。


 月が雲間から顔を出す頃、四つの影は静かに拠点を離れた。


 バロンの潜む中央金区間へ。

 コンドルの死の真相へ。

 そして、姿を奪う影との決戦へと。

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