第二十八話 決戦前夜
夕暮れが山の端に沈む頃、火山組が拠点へ戻ってきた。
荷車に積みきれないほどの戦利品。
火山龍・インフェルノ・バハムートの巨体から採れた牙や爪、灼熱を帯びた鱗。
それらは武器にも防具にも最高級の素材となる。
さらに、強靭な“溶岩鉱”“竜核石”といった鉱石も大量に確保した。
「……すごい。これなら、当面の強化は全部いけるじゃないか」
クラウドが感嘆の息を漏らす。
誰もが満足げに疲れを滲ませていた。火山は過酷だが、そのぶん成果は圧倒的だった。
「肉も大量だよー! しばらくごちそう続きだね!」
ミサトが笑って肉塊を掲げると、周囲にも明るい声が広がる。本来ならば、喜びと達成感に包まれた帰還になるはずだった。
だが、拠点が視界に入った瞬間、全員の表情が固まった。
扉の前にロイドが立ち尽くしていた。
いつもの冷静な瞳が揺れている。
「ロイド? どうかし――」
クラウドが近寄るより早く、ロイドはかすれた声で言った。
「……コンドルが、やられた」
隊の空気が、一瞬で凍り付いた。
「嘘……だろ?」
エースが呆然と呟く。
ネロは真っ赤に腫れた目でこちらを見つめていた。誰よりもコンドルを兄のように慕っていた彼の姿に、仲間たちは事態の重さを悟る。
「エースさんの姿をした何者かが来たんです……」
ネロの声が震える。
「僕……止めたのに……でもコンドルさんが、近づいちゃって……」
その先は言葉にならなかった。
ブライトが拳を握りしめ、沈痛な声で続ける。
「姿も、声も、癖も……完全にエースだった。あれはもう、真似の域じゃない」
「……内部に入り込まれたってことか」
クラウドの低い声に、誰も否定しなかった。
コンドルの名前欄は、もう灰色だ。
火山で得た大量の素材の輝きが、まるで別世界の出来事のように色を失っていく。
「くそ……なんで、なんでコンドルなんだよ……!」
エースが拳を壁に叩きつける。
その腕が震えているのは怒りか、悔しさか、恐怖か。
クラウドは目を閉じ、静かに言った。
「……みんな。今日は戦利品の整理は後にしましょう。まずは、コンドルの弔いを」
仲間の誰もが、深く頷いた。
火山での大成功……その喜びは、コンドルの死という現実によって、無惨に消し飛ばされたのだった。
深夜。拠点の灯りが落ち、ほとんどの仲間が眠りについた頃。
ただひとり、エースだけが起きていた。
装備棚を開け、静かに剣を磨き、ポーションを数え、腰袋へ詰めていく。
動きは無言だが、その表情には明確な“殺意”が宿っていた。
コンドルの仇を討つ。
その一心だけが、エースを動かしている。
「……エース」
背後から声がした。
振り返ると、ブライトとロイドの二人が入口に立っていた。
「何をしようとしてるか……言わなくてもわかる」
ブライトが腕を組んで言う。
ロイドも静かに頷き、言葉を続けた。
「気持ちは痛いほどわかる。だが、今のお前が一人で行けば死ぬ」
エースは目を伏せ、ゆっくりと答えた。
「……でもよ。許せるわけねえだろ。一人なら……誰に化けられても絶対騙されねぇ。俺が行くべきなんだよ」
「それでも、一人で行かせるわけにはいかねぇよ」
ブライトが言い切る。
ロイドも反対するために口を開こうとしたその時。
「……なら、僕も混ぜてください」
三人が振り向くと、クラウドが影の中から静かに歩み出てきた。
「話は全部聞いていました」
クラウドはエースの前に立ち、真っ直ぐにその目を見る。
「エースさんが行きたい理由はわかる。でも感情に任せた突撃は、仲間を二度殺すのと同じです」
「クラウド……」
エースの拳が、怒りと悲しみで震えている。
「だけど誰かが行かなきゃいけないのも事実だ。バロンまでの道は、もう安全じゃない」
クラウドは深く息を吸い、三人を見渡して続けた。
「作戦を立てます。前衛はエースさんとブライトさん。後衛はロイドさんと僕。少し距離を取って進む」
そして、最も重要な条件を告げた。
「――何があっても、お互いの目の前には現れないこと。連絡は全て個人メッセージのみです」
その場が静まり返る。
ロイドが小さく息を飲み、ブライトが眉をひそめ、エースは言葉を失った。
「……それで、偽物を判別するのか」
ロイドが呟くと、クラウドは頷く。
「偽物は、間違いなく姿を現します。だから、絶対に現れてはいけない。もし姿を見せたら、偽物。それでいい」
エースは拳を握りしめ、強く頷いた。
「……わかった。それなら、行ける」
「よし。なら決まりだな」
ブライトが剣帯を締め直し、ロイドも弓の弦を軽く鳴らす。
クラウドは地図を広げ、中央金区間・バロンのいるエリアを指差した。
「目的地は、ここ。バロンの本拠地――中央金区間」
深夜の拠点に、緊張が満ちていく。
四人は言葉少なに装備を整え、それぞれの役割を胸に刻む。
前衛には剣士エースと槍使いブライト。
後衛には土魔法使いクラウドと弓使いロイド。
互いに姿を見せず、メッセージのみで連携。
偽物が混ざれば即座に判別できる、命を張った作戦。
月が雲間から顔を出す頃、四つの影は静かに拠点を離れた。
バロンの潜む中央金区間へ。
コンドルの死の真相へ。
そして、姿を奪う影との決戦へと。




