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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第五章 クラウドの物語

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第二十六話 仲間割れ

 留守番組のいる拠点は、遠征組が出払ったせいでやけに広く感じられた。


 その静けさの中、ひときわ甲斐甲斐しく動いている影が一つ。


「よし……次は床の拭き掃除……!」


 コルトだった。

 小柄な体でモップを握りしめ、拠点の床を丁寧すぎるほど磨いている。


「コルト、次は料理も頼むわよ!」


 キッチンから、ベリーの遠慮のない声が飛んでくる。


「は、はいっ……! すぐに……!」


 ベリーは手伝っているようで、調味料をつまみ食いしたり、野菜をつついたり、むしろ邪魔をしている側だった。


「ちょっとアンタ! あんたも少しは手伝いなさいよ!」


 振り向いたベリーの視線の先では、冬吾がレンと和やかに会話していた。


「んあ? オレ? いや〜、料理はあんまり……」


「言い訳しないの!」


 ベリーの怒声が飛び、冬吾は微妙に目をそらす。


 一方、レンは笑いを堪えながら冬吾に声をかける。


「冬吾さん、さっきの話の続きだけど……この世界って、タバコとか酒って無さそうだよな」


「そうなんだよなぁ。たまに思うんだわ……この世界にもあればいいのになって」


「冬吾さんって、そういうの嗜むタイプなんだ?」


「まぁな。……言ってなかったが、オレ、ちょっとキックボクシングやっててさ。別に試合とか出るわけじゃねえけど……なんだかんだで十年以上続けてる」


「十年!?」


 レンの目がぱっと輝いた。


「やっぱり! 冬吾さんの動き、一般人のそれじゃなかったんだよ! いや〜、俺さ、空手やってたんだ! 初めて会った時から思ってたんだよ、絶対この人、ただ者じゃないって!」


「そ、そうか……?」


「嬉しいぜ! 格闘経験ある人、ここじゃ珍しいからな! あ、でも——」


 レンはふっと得意げに胸を張る。


「俺、酒もタバコもやらないけどね!!」


 冬吾は「あ、はい……」としか返せず、ベリーの怒号とコルトの慌てる足音が、静かな拠点に響き渡った。


 一方、森の奥へ向かう遠征組は、自然と三つの小さな“隊”に分かれて進んでいた。


 先陣を切るのは、いつも通り空気を読まない三人組。


「おーい、クラウド! 遅ぇぞ!」


 カイセイ、マキシム、グレンデル。

 全員が前だけを見て突っ込んでいくタイプで、周囲の警戒などという概念はほぼない。


「この森、魔物多いじゃねぇか。腕が鳴るぜ!」


 坊主頭に鋼の腕、ハンマーを肩に担ぐマキシムが陽気に笑う。


「いいねぇ、こういう野生の匂いは嫌いじゃねぇ」


 髭ともみあげがつながったワイルド系、斧のグレンデルも鼻を鳴らす。


 その真ん中を歩くリュウセイは、どこ吹く風とポケットに手を突っ込んだまま。


「ほら見てみろよ、俺達前線組の顔ぶれ。強そうだろ? 同じ側って感じじゃん」


 と、振り返りもせず自信満々に言い放つ。


 二人のマッチョは「だな!」「ああ、任せとけ!」と声を合わせて笑った。


 一方、中間距離にいるのは、慎重なタイプの面々だ。


 ブライト、ロイド、コンドル、エース、そしてヒーラーのサオリん。


「……あの三人、相変わらず前へ出すぎだ」


 ブライトが槍を構えながら眉を寄せる。


「まぁ、怪我をしたら私が回復するから……好きにやっていいと思いますけど……」


 サオリんは苦笑しながらも、目はしっかり前線組の背中を追っていた。


「エース、無茶はするなよ。前の件もあるんだ」


 コンドルが静かに声をかける。


「わかってる……だが、今日も何かあったら……絶対に逃さない」


 エースは剣の柄を一度強く握る。

 バロンという名前を聞くだけで、胸の奥がじりじり焼けるようだった。


 そしてその二つの隊の“真ん中”。


 前にも後ろにも、即座に駆けつけられる絶妙な距離を保ちながら歩く三人。


 クラウド、中年の戦士・トッシー、女戦士ミサト、かつてエースが助け、そしてエースを助けた少年・ネロだ。


「……カイセイ達、気にしてないように見えて、逆に危ねぇよなあいつら」


 トッシーが大剣を背負い直しながらぼやく。


「ほんとだよ。敵が出た瞬間、こっちもカバーに走らなきゃじゃん。特にあの坊主、突っ込みすぎ」


 ミサトは溜息をつきつつも、慣れた足取りで周囲を観察していた。


 クラウドは静かに頷く。


「……どっちにも届く距離を保っていれば、大丈夫です。前も後ろも、何かあれば僕らが動く」


 そう言いながらも、心の奥底では別の不安が渦巻いていた。


(……バロン。本当に、近いうちにまた現れる気がする)


 森の奥は薄暗く、湿った土の匂いが強い。

 高い枝の上からは、時折獣の低い鳴き声が聞こえる。


 緊張と油断が入り混じった隊列のまま、遠征組は森の深部へと進んでいった。


 森の奥へ入り始めたその時だった。


 もわ…っ


 足元から這い上がるように、冷たい霧が突如として広がり、視界が一瞬で白く染まった。


「なんだ……!? この霧!」


 ブライトが咄嗟に槍を構えるも、すぐに味方の姿がかき消えていく。


「クラウド!? サオリん!? おい、返事しろ!」


 エースの声も空へ溶けていく。


 次の瞬間には、隊は完全に三方向へ分断されていた。


「ちっ、視界悪ぃ……! クラウド、どこだよ!」


 カイセイが舌打ちし振り返った時だった。


「あれ?」


 霧の向こうに、人影が一つ。

 近づいてきたその姿は、女戦士・ミサトだった。


「ミサト? なんだ、あんたらもこっちに……」


 グレンデルが斧を担ぎながら声をかける。


「他の連中はついてきてるのか?」


 距離を縮めたその瞬間。


 ヒュッ


 ミサトの剣が霧を裂き、まっすぐグレンデルの首筋へ振り下ろされた。


「——ッ!?」


 グレンデルは反射神経で上体をそらし、刃は首をかすめて地面を抉る。


 血が一筋、グレンデルの首から流れ落ちた。


「テメェ!! 何しやがる!!」


 マキシムが怒号を飛ばし、リュウセイも咄嗟に距離を詰めようとする。


 その瞬間、霧が一気に晴れた。


 白い帳が吹き飛び、森の木々が姿を取り戻す。


 そこにいたのは、クラウド、トッシー、ミサト、そしてネロ。


 ミサトは剣を構えたまま、困惑した表情でグレンデルを見る。


「……は? なんで斬りかかられてんの、私?」


「ざけんな、てめぇさっき——!!」


 グレンデルが詰め寄るが、ミサトは本気で意味がわからないという顔だ。


「私はクラウドさん達とずっと一緒にいたよ!? ここを動いてない!」


「嘘つく気か!! オレの正面に現れて……!」


 マキシムも怒りで顔を紅潮させる。


「ふざけんなよ!! もう少しで殺されてたんだ!!」


 そこへカイセイがクラウドに詰め寄る。


「おいクラウド。どういうつもりだ。仲間に化けて襲ってくるとか、何の冗談だ?」


「僕らも知らない……! ミサトさんはずっとそっちにいた。霧が出た瞬間からずっと!」


 クラウドは必死に訴える。


 トッシーも、ネロも同じく頷く。


「こっちには誰も来てねぇ。ミサトもずっと目の前にいたぞ」


 ミサトは混乱したまま剣を下げた。


「……本当に、そっちに()がいたの? 姿形、そのまま?」


 グレンデルはまだ息が荒い。


「……ああ。顔も体格も声も、お前だった。間違えるわけねえ」


 リュウセイが周囲を睨みつけながら低く呟く。


「……まさか、この森。化ける魔物でもいるのか?」


 その言葉に、全員が無意識に武器を握り直した。


 サオリんが慌ててグレンデルの首元を見て「浅い……けど、これ本気で斬るつもりの角度だよ」と呟く。


 先ほどの霧の異常さと、味方に化けた“何者か”の奇襲。

 そして、誰にも気づかれぬまま接近できる存在。


 クラウドは背筋を冷たくしながら呟く。


「……何かが、僕たちを分断しようとしてる」


 ネロは霧の匂いを嗅ぐように鼻を動かし、

「……違う気配」とだけ呟いた。

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