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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第五章 クラウドの物語

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第二十五話 ほっときゃよくね?

 拠点の広間。

 簡素な木の机を囲んで、レゾナンスの二人・槍使いのブライトと初老の弓使いロイド、そして元この世界から抜け出しませんか?のコンドルとエースが座っていた。


 ロイドが細い目を開け、静かに声をかける。


「バロンとの交戦について、話してくれないか?」


 コンドルの表情にいつもの真面目さではなく、焦燥の混じったものだった。


 代わりにエースが、短く切り出す。


「……最悪だった」


 エースが拳を握る。


「バロンは、人の姿に戻っていたが、前より明らかに強くなってる。俺たちは二人失った。……バロンの仲間らしき女を、仲間のケビンが切りつけた瞬間、奴の気配が変わったんだ……ケビンの首をひきぬいて、近くにいたミスタの頭を、引き抜いたケビンの頭で潰しやがった。まるであの時の、()()()()の時の圧力だった」


 室内が静まり返る。


「……仲間らしき女?」


 ブライトが呟く横で、ロイドはプレイヤー総合力ランキングを開いていた。


「コイツか、バロンを除くレゾナンス未所属の人物……まこっち」


 コンドルとエースは顔を見合わせる。


「……いや、あの時バロンはリサージュと呼んでいたはずだ」


「名前を変えた……のか?」


 重い空気の漂う拠点の広間に、遅れて足音が響いた。


「……なんだよ、まだやってんのか?」


 カイセイが腕を組んで入ってくるなり、話の流れを聞くや否や鼻で笑った。


「そんな危ねぇやつ、ほっときゃよくね? 関わるから死ぬんだろ。自業自得じゃん」


 その場の全員が、一瞬だけ言葉を失った。


 沈黙を破ったのはエースだった。椅子を軋ませて立ち上がり、カイセイを射抜くように睨む。


「放っておけるわけねぇだろ」


 拳を強く握りしめ、震わせながら言う。


「ケビンも、ミスタも……仲間なんだ。前にやられたラウド達だって……俺は絶対にバロンを許せない。必ず仇を討つ」


 エースの声は怒りよりも悔しさで震えていた。


 コンドルも深く息をつき、静かに言葉を継ぐ。


「エースの感情論だけじゃねぇ。……あいつはこの世界の脅威になる。放置すればするほど強くなる。レゾナンスが動かなくても、いずれどこかで、奴の方から俺たちを殺しにくるかもしれん」


 ロイドがその言葉に頷く。


「それに……魔獣形態に戻る兆候があるとなると、放置は危険だ。あの圧力を再現できるようになったなら、いずれ誰も手をつけられなくなる」


 ブライトが追い打ちをかけるように呟く。


「いつか……ではなく、近いうちかもしれん」


 場の空気は、カイセイの軽口を完全に飲み込み、鋼のような緊張に変わっていく。


 だがカイセイだけは肩をすくめたままだ。


「へぇ……まあ、勝手にやれよ。ただし俺は巻き込まれねぇからな。危険物処理はそっちで頼むわ」


 カイセイは広間を出ると、舌打ちしながら廊下を歩き、ふと視界の先にクラウドの姿を見つけた。


 クラウドはギルマスとしての務めを果たすように、合併してきたメンバー。


 ハンマー使いのマキシムと、斧使いのグレンデル。


 彼らと談笑していた。


 マキシムは坊主頭の厳ついマッチョ。胸板が分厚く、金槌のような拳を持つ男。


 グレンデルはヒゲともみあげが繋がった、獣じみたワイルド系。笑えば牙のような白い歯が覗く。


 カイセイは近づくなり、口の端を上げた。


「お、なんだよクラウド。デカいの二人と仲良くやってんじゃん。いいなぁ……俺たち同じ側って感じだな」


 マキシムが豪快に笑い、腕組みして胸を張る。


「おう、カイセイ。クラウドから聞いとるぞ。力は正義だ、仲間に強い奴が増えるのは歓迎よ」


 グレンデルも斧の柄を軽く叩きながらニヤリと笑った。


「で、なんだ? さっきバロンの話が聞こえたが……あんな奴ほっときゃいいんだよ。来たら返り討ちだ。俺の斧で頭でも割ってやる」


 マキシムも同調するように、地面をドンと踏み鳴らす。


「そうだそうだ。こっちは三人でも五人でも関係ねぇ。来た時に潰せばいい。それだけだろ?」


 カイセイは満足げに頷く。


「だよなぁ。ほら見ろクラウド。バロンなんざ気にするだけムダだって。来たらればいい。単純な話だ」


 しかし、その輪の中でクラウドだけは笑っていなかった。目元にかすかな影が差し、心の中で静かに思う。


(……そんな簡単な問題じゃない。バロンは、ただの敵じゃない。あれは変質している)


 胸の奥がひやりと冷たくなる。


 クラウドは誰にも気づかれないほど微かな声で呟いた。


「……俺は、嫌な予感がする」


 その呟きが届いた者は誰一人としていなかった。


 翌朝。


 拠点の空気はどこか張りつめながらも、各々が日常の作業に戻ろうとしていた。


 エースとコンドルを中心に、戦闘組は森へ食料調達の遠征に向かう準備を整えていく。

 マキシムとグレンデルも巨大な武器を担ぎ、出発前からやる気に満ちていた。


「んじゃ、行ってくるぜクラウド!」

「獣が出ても任せとけよ、片っ端から仕留めてやる!」


 二人の豪快な声が拠点に響く。


 その一方で、留守番組には冬吾、ベリー、コルト、そしてレン。


 コルトは小さな声で「がんばります……」と呟き、レンは壁際で腕を組んで全体を見渡すように立っていた。


 クラウドは彼らに向き直り、穏やかな声で言う。


「留守を任せるよ。何かあったら……すぐに僕にメッセージを飛ばして」


 レンが小さく頷き、冬吾は表情を引き締める。

 そして、遠征組がぞろぞろと森の方へ歩き出す。


 木々のざわめきとともに、拠点は少し静かになった。その静けさが、不思議とクラウドの胸に不安を落としていく。


(……何事もなければいいけど)


 そう思いながら、クラウドは小さく息を吐いた。

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