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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第五章 クラウドの物語

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第二十四話 俺たちはなぜこの世界に?

 カイセイは列へ戻る前、クラウドをじろりと見た。


 青みがかった髪、淡い光を反射するローブ、細い腕に握られた黄色く輝く杖。

 ゲーム世界特有の装備が妙に似合っていて、外見だけ見れば中性的で落ち着いた“魔術師”にしか見えない。


 ――だが。


 カイセイの口端が歪む。


「……にしてもさ」


 低い声で、周囲には聞こえないように。


「お前、喋り方キモくね? 何でオタクみたいなキャラやってんの?」


 クラウドの肩がピクリと動いた。


「な、何がですか? 僕は普通に……」


 語尾が妙に柔らかくて、無駄に丁寧。

 ギルドの中でもトップらしい振る舞い。

 生前の極悪コンビの雰囲気はカケラもない。


 カイセイは鼻で笑う。


「昔のお前、そんな喋りじゃなかったよな。肩で風切って歩いて、教師も黙らせてよ。今のそのキャラ、マジで鳥肌立つんだけど」


「……この方が、動きやすいだろ。あの頃みたいな振る舞いなんて、ヘイト増やすだけだろ?……下手すりゃ殺されんだぞ?」


「こじつけんなよ、罪から逃げるためにクラウドって役に隠れてんだろ?」


 クラウドの息が止まった。


「違うーー」

「震えてるぞ、声」


 カイセイはゆっくり距離を取る。


「まぁそのキャラでいればいいよ。俺はちゃんと見えてるけどな。あの()()が」


 クラウドは、止めようとした言葉を喉の奥で噛み潰すしかなかった。



 ダンジョン入口の暗がりを抜け、湿った岩肌が続く洞窟へ進む。

 留守番の数名を拠点に残し、主戦力の大半が素材と食料の確保に動いた今回の遠征。

 その中でもクラウドとカイセイは、前に構えるだけで周囲の緊張が変わる。


 ひとつ魔物が飛びかかれば、クラウドが即座に詠唱し、カイセイが回り込む。

 避け、斬り、止めを刺し、爆ぜる火花の直前にクラウドが障壁を張る。


 あの日々の延長のように。悪友の呼吸が、体に染みついているかのようだった。


「すご……」

 ぽつりと、後方で炎使いのベリーが呟く。


「クラウドさんとカイセイさん、めっちゃ息合ってるじゃん。ていうか、二人ってまさか知り合いとか?」


 クラウドが返答しようと杖を下ろした、その瞬間。


「……なんだこのオタクみてーなガキ。気安く声かけんなよ、キモイから」


 カイセイがこちらを振り返りもせず、吐き捨てた。


「は……?」


 ベリーの表情が、理解できない、怒り、傷つき、全部の感情が一気に爆ぜるように揺れた。


「なっ……なにあいつ……!?」


 顔を真っ赤にし、今にも泣き出しそうに唇を震わせながら。


「もういい!!」


 足音を響かせ、背中を向ける。その背を見送りながら、カイセイは腹を抱えて笑い出した。


「ッハハハ!! チョロすぎだろあいつ!! 顔真っ赤にしてよ! お前んとこのギルド、あんなのしかいねぇのかよ!」


「……言い方ってもんがあるだろ」


 クラウドが視線を伏せると、


「は? 昔よりマシじゃん。あいつらビビらせとけば余計な詮索もしねぇよ」


 カイセイの笑いは止まらない。

 クラウドは、その軽さの裏に隠れた“あの日”の事故の影を、少しだけ見た気がした。


 洞窟の分岐を抜けた先で、ベリーは冬吾とコルトに飛び込むように駆け寄った。


「とうごっ!! コルトぉ!! きいて!! あいつ!! あのカイセイってやつ!! 私に向かって!!」


 勢いのまま、怒りと悔しさの混ざった早口で悪口を連射する。


「キモいとかオタクとか言ってきてさ! 意味わかんない! 失礼! 無理! あいつ絶対性格悪い!! あんなの仲間にするとか信じられない!!」


 涙目で震え、肩を怒らせながら。


 冬吾は苦笑し、コルトは不安そうに目を瞬かせる。


「……ベリー、まず落ち着こ?」

「はぁ、はぁ……ムリ……あいつだけはムリ……!」


 洞窟の奥からは、まだカイセイの笑い声が響いていた。クラウドはその音を背に、誰にも気づかれないように深く息を吐く。


 この世界でも、やっぱりカイセイは不良・開成のままなのか。


 ベリーが去っていき、洞窟の空気が静まった頃。

 二人で先行して歩きながら、カイセイがふと口を開いた。


「ところでよ……俺たち、なんでこんな世界に飛ばされたんだ? これがよくある“異世界転生”ってやつか?」


 雑に掻いた後ろ髪が揺れる。

 その声は軽いが、探るような気配が混じっていた。


「いや……」


 クラウドは杖をつきながら、低く答える。


「これは転生というより“転移”だな。生まれ変わりじゃなくて、元の身体が死んで、その瞬間にここへ来た……。 ログインした人たちは、サンドボックスウォーズを起動して、ログインするまでの間に死んだのがトリガーみたいだが……」


 そこまで言うと、カイセイが鼻を鳴らした。


「でも、俺たち……あの瞬間、携帯触ってなかったよな。ダウンロードはしてたけど、死ぬ時はゲームやってなかった」


「そうだな……」


「つか44人いたんだろ?最初。そんなタイミングよくこんなに死ぬか?」


 言葉が自然と曇る。


「あいつら、車の後ろにいた二人。この世界にいないってことは……生きてるんだろうな、きっと」


 カイセイは眉をしかめた。


「なんだよそれ……じゃあ、俺たちだけ取り残されたみてぇじゃんか」


 クラウドは答えない。


 洞窟の天井から、ぽたりと落ちた水滴の音が響き、

 二人の間に短い沈黙が落ちた。

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