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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第五章 クラウドの物語

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第二十三話 相棒との再開

 拠点のロビーに、軽い通知音が響いた。

 クラウドはぼんやりした頭を振り、メッセージウィンドウを開く。


『クラウド、話がある』


 胸の奥がざわついた。

 短い文章なのに、ただならぬ気配が滲み出ている。


「……どうしました?」


 送信すると、即座に新しいウィンドウが開く。


『レゾナンスとコンドルは正式に合併したい。

 この世界から生きて帰るために、力を合わせよう』


「合併……」


 クラウドは低く呟いた。


 コンドルは戦いより生存と調査を優先する現実帰還派。レゾナンスに加われば、戦力は大幅に増す。


 本来なら、朗報のはずだった。だがクラウドには、言いようのない胸騒ぎがつきまとっていた。


 合併当日、昼過ぎ。

 城塞ロビーには、見慣れない顔ぶれが整列していた。


 冬吾が一歩前へ出て、クラウドの表情を確かめる。


「ここまでお前がまとめてきたギルドだ。最後に確認する。……合併でいいんだな?」


「……必要だと思います」


 クラウドは頷いた。


 その瞬間、二つのギルド名はひとつに統合される。


 レゾナンス メンバー16名。

 バロンとリサージュを除く、このサーバーの全員がようやくひとつになった。


 だが、空気が微かに震えた。

 誰かの視線が、針のようにクラウドの背中を刺す。


 ゆっくり振り返る。


 一人の男が、じっとこちらを見つめていた。

 短く刈った黒髪。地味な学生のような顔。

 ただ、その瞳だけが濁り、深い淵の底に沈んでいる。


 男は、ほとんど聞き取れない声で囁いた。


「……よォ、直哉」


 クラウドの呼吸が止まる。


 冬吾もブライトも男を警戒してはいるが、何を言ったかまでは聞こえていないらしい。


 その男、カイセイは、影のように、他の誰にも悟られない動きで近づいてくる。

 肩に触れるか触れないかの距離で、口元だけが笑った。


「覚えてるよな? 忘れられねぇよな……直哉」


 横からコンドルが慌てて注意する。


「お、おいカイセイ。距離近すぎだろ。やめろって」


「別に挨拶しただけだよ」


 誰が見てもただの挨拶。しかしクラウドの耳に落ちた言葉は、鋭い刃だった。


「お前のせいで……俺は死んだんだよ」


「ここで言うな……」


「ここで言うからいいんだよ」


 カイセイは、耳打ちする恋人のように顔を寄せる。


「酔って運転して……ブレーキ遅れたよな? 俺がどうなったか……お前が一番わかってんだろ……直哉」


 冬吾が眉を寄せる。


「おい、何話してんだ? 距離近ぇぞ」


「何でもないですよ、冬吾さん」


 カイセイは日常の笑顔のまま言い捨て、列の端へ戻っていった。


 クラウドだけが震えていた。

 肩に残った感触が消えない。


 レゾナンスに紛れ込んだのは、新しい仲間ではない。封じ込め、二度と触れることはないと思っていた過去そのもの。



 高校三年の直哉と開成かいせい

 誰もが一目置く不良コンビだった。


 悪知恵で教師を煙に巻く直哉。

 喧嘩無敗、周囲を黙らせる開成。


 二人が歩けば通路が勝手に開き、

 生徒は目を逸らし、教師すら関わりを避けた。


「こいつ、直哉に話があるってよ」


「へぇ。だったらまず礼儀教えてやろうぜ」


 睨まれた生徒はすぐ逃げる。

 それが日常だった。


 放課後。

 今日も二人は取り巻きと繁華街へ向かう。


「よし直哉、稼ぐぞ」


「相手見て声かけりゃ落とせるって。簡単だよ」


 カツアゲ。

 直哉は狙いを定め、開成は後ろで腕を組むだけ。それで十分だった。


「ありがとうございまーす。飲み代ゲット」


「上等だ」


 その夜。

 居酒屋の個室で高校生とは思えぬ馬鹿騒ぎが続いた。


「直哉、今日もキレてたな!」


「開成は立ってるだけで店員ビビってたぞ!」


 笑い声が飛び交い、深夜になった頃。


「そろそろ帰るか」


「直哉、車持ってきてんだろ?」


「親父のやつ。慣れてんだって」


「男だな直哉ぁ!」


 直哉は酔った友人三人を後部座席に押し込み、

 何の罪悪感もなく運転席へ座った。


 雨上がりの夜道は、光を反射して滑りやすかった。


「直哉、スピード出しすぎ!」


「こんくらい普通だっての!」


 それは一瞬だった。


「前っ! 直哉!!」


 横断歩道の端に人影。


 急ブレーキ。滑る車体。

 跳ね上がる何か。


 次の瞬間、車は制御を失い、建物の壁へ突っ込んだ。


 ガラスの砕ける音。

 悲鳴。血の匂い。


 直哉の視界は闇に溶けた。



 クラウドは息を呑んで目を開く。


 目の前には、あの日と同じ顔のカイセイが立っていた。


「他の二人、いねぇよな? …ってことは、生きてるんだろうな」


 リュウセイは乾いた笑みを浮かべる。


「ここに来てんのは、多分即死だった二人だけだ。……なぁ直哉。俺とお前だけ、だよ」


 その言葉は、背骨を冷たくなぞった。


「地獄の続きかよ、この世界は」


 カイセイの瞳に宿る光は、憎悪なのか、哀しみなのか。


 クラウドにはもう、判別すらできなかった。

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