第十五話 戦えるパーティ
ブライトとロイドが加入し、レゾナンスは六人になった。
洞窟の奥へ進むほど湿気は濃くなり、青光の鉱石は紫がかった色に変わっていく。
「……空気が違うな。モンスターも強くなるぞ」
ブライトが槍の石突を軽く床に当てながらつぶやく。冬吾がナイフを構え、前列に並んだ。
「いままで前衛は俺一人だったが……今日は心強いな」
「任せろよ。槍は集団戦でこそ輝くんだ」
ブライトが口角を上げる。
その後方には、弓を構えたロイドが静かに立っている。その眼差しは常に冷静で、すでに次の敵を見据えているようだった。
クラウドが全体を見渡しながら言う。
「前衛は冬吾さんとブライトさん。後衛は僕とベリーさん、ロイドさん。そしてコルトさんは補助魔法。……理想的な構成になりました」
ベリーは頷き、手のひらに火花を灯す。
(これなら……本当に戦えるパーティだ)
その時だった。
──ズズズッ……!!
地面が揺れ、洞窟の奥の暗闇から、巨大な影が三つ、這い出してきた。
「洞窟リザード三体! 気をつけて!」
冬吾が前へ飛び出し、二体の注意を引く。
残る一体はブライトへ一直線。
「来いよ!」
ブライトは低く構え、突撃してきたリザードの喉元へ、刃のように槍を突き上げた。
──ズバッ!
すさまじい貫通音。
リザードが悲鳴を上げる前に動きが止まった。
「早っ……!」
ベリーが思わず声を漏らす。
「これが槍の迎撃ってやつさ。ついでだ──」
ブライトは槍を引き抜き、柄の端で地面を強く突く。石突の衝撃で、周囲の砂利が爆ぜてリザードの足を止めた。
その瞬間──
「ロイドさん!」
「言われるまでもない」
低い声が重なった。
ロイドの弓がしなる。
三本の矢を指に挟み、一度に放つ。
──シュバババッ!
三本の矢がそれぞれ別のリザードの急所へ吸い込まれた。
一体は目、もう一体は喉、そして最後の一体は腹部を正確に貫通。
「……全部急所に?」
「年季だけはあるんでね」
ロイドが矢をつがえたまま軽く笑う。
ブライトの槍からこぼれた血が地面に落ちる頃には、すでに三体のリザードは動かなくなっていた。
「二人とも……すごい……!」
コルトが目を丸くする。
ベリーも同じ気持ちだった。
(この二人が入っただけで、前衛と後衛が戦術の形になってる)
「クラウドさん、後衛も準備万端よ」
「はい! 土壁、防御展開します!」
「フレイム・ショット!」
ベリーの火弾が障害物をすり抜け、逃げかけた残党リザードを焼き切った。
クラウドの土壁が味方の後衛を守り、ロイドの射線を固定する。
冬吾とブライトは壁のように敵を封じ、
コルトは彼らに補助魔法をかけていく。
「スピードアップ……! 冬吾さん、ブライトさん!」
「助かる!」
「いい補助だ!」
洞窟の奥へ進むほど、連携は滑らかになっていった。六人が六人とも戦い方を理解し、噛み合い始めていた。
(これなら……私たちは生き残れるかもしれない!)
ベリーは心の奥でそう感じた。
さらに奥へ進むと、大きな広間に出た。
中央には、黒い石でできた祭壇、その上に宝箱がひとつ。
「……罠の気配はない。開けてみるか?」
ブライトが槍で周囲を軽く叩き、ロイドが矢で天井を確認する。
クラウドが慎重に手を伸ばした。
──カチリ。
蓋が自動的に開く。
中には金色の光をまとった一本の杖が横たわっていた。
「これは……!」
ベリーが息を呑む。
「賢者の杖……! 上位レア装備よ!」
クラウドがうなずく。
「魔力の増幅、詠唱速度の短縮、補助魔法の効果延長……コルトさんに最適です!」
「えっ、わ、わたしに……!?」
コルトが、杖を抱えるようにそっと持ち上げる。
手にした瞬間、杖が彼女の魔力量を読み取ったのか、淡い光が彼女の全身を包んだ。
「コルトさん……すごく似合ってますよ」
「……ありがと……!」
その笑顔は、これまででいちばん自信に満ちていた。
「よし、帰還しよう。今日の収穫は大きい」
冬吾が剣を背負い直す。
ブライトもロイドも満足げに頷いた。
六人の影が青い光の中を進む。
新しい仲間。
強くなった仲間。
新しい装備。
絶望の数字「生存者26人」が重くのしかかる世界で
レゾナンスは、確実に力をつけ始めていた。
洞窟ダンジョンを脱出した六人は、沈みかけの夕日を背に拠点へ戻ってきた。
荷物は重い。だが、その重さが妙に心地よかった。
「……今日、めっちゃ集まったな」
冬吾が背負い袋を下ろしながら呟く。袋の口からは鉄鉱石、魔石、凝縮岩などがぎっしりと光っている。
「ふふ。こんなに石を持ち歩いたの、さすがに初めてです……」
コルトは賢者の杖を抱えたまま、どこか夢の中のような表情をしていた。
その杖は、宝箱の中に眠っていた古代装飾のロッド。魔力の伝導率が桁違いで、コルトが握った瞬間、周囲の空気が震えたほどだ。
「コルトさん、さっきのバフ……すごかったですよね」
ロイドが感心したように言う。
「はい……自分でもびっくりしました……。魔力が流れ込んでくる感覚が全然ちがって……」
「賢者の杖ってのは、補助特化には最高峰の装備だ。お前さんとは相性抜群だな」
ブライトが槍を肩に担ぎながら笑う。
クラウドも満足げに頷いた。
「みんな、本当にお疲れさま。素材も十分すぎるほど集まったし、今日から一気に拠点を強化します」
ベリーは荷物を下ろしながら、ふと周囲を見回した。
かつて寂しかったロビーも、今は六人の声でざわめいている。
(……なんだか、ギルドって感じがしてきた)
そんなベリーの胸の高鳴りに応えるように、クラウドが手を叩いた。
「では作戦開始。みんな、ボックスの素材を全部ここに出して!」
テーブルいっぱいに積み上がった鉱石と石材。
光沢を帯びた鉄鉱石の塊は武具にも使えるし、魔力の宿る魔石は防壁の結界強化にも利用できる。
「クラウド、壁ってどのくらい強化できそうだ?」
冬吾が聞くと、クラウドはにやりと笑った。
「城レベルでいけます」
「し……城ですか!?」
コルトが思わず声を上げる。
「素材が足りなくて無理だった箇所も、今日の分で全部作れる。土魔法で基礎を固めて、石材で二重の壁を作る。さらに魔石で結界の核を作れば、並の魔獣やプレイヤーじゃ突破できません」
ロイドが感心したように首を傾げる。
「クラウドって、守りの専門家って感じだな……」
「え、えへへ……。守るほうなら得意なんですよ」
「いや、今日の探索でわかったんだけどさ」
ベリーが声を上げる。
「守りだけじゃなくて、攻めもできるパーティになってきたのよ。冬吾とブライトの前衛、私とクラウドの中距離、ロイドの遠距離、コルトの補助、こんなにバランス良くなったの、初めて」
冬吾も同意するように腕を組んだ。
「これで……バロンが来たとしても、ただ逃げ回るだけにはならねぇはずだ」
「……うん。守りつつ、鍛えつつ、ちゃんと戦えるギルドになる」
ベリーは静かに言った。
そこからの作業は、まさに職人集団だった。
クラウドが大地を隆起させ、基礎を固め、
ブライトと冬吾が巨大な岩塊を設置し、
ロイドは高所から周囲の警戒を行い、
ベリーは炎魔法で金属を溶接するかのように接合し、
コルトは支援魔法で全員のスタミナを底上げした。
数時間後――
「……できた……!」
拠点の周囲には、巨大な石造りの防壁が立ち上がっていた。その中央にそびえるのは、石と土で固めた砦の塔。
「……おお……」
冬吾が息を呑む。
「すごい……これ、ほんとに一日で……?」
コルトが目を丸くする。
まるで、荒野に突然城が生えたようだった。
「これでも、まだ序章です」
クラウドが胸を張った。
「ここから内装を整えて、監視塔、射撃台、訓練場を作って……。必ず、全ての生存者の要塞に仕上げます」
その言葉が、全員の胸を熱くした。
(……守るだけじゃない。戦うための城だ)
ベリーはそっと拳を握った。
こうしてレゾナンスは、この日、44サーバー最大の砦を作り上げたのだった。




