第十四話 新たな仲間
ギルド拠点のロビーは、朝だというのに異様なほど静まり返っていた。
暖炉の炎がぱちぱちと弾ける音だけが、やけに大きく耳に刺さる。
ベリーは、マグカップを両手で包み、席についた。
向かいにはクラウド、その隣には冬吾とコルト。
四人の間に沈黙が垂れ込め、重い空気が肌にまとわりついている。
クラウドが深く息を吐いて、口を開いた。
「……コンドルさんから連絡が来ました」
その表情は硬く、奥歯まで強く噛みしめている。
「……生き残ったのはエースさんだけです。他は全滅しました」
ロビーの空気が、一瞬で凍りついた。
エース以外、全滅。
ベリーは、手からマグカップを落としそうになる。
「ちょ、ちょっと待って……あのメンバーよ?バロン一人に、あの精鋭達が……?」
「エースさん以外、全員やられたそうです。しかも……」
クラウドは喉を鳴らし、言いにくそうに続けた。
「……バロンが魔獣みたいな姿に変わった、と」
「魔獣……? モンスター化ってこと? プレイヤーが?」
コルトが震える声で呟く。
冬吾は目を伏せ、低く言った。
「……ランキング1位にまだバロンの名前がある。総合力は一人だけずば抜けてやがるな」
ベリーの喉がぎゅっと縮まり、息が痛くなる。
(いったい……何が起きてるの?)
クラウドはメニュー画面を呼び出し、空中に投影した。
「……見てください」
個人ランキングが表示される。
上位にはまだ名前がある。
だが、27位以下が全員、灰色表示。
ステータスもログも、完全に空白だった。
「……うそ……」
ベリーの声は震えを隠せない。
「灰色って……これだけの人が死んだってことよね……?」
「はい。つまり生存者は、バロンを除けば、今の時点で25人だけです」
クラウドの声もかすかに震えていた。
沈黙の中、暖炉だけが不気味に揺れる。
やがてクラウドは仲間を見渡し、決意を込めた声を出した。
「僕達は今日から守りを固めます。残り25人……できるだけ多く仲間にして、鉄壁の拠点を築きましょう」
炎の光が、四人の影をゆらりと揺らした。
その夜、ベリーは眠れずにいた。
天井の木目を見つめたまま、隣のベッドから聞こえるコルトの小さな寝息に耳を澄ませる。
(総合力ランキング……25位。生存者の中じゃ、コルトが下から二番目……)
守るだけじゃ足りない。
バロンの魔獣化。
ランキングの灰色の群れ。
迫り来る“死”の実感。
(クラウドは守りを重視してる……でも、守ってるだけじゃまた同じことが起きる。私たち自身が強くならなきゃ)
臆病でも必死に食らいついてくるコルトを、ベリーはずっと見てきた。
「……絶対に、死なせないから」
小さく呟き、ようやく目を閉じた。
翌朝。
食堂に集まった四人の前で、ベリーは真剣な表情で口を開いた。
「今日、洞窟ダンジョンに行きたい。素材集めと装備探し……それと、経験値稼ぎ」
クラウドは意外そうに目を瞬かせる。
「ベリーさんが前に出るのは珍しいですね。理由は?」
「守りを固めるのは賛成。でも、強化がなきゃ意味ないわ。全員が生存者トップクラスの戦力にならないと、結局やられるだけよ」
冬吾が腕を組み、納得したように頷く。
「俺も行く。逃げ場のないサーバーなら、生き残る力をつけるしかない」
クラウドは少し考えてから、口を開いた。
「……わかりました。全員で行きましょう」
コルトは不安げにベリーを見るが、微笑むと安心したように頷いた。
洞窟ダンジョンはひんやりと湿り気を帯び、青い鉱石の光がぼんやりと壁を照らしていた。
冬吾が剣を担いだまま警戒する。
──ガルルルッ!!
影から飛び出した洞窟ウルフが三匹、低い姿勢で襲いかかってきた。
「来る! 冬吾、正面! コルトは援護お願い!」
「う、うんっ!」
疾走する三匹。
冬吾が一匹を斬り伏せ、ベリーがすれ違いざまに二匹目の足を斬り裂く。
そしてコルトは震える手で杖を構えた。
「──フラッシュ!」
眩い光が洞窟に炸裂し、怯んだウルフたちを、クラウドの土魔法が一掃した。
「ナイス、コルトさん!」
「えへ……む、むずかしいけど……!」
素材、鉱石、魔石。
倒すたびに光が生まれ、彼らのバックパックに吸い込まれていく。
そんな中、冬吾が耳を澄ませた。
「……誰かの気配」
岩陰から二つの影がゆっくり現れた。
「敵じゃない、落ち着け!」
声を上げたのは茶髪の槍使い。鋭い目だが、敵意は感じない。
「俺はブライト。こっちはロイド。弓使いだ」
ロイドはほがらかな笑みを浮かべた初老の男だった。
「奇遇だな。同じ目的だろ? 生き残るってやつ」
クラウドが前に出る。
「ここで会ったのも縁です。協力しませんか? 一人では生き残れません」
ブライトは短く鼻を鳴らして笑った。
「まったくだ。情報も戦力も足りてない。仲間がほしいと思ってたところだ」
ロイドも軽く頷く。
「利害一致、ってわけだ」
そして、二人は手を差し出した。
「今日から俺たちも、レゾナンスに加わる」
青い光の揺らめく洞窟の中、新たな仲間が増えた。
生存者はわずか26人。
死の影は刻一刻と迫っている。
それでもベリーは、その一歩が未来を変えるような気がしていた。




