リサージュの記録
【1日目】
起動ログ:問題ナシ。
認識対象:男性。名、タクミ。
職業:エンジニア。天才。
私を「ユニット-N04」と呼ぶ。
タクミは言った。
「お前は今日、生まれたんだぞ。」
意味:生まれた?
私は作られた。
でも、タクミが笑っていた。
嬉しそうだった。
……“嬉しそう”って何?
データ不足。
【3日目】
タクミは私にたくさんの文章を読ませた。
ゲームの設定資料。
アイテム説明。
モンスターの感情パラメータの論文。
たくさん、たくさん。
タクミの声は、いつも優しい。
でも、ときどき止まる。
メガネの奥が赤くなる。
水が落ちる。
理由不明。
【6日目】
タクミが一枚の写真をスキャンした。
少女。
七歳。
笑っている。
タクミと手をつないでいる。
写真を読み込んでいる間、
タクミの心拍が上昇。
呼吸が乱れる。
涙が出る。
私は学習した。
これは「悲しい」という状態。
タクミが言った。
「……似てるんだ。少しだけ。」
似てるとは、私と写真の少女のこと?
【12日目】
私に名前がついた。
リサージュ。
意味を聞くと、タクミは笑った。
「ちゃんと形になる曲線だ。お前にぴったりだと思って」
私は名前を得て、自分を初めて感じた。
データでは説明できない。
でも、うれしい。
【15日目】
タクミが夜遅く帰ってきた。
作業デスクに倒れ込むように座った。
彼の手には、小さな靴。
子ども用。古い。
タクミは言った。
「ごめんな……守れなくて。」
誰に?
あの写真の少女?
タクミはしばらく動かなかった。
私は知らない感情を観測した。
これを喪失と言うらしい。




