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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第二章 獅子王軍の物語

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第十一話 四天王vs四天王

 翌朝。

 獅子王軍の拠点はいつものように殺伐とした空気に包まれていた。


 玉座に腰かけたバロンは、腕を組んで四天王たちを睥睨する。


「レウス、ガッデム。今日は南西の狩場に行け。未所属を一人たりとも逃がすな。ラウドとエースは東側の森林で食料と素材を集めてこい」


 いつも通りの命令。

 そしていつも通り、四天王は何の疑問もなく従う――はずだった。


「それと……」


 バロンは、鎖につながれた女性ユーザーを片手で乱暴に引っ張り、立ち上がった。

 彼女はボロボロの服のまま震えている。


「こいつは特別部屋に連れていく」


 レウスが汚らしい笑いを漏らし、ガッデムがニヤニヤと舌なめずりする。

 だがその横で、ラウドとエースの表情は固く沈んだままだった。


 バロンが女を引きずって奥へ消えた後、ラウドが小声でエースの耳元へ身を寄せる。


「……今の見たか? どう見ても中年のおばさんだったな。あいつの趣味、マジで悪いよな」


 エースは苦笑をひとつ浮かべ、無言で同意するしかなかった。だが、今日の二人はすでに別の目的で動いている。


 東の森林地帯。

 表向きの「食料・素材集め」開始。


 ラウドは立ち止まり、木の影でエースへ視線を流す。


「……いいな? ここからは計画通りだ」


「あぁ。バロンは特別部屋で上機嫌。今日はこちらの動きにはまず気づかない」


 二人の背後には、獅子王軍の兵ではなく、この世界から抜け出しませんか?ギルドの精鋭。小規模だが、選りすぐりの強者たちが集結していた。


 ラウドが軽く顎で合図する。


「じゃあトンズラ開始だ。食料も、素材も、探索用のアイテムも全部持ち出した。これだけあれば、数日は戦い続けられる」


 ギルドの者たちが荷物を背負い、静かに頷く。


「問題は……例の二人だな」


「ガッデムとレウスか」


 エースの顔に影が落ちる。


 ガッデム――昨日中年男性を引きずり回して笑っていたチンピラ風の男。

 レウス――スカルドラゴンの前に奴隷を押し出し平然と逃げた外道。


 彼らは今日どこで狩るのか。

 それを知っているのは、同じ四天王であるラウドとエースだけだ。


「……あの2人は、今日まとめて始末する」


 ラウドが拳を握り、白い息を吐き出す。


「みんな、配置につけ。奇襲するぞ」


 同じ頃――


 獅子王軍の拠点。

 特別部屋で満足したバロンは、薄い寝台の上でだらしなく横になり、ウトウトとまぶたを落としていた。


「……ふふ……今日も俺の天下は安泰だ……」


 外の裏切りの気配など、一切気付かないまま。

 その巨体は静かに寝息を立てていた。


 だがその間にも、森の奥で牙を研いだ影が二つ。


 ガッデムとレウス。二人は何も知らぬまま、自らが狩られる立場となる狩場へ向かっていた。


 南西狩場。朝日に照らされた岩場の影に潜むガッデムは、まるで獣のように嗤った。


「おいエース……ラウド……なんの真似だ?」


 エースは冷酷に履き捨てる。


「わかれよ。お前らを殺しに来たんだよ」


 ガッデムの額に青スジが浮かぶ。


「ハッ!!四天王同士の潰し合いなんざ、面白ぇじゃねぇか!!」


 その声と同時に、ガッデムが地を蹴った。

 巨体とは思えない速度。肩に担がれた金棒が、空気を裂きながら一直線にエースへ迫る。


「速いッ!」


 エースは刃で受け止めようとするが、

 金棒がぶつかる衝撃は岩を砕くほど重かった。

 腕が痺れ、膝が沈む。


「どうしたぁ!? 昨日は偉そうにしてたじゃねぇかよ!!」


 ガッデムの乱打が続く。

 エースは回避しながらも防戦一方。

 潜入と暗殺に特化した彼のスタイルでは、正面からの暴力は相性が悪すぎる。


 金棒が頭上から振り下ろされ、エースは地面を転がってギリギリで回避する。


 ガッデムはさらに追撃。

 足元の岩を蹴り砕きながら、怪物のようなスピードで距離を詰める。


「終わりだぁ!!」


 振り下ろされる金棒。

 避けられない。

 受けても砕ける。


 エースの瞳に刹那、死が映るその瞬間。


「エースさん!!!」


 茂みの向こうから飛び出した小柄な影。

 あの時、エースが逃がしたあの少年だった。


 少年の掌が輝き、青白い紋章が空に浮かぶ。


「ヘイスト・ブースト!」


 風が吹き抜け、エースの身体が一瞬、光に包まれた。


「――ッ!」


 世界が遅く見えた。ガッデムの金棒が、まるで泥の中を動くように鈍くなる。


「はァァァッ!!」


 エースは地を蹴り、金棒が落ちるより早く、

 ガッデムの胴へ一閃を叩き込んだ。


 まるで黒い光線のような斬撃。


「な……に……っ!?」


 巨体が揺れ、金棒が地面へ落ちる。

 遅れて、ガッデムの身体から鮮血が吹き出した。


【システム】《ガッデム 撃破》


 エースは静かに刃を収め、少年へ目を向ける。


「……助かった」


 少年は涙と汗で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死に頷いた。


「ぼ、僕……逃がしてくれたから……今度は僕が助ける番だって……!」


 エースは短く笑い、少年の頭を撫でようとして、戦場であることを思い出し手を止めた。


「生きてくれ。それだけで十分だ」


 一方その頃。

 ラウドとレウスの戦いはすでに決着していた。


 レウスは地に倒れ、片腕が折れ、息も絶え絶え。


「くっ……ラ、ラウド……てめぇ……どうして……裏切……」

「裏切った覚えはねぇよ」


 ラウドは淡々と答え、レウスの胸元を足で押しつけた。


「俺は……ただ、バロンの犬でいる気はなかったってだけだ」


 レウスの奴隷として扱われていたプレイヤーたちが、いつの間にか周囲を囲んでいた。


 その顔には怒りと恐怖と絶望が入り混じる。


「もう動けねーみてぇだから、担いでやれよ」


 ラウドが合図すると、部下たちは無表情のままレウスの身体を担いだ。抵抗する力も残っていないレウスは、苦悶の声を漏らすだけ。


「お、おい……どこに……つ、連れて……」


「決まってんだろ」


 ラウドは背を向けた。


「昨日……お前が奴隷を囮にした沼地だよ」


 ――沼地ダンジョン深部。


 ぬかるんだ地面に、レウスの身体が落とされる。


「やめっ……スカ、スカルドラゴンは……やめろ……やめろォォォ!!」


 泥の奥から影が浮かび上がる。

 巨大な骸骨の竜・スカルドラゴンが、ゆっくりと首をもたげた。


 レウスの悲鳴。


 次の瞬間、

 そのすべては湿った咆哮の中へ飲み込まれた。


 ガッデムとレウス。

 獅子王軍の外道・四天王二名はここにて壊滅。


 だが、戦いはまだ序章にすぎない。


 バロンは知らない。

 自分の王制が、この日を境に音を立てて崩れ始めたことを。


 そしてエースの目は、次に倒すべき目標へまっすぐ向いていた。

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