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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第二章 獅子王軍の物語

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第十話 叛逆の狼煙

 獅子王軍は、バロンの命を受けて大規模な狩りへと出動した。


 四天王のうち三名、その中には、潜入スパイであるエースも含まれている。

 彼らはプレイヤー狩りを担当し、周辺の未所属プレイヤーを次々と捕縛して軍に引きずり込む算段だった。


 森林地帯でしばらく追跡した末、中年男性プレイヤーを一人捕らえることに成功した。


「いだだだ、嫌だ、離して…!離してください…!」


 四天王の一人が男の腕を掴んでねじり上げ、バロンのもとへ引きずっていく準備をする。


 その時、エースがふと視線を横に動かすと、遠い茂みの向こうにもう一人、未所属プレイヤーが潜んでいるのを見つけた。


(……まだ子供か)


 四天王の別の一人がその気配に気づきかける。

 だがその瞬間、エースがそっと手を下げ、小さな逃げろのサインを送った。


 視線だけで悟らせる、わずかな合図。


 未所属プレイヤーは頷くように小さく肩を震わせ、土を蹴り、音を立てないように森の奥へと姿を消した。


 気づいた者は、誰一人いない。


 エースは任務としては狩りの真っ最中。

 だが、本当の使命としては一人でも多くを自由に返すこと。


 その二つを器用に両立しながら、捕らえた中年男性だけがバロンの前へ連れて行かれた。


 同じ頃、残る四天王の一人は奴隷化されたプレイヤーたちを連れ、食料・素材集めのため森の奥、沼地ダンジョンへ向かっていた。


 最初は順調だった。

 しかし、ダンジョン深部で突如、沼地の強モンスター・スカルドラゴンと遭遇する。


 巨大な骸骨の竜がぬかるんだ闇から浮かび上がる。


 四天王は迷わず叫ぶ。


「おい、お前囮だ。行け!」


「そ…そんな!!」


 奴隷プレイヤーが一人、無理矢理モンスターの正面に押し出される。


 その悲鳴を背に、四天王と他の奴隷たちは散り散りに逃げ出した。


 沼地ダンジョンに響いたスカルドラゴンの咆哮は、まるで森そのものを震わせる呪詛のようだった。

 囮にされた奴隷プレイヤーの悲鳴はあっという間に飲み込まれ、泥と骨の巨体が跳ねる音が響いた。


 四天王の一人は必死に泥を蹴り、息を切らせながら逃げ続ける。

「くそっ、なんでこんなところにスカルドラゴンが……ッ!」

 背後では、従わされている奴隷プレイヤーたちの足音が乱れ、恐慌の声が混じっていた。


 だが、この惨劇がバロンの耳に入ることはない。

 四天王が報告を改ざんし、犠牲者をただの“戦力としての消耗”として処理するからだ。


 この世界の闇は、思っている以上に深い。


 その夜、獅子王軍の拠点から少し外れた朽木の小屋。灯りはつけない。小声すらも周囲へ漏れることを恐れるように、エースは通信端末を開いた。


『こちらコンドル。エース、そっちはどうだ?』


「狩りは続いてる。俺も四天王として動いてるが……最低限、逃がせるだけは逃がした」


『助かる。プレイヤー狩りが激化しているって情報が何度も上がってる。バロンの圧政は限界だ。早く動かないと……』


「わかってる。準備は進んでる。バロン討伐作戦は……もう少しだ」


 通話の向こうで、コンドルが深く息をつく。


『お前が内部に潜れていることが、最後の希望なんだ。気をつけてくれよ』


「そっちこそ。こっちは任せておけ」


 通話が途切れ、静寂が戻る。


 だが次の瞬間。

 背後の暗がりが、そっと揺れた。


 エースは反射的に腰の武器へ手を伸ばす。気配が一つ、近い。しかも息を潜めた熟練者の間合いだ。


「……構えなくていい」


 低く響く声。影から姿を現したのは、四天王の一人・ラウドだった。


 筋骨隆々の大男。

 だがその目は冷静で、獣のような鋭さを秘めている。


「……そっちも順調か?」


 ラウドの言葉は、エースが想定していた“敵の確認”ではなかった。

 仲間に向ける、確信の混じった声。


 エースは手を離し、静かに答えた。


「あぁ、バロン討伐作戦は順調だ」


 ラウドは短く鼻で笑う。


「よかった。俺の方も、奴の兵の一部をこっそり動かした。明日には戦力の歪みが表に出るはずだ。バロンの野郎、気づかねぇよ」


「助かる。お前の協力がなければ、内部崩壊は難しい」


 ラウドは月を見上げる。

 夜空の薄い月光が、その厳つい横顔を照らした。


「……俺はな、エース。あの王制が嫌いなんだ。力がある者が弱い者を狩り、従わせる。それを“当然”だと笑っていやがる」


「だからバロンを倒したいと?」


「そうだ。俺は四天王を名乗ってるが……あの独裁者の犬になるつもりはねぇ」


 ラウドはふと横目でエースを見る。


「お前も同じだろ?」


「……あぁ。俺には、ここで救わなきゃいけない人たちがいる」


 ラウドは肩を叩くような仕草をして、踵を返す。


「じゃあ、明日だ。エース。計画の()()()を始めようぜ」


 その背中は、裏切り者ではなく

 革命を選んだ戦士のそれだった。


 エースは静かに頷いた。


 そして明日、獅子王軍にとって、全てが変わる日はすぐそこに迫っていた。

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