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第24話 キルア、皇帝家の契約の秘密に迫る

◆皇帝家の契約の秘密を追う編

 帝都の夜は、昼間の喧騒とは別の顔を見せていた。


 煌びやかな街灯に照らされる貴族街の裏通り。キルアたちは、誰にも気づかれないようフードを深くかぶり、静かに歩いていた。


 目指す先は――帝国国家図書院。その最奥に、誰も閲覧を許されていない「禁書庫」がある。


 「本当にここでいいのか?」


 キルアが低い声で問いかけると、リーナが頷いた。


 「帝国の契約魔術に関する記録は、すべてここに集められてるって話。呪いの始まりが王家との“契約”にあるなら、痕跡が残ってるはずよ」


 「けど、禁書庫って普通の人間は入れないんじゃ……」


 アリアが不安げに言うと、リーナはにやりと笑った。


 「そこはまぁ、あたしの魔法でなんとかするから」


 そして、彼女はスッと右手を掲げると、小さな光の粒が舞い上がった。


 「“空間結界・潜行”」


 辺りを包む薄紫色の光が、三人の姿を一瞬でぼやかす。人の目では認識できない、特殊な結界だ。


 「よし、いくよ」


 鉄の扉をくぐり抜けた先に広がるのは、数百年分の知識が眠る書の迷宮だった。


◇ ◇ ◇


 何段にも積み重ねられた書架。そこに無数の魔導書、記録書、王家文書が眠っていた。


 「……すごい数だな」


 キルアは思わず息をのむ。


 「でも、ここで見つけなきゃ意味ないの。手分けして探して」


 リーナの合図で、三人はそれぞれ違う棚へと散った。


 時間がどれほど経ったかもわからないほど、静かな空間。


 そんな中、アリアが小さく叫んだ。


 「これ……!」


 駆け寄ったキルアとリーナの前で、アリアは震える手で一冊の古びた記録書を開いていた。


 タイトルは――《王家と精霊の盟約 –第一王朝機密録–》


 「やっぱりあったのね……!」


 リーナはその記録をめくりながら、声を落とした。


 「ここに書かれてる……初代皇帝と精霊たちの“契約の代償”が……!」


 キルアが内容を追う。


 ――帝国建国の際、初代皇帝アレクシオンは、大地と風の精霊に「繁栄」と「守護」を願った。


 その対価として精霊が要求したのは、“一定の世代ごとに、皇家の血を引く者ひとりを、命ごと精霊に捧げる”というものだった。


 「……つまり、この契約が、呪いの正体だったのか」


 キルアは唇をかみしめた。


 「そう。儀式の度に、精霊に“生贄”が捧げられてきた。でも、現代ではもうこの儀式は廃れたって話だった……」


 リーナが苦い声で言う。


 だが、次のページにはさらに恐ろしい事実が記されていた。


 ――ある時代、王家は儀式をやめた。だが、契約は生き続けていた。


 精霊は怒り、代わりに“選ばれし血筋”に呪いを与えた。


 寿命を十八歳で止める――“契約を破った罰”として。


 「そして……その血筋が、アリアの家系に続いていたってわけか」


 「……そんな……」


 アリアの声が震える。


 「わたし……知らずに、その犠牲になってたんだ……」


 その瞳に、悲しみと怒りとが入り混じる。


 キルアはその肩に手を置いた。


 「でも、真実がわかった。呪いは、止められる」


 「そう。もしも、精霊との契約そのものを“再交渉”できるなら……呪いは終わらせられるかもしれない」


 リーナが力強く言った。


 「でも、王家がこんなことを黙ってきたってのは、ただの秘密じゃ済まないわよ。下手すりゃ、国の根幹が揺らぐ」


 「それでもやるしかないだろ。……アリアの命を救うために」


 キルアの言葉に、アリアは涙をこらえながら頷いた。


◇ ◇ ◇


 夜明け前、三人はこっそりと禁書庫を後にした。


 そして今――


 「次の目的は、“現王家の神殿”だね。王家が今も精霊との“交信”を行ってる場所があるって話」


 リーナがそう言うと、キルアは小さく頷いた。


 「そこで、もう一度精霊と契約を“書き換える”。それができれば……アリアの呪いは解けるかもしれない」


 「だけど……王家がそれを許すかな」


 アリアの不安に、キルアは笑った。


 「許さなきゃ、剣で通すだけだ」


 その目には、かつて貴族として生きていたころとはまったく違う光が宿っていた。


 「俺たちが選んだ道を、誰にも止めさせない」


 ――そして、三人は再び立ち上がる。


 呪いの真実は明らかになった。


 次は、王家にその罪を認めさせる――そのための最後の戦いが、始まろうとしていた。



◆夜の契り、ふたりの誓い


 帝都リュミエールの夜は、どこか張り詰めていた。


 王家の秘密が明るみに出た今、すべてが変わり始めている。禁書庫で得た情報は確かに大きな一歩だったが、その先に待つのは、王家との直接対決。交渉か、あるいは戦いか――どちらにしても、容易な道ではない。


 その夜、キルアとリーナは屋敷の小さな離れにいた。


 灯りを落とした部屋の中、窓から月明かりが差し込んでいる。カーテンが風に揺れ、ふたりの影を静かに照らしていた。


 「……王家が封印してるもの、やっぱりあると思う?」


 リーナが静かに尋ねた。小さな声だったが、その響きには確かな不安があった。


 「たぶん、あると思う。記録に残せなかった“契約の代償”……精霊の怒りを抑えるために、何かを封じたんじゃないかって」


 キルアは、ソファの隣に腰かけるリーナの手を取った。


 「もし、それが解かれたら?」


 「帝都が――いや、帝国ごと崩れるかもしれない」

 そう言いながら、キルアは少しだけ目を閉じた。


 「でも、それでも……アリアの呪いは止めたいんだ。どんな結果になろうと、俺たちはもう、知ってしまったんだし……もう、知らなかったふりはできない」


 リーナは黙って頷いた。キルアの瞳には迷いはなかった。


 「だからこそ、今夜だけは……」

 リーナはぽつりと言った。

 「……今だけは、こうしていたい。あんたと、ふたりで。……何があっても、後悔しないように」


 キルアは答える代わりに、そっとリーナの髪に触れた。


 淡いピンクの髪が指の間を滑る。リーナの紫の瞳が、揺れるようにこちらを見つめていた。


 「……リーナ」


 彼女の名を呼んだだけで、胸の奥があたたかくなる。怖さも、不安も、彼女といると不思議と少しだけ遠くなる。


 「いつだって、俺のそばにいてくれてありがとう」


 リーナは、ゆっくりとキルアに身体を預けた。彼の胸に耳を当てると、鼓動が優しく響いている。


 「……あんたの鼓動、好きだよ」

 「へんなの」

 「でも、本当なんだもん」

 リーナはくすりと笑い、そっと唇を重ねた。


 それは穏やかで、優しくて、でもどこか切ないキスだった。

 まるで「さよなら」を封じるように。

 あるいは、明日を信じるために。


 キルアは彼女を抱きしめた。

 指先が肩に触れ、頬に触れ、やがてそのまま、ふたりはベッドに倒れ込むように寄り添う。


 「……怖いの、あたしも。でも、後悔はしたくない。だから……あんたに全部、あげる」


 リーナの言葉は、どこまでもまっすぐだった。


 キルアはその言葉に答えるように、彼女の額にそっと口づけを落とした。


 「俺も……お前の全部、受け止めるよ」


 夜は深く、静かに更けていった。

 ふたりは言葉を交わすことなく、ただ互いを確かめ合うように抱きしめ合った。


 触れるたびに想いが重なっていく。

 そのぬくもりに、恐れも迷いも、溶けていくようだった。


 リーナの手が、そっとキルアの背を撫でる。

 キルアはその指先の震えを、優しく包み込むように握り返した。


 ――この手を、もう二度と離さない。


 ふたりが交わす誓いは、言葉以上に強く、夜空に響いていた。


 月が照らす部屋の中、ふたりの影が重なり、ひとつになる。

 あたたかな愛と、静かな覚悟がそこにあった。


 やがて、リーナはキルアの腕の中で目を閉じた。

 その顔は、どこか穏やかで、泣きそうなくらいに美しかった。




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