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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第二章

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92 けじめと覚悟

 誕生日と向き合い、希朝との距離感は縮まった。

 離れることが考えられないほどに、今まで以上に二人で居る時間に安堵を覚えている。


 とはいえ、希朝を味わっていた際に希夜が目を覚ましたのもあって、ご飯前に強烈な一撃を浴びせられたのは想定外だったが。


 希朝を大事にしたい、ただその想いは希夜に伝えたので、少しばかりは希夜との距離もさらに縮まっただろう。


 ふと思い返した現在、連は希朝と希夜と一緒にリビングに居た。


 ダイニングテーブルを囲うようにし、各々が同じ空間でいる時を実感する……星宮家ではごく普通の光景だ。


 テーブルに置かれていたコップが、氷の重なる音を連ねた。


「連さんは、今後……夏休み期間中にやりたいことはありますか?」


 学校は既に夏休みに入っている。

 何気に二十一日前からなので長さを感じてしまうが、この学校は中高一貫校なのもあり、足並みを揃えることも意味しているらしい。


 夏休みにやりたいこと、と唐突に聞かれると悩んでしまう。

 連自身、春休みの時もそうだが、学生の休みという休みを理解していないのが痛手となっている。


 マイペースにゼリーを食べようとしている希夜を見たところで、夏休みの過ごし方を得られるはずはなく。


「休みの時はいつも私たちと居るので、たまには連さんのやりたいことを優先したいと思ったのですよ」


 希朝が興味津々で連を知ろうとしてくれているが……やはり答えは空白のままだ。


「その、僕は、夏休みっていうよりも、休みの過ごし方を知らないんだ……」


 幼い日の休みは、当然捨てられて始まる。

 休み期間中に家に帰ることが出来れば、ただ生き残ることが出来た。


 帰ったところで、親に見てもらいたいがために頑張る、そんな自分との追いかけっこだったのだから。


 連は――学生の休みを知らない。


 希朝は連の返答のなさに呆れたのか、肩でため息を吐いている。


(……呆れ、られる)


 思い出す必要はなかっただろう。それでも思い出せたのは、必要な行動だと直感が理解したからだ。


 希朝がいくつか休みの過ごし方を言葉にしてくれている中、連は立ち上がった。

 説いてくれている希朝には悪いと理解している。


 それでも止まらないうちに、連は行動に移さないといけなかったのだ。


 少し驚きを見せた希朝と希夜に謝りを入れず、連は自分の部屋へと一旦戻った。

 あの日、希朝にも話した、紙きれを取りに。


 震える手と、机で唯一閉ざされたままの引き出し。


(……僕は、もう、後悔したくないんだ)


 数分もしないうちに、連は取り出した木箱を片手に持って、希朝と希夜の居るリビングに戻った。


 希朝と希夜は責めることをせず、連の持ってきた木箱に視線を移していた。


「連さん、それは?」

「希朝さんには前に話したと思うんだけど……僕の実の父親、天夜(じん)とぶつかった時に、ポケットに入れこまれていた電話番号の書かれた紙が入っているんだ」


 希朝と希夜には必要ないと知っていても、連が必要だと感じたから持ってきたのだ。


 でもそれは、本当の気持ちを希朝に伝える、前準備にすぎない。


 連は実感していた。

 星宮家に来てから、実の家族の事が頭から離れていない。

 その中でも、父親である仁の面影をずっと意識していたこと。


 実の母親である亜桜(あお)に関しては、言葉を交わすことも、別れをもう一度伝えることはないだろう。

 連は母親に対しての感情のみ、既に吹っ切れているのだから。


 それでも仁だけ、その存在だけが今も残っている。


 本当に何も思っていなければ、二重構造の引き出しに入れた上で、ギミック式の木箱に手紙をしまうことはなかっただろう。

 自然と大事にしまってしまう程、父親を意識することは。


 連が二人に手紙を見せるために木箱のギミックを解いていると、希夜が服の袖を引っ張ってきた。


「……連にぃ、帰っちゃうの?」


 震えるような声で、心配そうに聞いてくる希夜。


 希夜は家族を誰よりも大切にしている。だから、欠けてしまうかもしれない、そんな想いが溢れてしまっているのだろう。

 希夜が家族と離れて一人になってしまった、そんな時間があったのは話だけだが連も知っている。


 連は静かに首を振って、希夜をしっかりと見た。


「僕は帰らないよ。ただ、やりたいことがあるんだ」

「うぅ、心配したやんねぇ」

「やりたいことですか。連さん、その箱は開いたようですし、どういう内容が書いてあったのか今一度聞いてもいいですか?」


 希朝は箱が開くまで待っていたようだ。

 木箱は開くなり、箱の底にあった一通の手紙を露わにしている。


 連は迷うことなく手紙を手に取って、もう一度目を通した。

 間違いなく仁が書いたものだと、目に見て理解できる文章の綴りだ。


「簡潔に云うなら、本家を忘れて星宮家での時間を大事にしてほしいこと、いつでも連絡してほしい。その為の電話番号だって書かれているよ」


 端折りこそしたが、仁が個人で書き上げた文章だとは、連が重々理解している。

 一人にしたこと、野に捨てたこと、見て見ぬふりをしたこと、それら全てにおいて謝罪の文字は存在しない。


 希朝と希夜に対して、手紙を全文見せることをしないのは、自分の代わりに怒りへと変えてほしくない連のエゴだ。


 希朝は言葉を聞いてなのか、改めて姿勢を直し、真剣に連を見ている。


 揺らぎないピンクの瞳の中に、連の姿だけが反射するほどに。


「どうする気ですか? やりたいことは連さんの自由で構いません。ですが、もし傷つくようなら、私は……私たちはここで止めます」


 希朝の重圧のある声色は、初めてだった。

 傷ついてほしくない、それは希朝の向ける想いからヒシヒシと感じている。


 手紙の内容が偽りであれば、恐らく傷つく可能性はあるだろう。

 たとえ飾りだったとしても、前に進まなければいけないのだ。

 止められたところで、熱を帯び始めた鼓動は歩むことを選ぶのだから。


 連は軽く息を吸って、希朝を、希夜を、視界に収めた。


「僕は、お父様としっかりと話したいんだ」


 父親と話す。それはあくまで、踏み台でしかない。

 希朝は少し息を吐いてから、鋭い視線を向けてきている。

 黒い影が見えるほどに、ピンクの瞳は濁りすら感じさせてくるのだ。


「連さん――母親ではなく、父親である仁さんと話すことは、実の家族と本当のけじめをつけることになるのですよ」

「……分かってる」


 仁と話をつけることが何を意味しているのか、誰よりも理解している。

 連は間を置いてから、会話をつづけた。


「決心して、家族になるためだよ。希朝さんとの、家族に」

「……知っていたのですね」


 連は静かに頷いた。

 連の戸籍を所持しているのは母親の亜桜ではなく、仁なのだ。

 天夜家は連を星宮家、希朝の婿として押し付けこそしたが、戸籍自体を譲渡していないのだ。


 あくまで仁が連の戸籍を所持しており、希朝と籍を入れるのであれば、必然的に話をする必要が出てくる。

 別の手段を使えば話す必要はないが、希朝の両親と話した際に、仁とは一度話をつけてほしいとお願いされているのだ。


 希朝が連の戸籍の件を知っていたとしても、いずれ話をつけることは知らされていなかったのだろう。


 連は自分勝手だと理解しておきながら、今までの言葉を遮って希朝に想いを吐き出した。


「希朝さん、ずっと待たせていてごめん。――八月八日、僕は希朝さんの時間を貰います。だから、心の準備をしておいてください」


 タイミングを無視して伝えた言葉。これは告白ではなく、軌跡を生み出すための一歩にすぎない。

 希朝は驚きこそしていたが、自然と柔らかな笑みを浮かべている。


 全てを受け入れている、まるで覚悟していたかのような。


 ふと気づけば、希朝と希夜が逃げ道を塞ぐように、連を挟むようにして両隣に座ってきたのだ。


「連さん、仮に傷ついたとしても、私が癒してあげますからね」

「う、うちも連にぃをヨシヨシして慰めるやんねぇ」

「希朝さん、希夜ちゃん……ありがとう」


 どんよりと重い空気になってこそいたが、星宮家にとっては息を吸う同然のように、簡単に壊せるものなのだろう。


 希夜がわざとらしく練習と称して連の頭を撫でようとしていた時、希朝は想いに更けるような言葉をこぼしていた。


「……この年は、人生で思い出の一枚になりそうですね」

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