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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第二章

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86 賑やかなテスト勉強

 六月の始めは時間を忘れさせるほど、充実する日々を過ごさせてくれた。

 そして期末テストまで残り二週間を切った本日、星宮家のリビングは賑わいのある活気を見せていた。


「いやー、やっぱし、連に教わるのが一番だな」

「優矢は自分で勉強することを覚えてくれないかな?」

「まったく。他人任せばかりの世間知らず」

「あはは……優矢はどちらかと言えば、自立行動の方が多いと思うけど」


 ダイニングテーブルを使い、連と希朝に希夜、優矢と結の五人で集まり、期末テストに向けた勉強をしていた。


 優矢は相変わらず……小学生の頃から変わることなく、学習した分の呑み込みが早いので、教えている側としては助かっている。


 一方、中学生の希夜は今の勉強の範囲は既に記憶しているようで、希朝と結の勉強を熱心に見ていた。


 希夜の学習能力については不思議な一面こそあるが、別の世界では知恵が無いと生きていけなかった可能性もあるので、深く聞くのは失礼というものだろう。


(……学校じゃないから、楽にしてるんだよね)


 何気に五人がオフ、私服姿で会うのは今日が初めてだ。


 とはいえ、夏なのもあって優矢と結は涼しげな恰好をしているので、リビングの温度的にも問題はないのだろう。


 連としては、希朝が白いシャツとジーンズを着用しているのもあり、普段見ない服装なのもあって心が軽く揺れているのだが。


 連と優矢、希朝と結の隣同士で勉強をしていた時、中間のスペースに座っていた希夜が優矢と結を交互に見ていた。


「連にぃのお友達と、結ぃは付き合っているやんねぇ?」

(そういえば、どうなんだろう)

「こいつと付き合ってない!」

「世間知らずと付き合うわけっ!」


 優矢と結はハモりながら否定したが「仲がいいやんねぇ」と希夜に軽く流され微笑まれていた。


 小さな談笑に包まれている中、カランッ、と静かに透きとおる音が耳を撫でた。


 その音も束の間、優矢と結の前に氷と緑茶の入ったコップが置かれていた。


 希夜の前にも同じく置かれてから、白い手のひらがコップを貫通して見えるほどに透きとおった氷の入った緑茶が目の前に差し出されている。


「希朝さん、ありがとう。喉が渇いていたから助かるよ」

「丁度抽出が終ったので、飲み頃かと」

「希朝さんの入れてくれる飲みもの、僕は好きだから嬉しい」

「れ、連さんにそう言ってもらえるのは……その、嬉しいです」


 そう言って頬をうっすらと赤めている希朝は、ピンクの瞳を静かに揺らめかせていた。


 希朝がコップを載せていたお盆を両手で自身の体に寄せるのもあり、自然と仕草に見入ってしまう。

 恥ずかしそうだと分かるのに、どこか初々しさを感じさせてくるからだろうか。


 両手でコップを受け取った連を見ていたのか、優矢が疑問気に言葉を口にした。


「これで夫婦じゃないんだよな。既にやることやってそうなんだよな」

「あんたね! それをセクハラって言うの!」


 一瞬の隙をも見逃さない狩人(ハンター)のように、結はすかさず優矢を怒っていた。


 優矢と結の仲を見て口を出す気はないが、彼にとって彼女は良い薬になっているのだろう。むしろ、どうしてここまで馬が合うのにも関わらず、二人が距離を取っていたのか疑問になるくらいだ。


 希朝が妙に動揺したまま椅子に座ると同時に、優矢がちょいちょいと手招きしていた。

 連自身、耳を傾けるつもりはなかったが、騙されたと思って優矢の誘いに乗ってみた。


 乗ってくれたな、と言わんばかりに希朝と希夜の方を見てから、なぜかにんまりとしている。


「連さんや、こんな可愛い子たちと同じ屋根の下に住んでいるなんて、お主は大変よのぉ」


 優矢の発言に首を傾げると、分かれよ、と言いたげに目を細められた。

 連としては、希朝と希夜と一緒に家族として住めるのはありがたい限りであり、それ以上の幸せももらっておきながら、多くを望むのは強欲というものだ。

 仮に古代の王であるのなら望んだかもしれないが、連の幸せの器は既に満たされている。


 ただ、一つだけ叶えきれない望みを除いて。


 雑談も程々にして、希朝が入れてくれた緑茶を燃料にして、勉強を再開した。


「……優矢」

「仕方ないだろ。俺は人間だぜ?」

「さり気なく人外扱いしないでもらってもいいかな?」


 しばらく小動物のように勉強を進めてくれていたのだが、どうやら優矢の集中は限界を超えていたようだ。


 優矢はスマホを取り出し、既に触り始めている。


 自由さにため息が出そうだが、朝からお昼前で勉強していたのだから仕方ないのだろう。


 目の前で未だに勉強を続けている希朝と結を見れば話は別だが、集中力が切れた状態でやるのは逆効果になりかねないのだから。


 無理強いをするつもりはないので、コップに口をつけた時だった。


 座っていた希夜は動き出し、結と優矢の間の平面に椅子をずらしたのだ。


 そして興味本位なのか優矢のスマホ画面を覗いては、希夜もスマホを取り出して操作している。

 操作したかと思いきや、わざとらしく画面を見せるように優矢の方に傾けていた。


 希夜はゲーム好きなので、優矢がやっているゲームと同じものをやっていたのだろう。


「な、なにぃい!? 攻略率が百パーセントにとどまらず、スキル厳選余りまで起きている、だと……。俺はこれでも、プレイ時間が五百三十時間なんだが?」

「このゲームは何年もサービスが続いてるやんねぇ。時間を忘れ、楽しめた者が上にいけるやんねぇ」

「きょ、強者の貫禄、だと!! くっ、何も言えない」

「ねえねえ、なんの話をしているの?」

「……師匠、ちょっと攻略を教えてくれよ」

「仕方ないやんねぇ」


 優矢を見張るためなのか、それとも希夜を見守るためなのか、二人がゲームをし始めたのを見るように結が近づいていた。

 結は勉強をしていたが、どこか息つく暇を探していたのかもしれない。


「仲が良いのか」

「悪いのか、ですね」


 気づけば希朝はノートを閉じており、テーブルの上にペンを置いていた。

 顔を見ると、希朝は優しく微笑んでおり、二人にも見せない柔らかな笑みで疲れを癒してくれる。


 連自身、勉強を苦だと思ったことはないが、長い時間の集中と教えは流石に体力が減るのだ。


「連さん、丁度いい頃合いですので、お昼ご飯の準備をしましょうか」

「そうだね。……って言っても、下ごしらえしたものに手を加える感じだよね?」

「ええ。美味しく食べてもらうためにも、花を添えるのは大事ですから」

「僕にとっては、希朝さんがいるだけで美味しく食べられるけど」

「……次、軽々しく言ったら許しません」

「……気を付けます」


 希朝が笑みで圧をかけてくるのもあり、連は静かに謝るしかなかった。

 怒っているのか、なんて聞けば余計に火に油を注ぐようなものだと直感が察したからだ。


 五人でテーブルを囲って食べるためにも、連は希朝と一緒にお昼ご飯の準備を進めるのだった。

 後ろから楽しそうな声が聞こえる、賑やかな空間に耳を預けて。

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