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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第二章

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85 友人たちの事情聴取

「あの……これは、どういう状況?」


 この日、連は目の前の光景に首をかしげるしかなかった。


 ここは歴史ある渋み漂うカフェでありながら、今に合うものすらメニューに並んでいる歴史と時の流れがあるお店のようだ。


 そんなカフェのテーブルで、優矢と結に拘束される形で時間を取られている。

 優矢と結がなぜ徒党を組んでいるのかは不明だが、普通に考えて敵に回したくない存在トップだ。


 また学校帰りだったのもあり、制服姿でカフェに居るのは少々気が気ではない。


「世間知らず、説明は?」

「説明はしなくても、連は来てくれたぜ?」

「あんたねぇ……それでも天夜さんの親友? 物事には順序があるでしょう」


 呆れ気味の結は、優矢が説明していると思っていたのだろう。

 連自身、優矢から説明されないのは今に始まったことではないが、結の常識から考えるなら不自然なのかもしれない。


 説明というのを聞くに、これは拘束されているというよりも、事情聴取を受けているようなものだろう。


 拘束しているのであれば、優矢がこうしてコーヒーを奢ることはないのだから。

 連の前には、ミルクと砂糖が入ったほんのりとブラウン色をしたコーヒー。


 結はアイスクリームが付いた当店オリジナルコーヒーを頼んでおり、優矢はメロンパンとブラックコーヒーを頼んでいる。


 ふと気づけば、結は心配したように胸に手を当てていた。


「天夜さん、簡易的に説明させてね」

「うん」

「学校内であれだけ大々的に広まって……その、希朝やきよよの身もそうだけど、天夜さんの想いはどうなのか気になったの。希朝には聞かないように言われてるけど――」

「これは紡木の意志じゃない。俺の意志だ」

「優矢」


 結の話を遮り、言葉を紡いだのは優矢だった。

 優矢はテーブルの上に手を置いて、拳にぎゅっと力を入れて連を真剣に見てきている。


「これは大きなお世話だろうけど、変な関係で学校生活を続けるのもどうかと思うんだ。これはあくまで俺の意見で、連はどう思っているんだ?」


 正直なところ、その話に関してはカフェなのに落ちつかなかった。

 周りに同じ学校の生徒はいないが、心拍数がどこか胸を打つようで、不安定なのだ。


 言葉を出せば息を吸えるのに、今は吸えなかった。

 胸の内では熱く燃えているものが、口に出したら鼓動を止めてしまうようで、呼吸がままならないのだ。


 二人が気にしてくれている、というのは理解しているが、内にある言霊は吐き出せない。


 変な関係というのは、希朝と希夜が姉妹として明言したが、その間に位置する連の存在意義についてなのだろう。


「天夜さん、顔に目鼻立ちや性格は良いのに……」

「自信を持てない姿がたまに傷なんだよな」

「……何、二人は裏で打ち合わせでもしてたの?」


 容姿や性格を結に褒められるのは悪い気はしないが、優矢が付け加えたのもあって疑心暗鬼になりそうだ。


 優矢はお世辞を軽々しく口にしないからこそ、本音をぶつけてくれる。だが、この場で相応しいものかと言えば、否に近いだろう。


 しているわけない、と二人揃って口にするので、本当は仲がいいのではないだろうか。

 連は二人に呆れつつ、そっと言葉を口にした。


「……希朝さんには、待ってほしい、って僕が言って待ってもらってる……」

「私は希朝から聞いてる」

「そうだったんだな」

「うん。だから、今の関係を見ている優矢と紡木さんには申し訳ないと思っているよ。一番は……待たせている希朝さんだけど」


 優矢と結が何を聞きたいのかは、正直理解していた。

 関係という線をたどれば、いつ告白するのか、と聞きたかったのだろう。

 想いを打ち明けるのを得意としている優矢に、他人想いの熱い気持ちを持つ結、その二人が一緒に時間を取っているので尚更だ。


「私が聞きたいのは、天夜さんは、希朝に好意を抱いているの?」

「希朝さんのことは好きになっているよ。でも、好きになっているだけで、迷っているんだ」


 別の話題で意識を逸らしたところで、この話をするのは時間の問題だろう。

 ならば口にしておけば、と連は思って二人に打ち明けた。


 連自身、希朝に好きだと言えば学校生活も少なからず解決するのは理解できるが、その近い扉のノックに時間がかかっている。


 ノックをして扉を開くだけなのに、その一枚の隔たりが鉛のように重くて。

 押すことも、引くことも、下げることもできない、壁のようにそびえたつ大きな扉だ。


 少し下げてしまっていた視線を戻すと、優矢と結が顔を見合わせていた。


「連も、しっかり考えていたんだな。それじゃあ、今日は背を蹴る会にするか!」

「あんたねぇ。年頃、ましてや恋愛絡みに変に口を出されるのは嫌う人もいるの」

「おいおい、二人で睨まなくてもいいだろ?」


 連が優矢を睨んだ時、どうやら結にも睨まれていたらしい。


 そんなムードを下げない優矢に、そして相談に乗ってくれている結に「僕はね」と連は前置きをした。


「婿入りだから、を理由でやるべきこと……伝えたいことを伝えられないで終わりたくないんだ。だから、僕は仮染めじゃなくて……希朝さんにしっかりと伝える。でも、その、時間が欲しいだけなんだ」

「なるほどな。お前は既に、お前の道を進んでいたんだな。余計な心配だったぜ」

「ねえ、どういう意味?」


 あとで教えてやる、と疑問そうな結に優矢が言うので、二人の方が恋絡みの関係は良好なのではないだろうか。


 これで付き合っていないのが、優矢と結の不思議な関係と言える。


 ひょうひょうと結を躱しているので、優矢の軽さを見習うべきなのだろう。

 深く捉えすぎず、重く受け止めすぎない、そんな優矢の姿勢を。

 連が少し冷めたコーヒーを口にした時、優矢がぐっと指を上げていた。


「連、応援してるぜ」

「私も、希朝が関係してるから見守っている」

「二人とも……いや、優矢、紡木さん、ありがとう。ちゃんと伝えるから」


 本命に対して軽々しく口にできないのに、相談に乗ってくれた友人たちには口にできてしまう気持ちはもどかしいものだろう。


「そうだ。来月の期末テスト前にみんなで勉強したいのだけど」

「そういや、期末テスト六月だったな……」

「分かった。希朝さんや希夜ちゃんにも話したいから、少し決めておこうか」


 こうして自然と会話が移り変わる、そんな良い仲間を持てるようになったのは、星宮家に来たおかげだと連はしみじみ感じるのだった。

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