78 それぞれの幸せの形を探して
ゴールデンウィークが明ければ、いつも通り学校だ。
教室で休み期間にあった思い出話が飛び交っている中、連は今月の最重要なことについて悩んでいた。
考えすぎていたようで、不意に接近してくる彼に気付けなかった。
「よっ、久しぶりだな。おやおや、考えごとですかお兄さんや?」
「優矢、おはよう」
「おはよう……じゃなくて! 珍しく悩み事か?」
優矢は茶化し気味に聞きながら、前の椅子に腰を掛けた。
悩み事を勘づかれないようにしてきたが、見ただけで理解できる優矢の人間観察力。
優矢の人を見る目が高いのは今に始まったことではないので、連としては心を許せるのだが。
ニヤニヤしながら見てくるのもあり、連は軽く息を吐いた。
乗り気になったな、と言いたげな優矢には困ったものだろう。
「優矢には……僕が悩んでいるように見える?」
「珍しくな。それに、お前は悩んでいなかったら聞かないだろ?」
優矢の云う通りだ。
連は悩みがあれば自分で解決策を見つけるし、不可能であれば可能な限りの防衛を取るタイプである。
悩んでいるように、と聞いたのが迂闊だったと思うのは後の祭りだろう。
「で、何を悩んでいたんだよ?」
ここは優矢の手を借りてもいいだろう。
とは思ったものの、どこからともなく取り出したメロンパンを優矢が頬張っているので、信憑性に欠けるのも事実だ。
「……相手の欲しいものや、気になるものを理解する方法はないかな、って」
優矢には誤魔化し気味に伝えたが、連が迷っているのは他でもなく、気になる彼女についてだ。
彼女こと――希朝に関しては、いつもと同じように結と話しているが、その姿勢はどこか雰囲気が違う。
連が横目で希朝を見ていると、希朝は見ていることに気が付いたのか、のほほんとした笑みで手を振ってくる。
クラスメイトに見られていなかったのは良かったが、連からすれば大胆にされるのは心臓に悪いものだ。
優矢は視線を追っていたようで、がっしりと肩に手を置いてきた。
いつの間にかメロンパンを食べ終わっていたらしく、ナマケモノがようやっと歩いたように錯覚させてくる。
「お前の得意分野じゃないか」
「……は?」
貶しているわけではない、というのは理解できる。だが、優矢がニヤニヤ気味に言うのもあり、深層と触れあった方がいいだろう。
触れる以前に、得意分野と言われたのもあり首をかしげるしかないのだが。
「さり気なく聞ける、人に興味を示さない連だからな」
「人に興味を示さない……」
「おっと、そうは問屋が……あら? 変なものでも食ったか?」
優矢が驚いたように心配してくるのは、反撃をしないせいだろう。
親しい中にも礼儀あり。良いことと悪いことがあるように、連と優矢の間では無言の承諾を設けているのだから。
連自身、希朝に直接聞く、という手を思い浮かばなかったのもあり、実践してみようと思えるのだ。
希朝が意識しそうになれば、その時点で話題を変える手だったあるのだから。
むしろ、引き込んでしまう手だってある。
現実へと引き戻すように、優矢が目の前で手を振ってきた。
「れーん? 生きてるか?」
「生きているよ。生きた屍にしないで」
「そこまで言ってないだろ。お前の変化もだけど、ゴールデンウィーク明けのあの子は随分と注目の的のようで」
優矢はついで感覚なのか、希夜のクラスも訪れたらしい。
だが希夜は安全を考慮して控えめなのもあって、優矢でも変化を見抜けなかったようだ。
それでも希朝に関しては、見てわかる変化があるとのこと。
実際、連も見ただけで分かっているので、特に言うことはないのだが。
「何かやったのか? もしくは、夫婦喧――いだだだだ!? 連、本気すぎ、本気すぎだって!?」
優矢が面白いことを言いたそうだったので、連は圧のある視線を向けつつ、優矢の小指を軽くとった。
「僕は何も知らないよ?」
「分かったから、まがゆぅううう!?」
「……本当に世間知らず」
「何かありましたか?」
その時、結が希朝を連れて近づいてきていた。
無論、希朝には何を話していたのか言えないので、噂をしていた、とだけ伝えたのだが。
首を傾げる希朝は、本当に純粋なのだろう。




