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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第二章

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77 別れの日。そして、歩み。

 空は青かった。

 どこまでも先が続いているからこそ、途切れることがないと信頼出来るほどに。


 陽の日が差す下、連と希朝、希夜……そして柊凪と瑛人は、庭で向かい合っていた。

 ゴールデンウィークの最終日前。それは、短い期間の中であった別れも意味している。


 柊凪と瑛人は既に荷物を車に積んでおり、本当に向かい合うための時間を取っているのだ。その時間の今、連は自然と体に震えを感じていた。


 ――武者震いではない、初めて知る感情の震え。


「見送りはしなくてもいいのに」

「いつもちゃんとしてるでしょ? それに……連さんに知ってほしい、家族ですから」

「希朝、久しぶりに丁寧な言葉遣いね」


 ふと思えば、希朝は柊凪や瑛人の前ではくだけた言葉遣いをしていたので、凛とした自分を見せないようにしていたのだろう。

 それでも今は、親に自分らしさを見せているのかもしれない。

 希朝らしい、そんな彼女の姿を。


 微笑ましい光景だからか、希夜が隣でクスクスと笑っているのが見えた。


「希朝ねぇ、実際は親に甘えたいから、見送っているやんねぇ」

「あらまあ、そうなの、希朝ちゃん」

「お母さん……ちゃ、ちゃん呼びはやめて!」


 慌てるように頬を赤くする希朝は、希夜が時折本音を言ってしまうのを忘れていたのだろう。

 とはいえ希夜に圧ある視線を向けているので、許しは無いようだ。


「これなら、今後も問題はなさそうだな」


 瑛人が俯瞰しているのは変わらなかったが、放任主義と自称するだけあるのだろう。

 放任主義とは言っても、その温かさや大事にしている、というのは少しの間ではあったが十二分に感じられたのだ。


 瑛人はただ遠くから見ているだけではなく、必要に応じて手を貸してくれる、優しい人なのだと。

 この期間、本当の息子のように相手をしてくれたからこそ、実感できているのかもしれない。


 ふと気づけば、希朝と希夜と話していた柊凪が視線を向けてきた。


「連くん、一緒に居られて嬉しかったわ」


 柊凪のほんわかとした口調は、耳の奥へと澄み渡るように伝わってくる。


「僕も嬉しかったです」

「希朝を任せても大丈夫そうね。あー、それとね。希朝は結構大胆なパジャマを着てるから、欲情して手を出しても避妊だけはしてちょうだい」

「ひ、避妊って! お母さん、連さんとはその……しっかり未来で――」

「あらあら、もうそこまで話が進んでるの? 娘を大事にしてくれる婿で助かるわ」


 希朝は自爆したのもあってか、沸騰する勢いで顔を赤くしている。

 何度も顔を赤くする希朝は見たが、異性関係の話には弱いようだ。とはいえ、頬をうっすら赤く染めた希夜が隣でクイックイッと服を引っ張ってくるので、姉妹揃ってなのだろう。


「希朝ついでに希夜を弄るのはそのくらいでやめておきな」

「はーい」

「夏休みはこっちに戻ってこれないけど、冬休みに、希朝、希夜……そして連。成長している姿、良い報告を期待している」


 瑛人なりの鼓舞なのだろう。

 連はしっかりと頷いて、柊凪と瑛人を真正面から見た。

 光の加減もあってか、ピンクの宝石のように輝く柊凪の瞳は、やはり希朝の母親なのだと実感させられる。


 包容力がある、そんな雰囲気に。


「……その、家族として、僕を子どものように扱ってくれたこと、ありがとうございます」


 感謝を伝えると同時、瑛人の手が連の頭に伸びていた。

 髪をぐしゃぐしゃと撫でられる。その大きな手のひらで。


「扱ったわけじゃない。連は立派な息子であって、希朝のお婿だ。勇気をもって、堂々としておくんだ」

「まあ、瑛人さんたら」


 うちもうちも、と希夜が続いて伝えたいことを言っていたようだが、その間も頭を撫でられていた連は湧き上がる想いと葛藤していた。

 頭を撫でられたことが無いからこそ、湧き上がる想いが、感情があったのだから。


「そろそろ時間ね」

「先に車のエンジンをかけておくよ」

「お母さん、お父さん、体調には気をつけてね」

「本当に、こんなに成長しちゃって」

「もー、は、恥ずかしいから」

「うち、ひぃはは好きやんねぇ」


 柊凪にぎゅっと抱きしめられている希朝と希夜を、連は微笑ましく眺めた。



 瑛人と柊凪と別れてから、三人でリビングに戻ってきていた。

 いつもの日常が戻ってきただけなのに、どこか寂しさを感じてしまう。


 すぐに慣れますよ、と言う希朝は何度も経験しているからこそ、空いてしまう空間を知っているのだろう。


 初めての経験が多かった連にとっては、三人の日常に戻るだけとはいえ、思うところがあるのだ。


 三人それぞれで差布団に座っていた時、希朝が顔を覗き込んできた。


「連さん、少し前にも聞きましたが……家族はどうでしたか?」

「……嫌じゃなかった。その、温かかった」


 うまく言葉にできない感情は、今後味わうことはないだろう。

 それは星宮家でしか知り得ない、大切な感情だから。


 窓辺から光が差し込んだ時、希朝の微笑んだ顔が何よりも愛おしく見えた。


「おっと、希夜ちゃん?」

「うぅぅん……やんねぇ……」


 いきなりもたれかかってきた希夜はウトウトしており、瞼をどうにか上げようとしているのを見るに眠いようだ。


「今日は朝早かったですし、お昼まで少しお休みしましょうか」

「ここだと体に悪影響だから、お布団でも敷こうか」

「しゃんしぇぇ……」

「ふふ、きぃちゃんたら」


 お布団を敷いて、連と希朝、希夜は横になるのだった。

 一つのお布団の上で、温かな陽気に包まれながら。

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