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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第二章

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76 愛することは覚悟の連鎖

「あの、どうして外に?」


 連は朝から、瑛人に庭に連れ出されていた。

 横目で家の方を見ると、希朝と希夜が縁側に腰を掛けてお茶を嗜んでいる。

 明らかに瑛人に連れ出されている意味を理解しているようで、安心して見ているのだろうか。


「なに、簡単だ。婿としての覚悟はどうだ?」


 瑛人に改めて婿としての覚悟を問われたが、覚悟は決まっている。


「僕は、希朝さんの隣に立てるように……胸を張っていられるように、成長しますよ」


 真剣なのは変わらない。

 変わったのは、どのように立ちたい、と成長の兆しが増えたくらいだろう。

 今までなら、希朝の婿になって家柄を忘れるくらいの気持ちだった。だが、希朝の思いを聞いて、自分の思いと向き合い始めた連にとっては、ただの通過点に過ぎない。


 過去には二度と戻れない。

 忘れられないほどの思い出にして、成長して希朝の隣で守りたい意志。


「そうか、気に入った。ほらよ」


 手入れが念入りにされた木刀を連の方に投げてきた。

 宙に一回転した木刀は手持ちを下にし、すっぽりと手の鞘に納まる。


 見たところ、鋭利ではないが、空を切るくらいは容易くできそうな木質だ。

 もはや鋭利な刃物と言いたいが、あくまで赤い雨を降らせない考慮なのだろう。


「えぇちち、楽しそうやんねぇ」

「和を忘れていそうですが、家族の中だと和を一番重んじて、人を見抜く目は長けていますからね」

「外野がごちゃごちゃ言っているが……希朝を守る覚悟が本当にあるのか、直々に試させてもらおうか」

「はあ、連さんの覚悟はとっくに見ていますよね?」

「希朝ねぇ、完全に無視されてるやんねぇ」


 ふと気づけば、瑛人の手には黒い木刀が握られていた。


「男同士。言葉交わさず、熱く語るのもよいものだろ」

「戯言ですか?」

「ははは、言うようになったな」


 優矢らしさを不意に感じるのは、突拍子もないことをしてくるからだろうか。

 瑛人は恐らく優矢よりはマシだが、相手を試す、という観点においては強く出てしまっているのかもしれない。


 連自身、試されるのは構わない。

 ただ守るべきものがあったとしても、木刀を振るう相手は考えたいものだろう。

 本職の経験はないが、持ち手が久しい感触を思い出しているのだから。


 とはいえ木刀を構えた瑛人はしっかりと両手で持っているので、希朝が言っていた通り和の心得を持っているのだろう。


「瑛人さん、僕は剣道をやっていないので……フリースタイルでやらせてもらいますよ」

「好きに振ってみな。まあ、一撃も与えられないだろうけどな」

「怪我、しないでくださいよ」


 両手で構える瑛人を前に、連は左手を刀の後ろに添え、右手を少し前に出し気味で横にした。


 剣道なら縦に振るようにして持つのが基本らしい。だが、連の持ち方は一種の古武術に匹敵する。


 戒めでこそあるが、天夜家での教えがこの木刀を持つ手に集まってしまうのだ。


「古武術か。それをお目にかかれるのは、良いもんだ」


 瑛人が冷静に分析するので、打ち合いには慣れているのだろう。

 慣れているとはいえ、構えが違うもの同士となればいつも通りにはいかないはずだ。


 お互いに真正面で向き合い、距離を取ったまま静寂が訪れた。


 そして……葉の落ちる音が響く。


 吹いた風が肌を――撫でる。


「せぇいやぁああ!!」


 瑛人は凄まじい踏み込みをみせた。


「――っ!」


 振られた木刀に合わせ、連は木刀の根元で下へと方向を変えて受け流した。

 鈍い音共に、振り落とされた木刀は小石を跳ねさせた。


 宙を跳ねる小石を見るだけで、真正面から受けるのは愚の骨頂。とはいえ、簡易的な打ち合いであるのなら、真正面から伝え合うのも一つの手だ。


 追撃をせずにすぐさま構えなおす瑛人から、連は距離を取った。

 ジャンプしてすかさず距離を取ったのもあって、久しぶりに感じた柔軟性のある足首の機動力。


 集中とは裏腹に、木刀を持つ瑛人はどこか嬉しそうだった。


「さっきのが、天夜家に伝わる受け流しか。天夜家は結局、連の才能を見抜けなかったってわけか」

「……才能?」

「ああ。あの牢獄は君の成長を妨げる。だからこそ、知らない世界に触れて、君は君になればいいんだ」


 刹那、瑛人は先ほどよりも、速く、深く、連の目前へと迫っている。


(あれが全力じゃなかったの!?)


 既に木刀は振り落とされている。

 先ほどのように受け流すのは、距離的に不可能。

 不可能であるのなら、一度受けるのが正解だろう。


 連は瞬時に体の軸をずらし、木刀の根元で受け止めた。

 受け止めたはいいが、衰えない勢いと重厚感が体へと押し寄せる。


「……っぅ」


 連は息を吐き、刃先が当たる寸前で後ろに飛んだ。


 振り降ろされた木刀の空気だけが、肌にヒリヒリと当たる。


 瑛人は驚いたように目を丸くしている。だが、連が右手で持っていた木刀が、左手に移っているのを見て確信したらしい。


「綿のように軽かった。当たる寸前に力を流して、後ろに飛ぶことで回避したのか」

「瑛人さんと張り合えるほど僕に力はないですから」

「柔術があるだろ? それに、受け身だけじゃ、希朝の気は引けないな」


 思わず、希朝の方を見た。

 希朝は希夜と話しながらも、しっかりとこちらを見ている。


 瑛人の言う通り、確かに希朝の気を引こうとしたことは、数える程度にしかないだろう。否、故意的に気を引こうとしたことは無い可能性だってある。

 希朝が教室で待ってくれていたように、見てわかる気の引き方をしていないのだから。


 連は息を深く吐いて、右手に再度持ち替えた。


「次、振らせてもらいますよ」

「来てみな」


 息を吐き出した。

 周囲の息遣い、風が撫でる音、その全てが聞こえるほどに精神を澄ませる。

 息を吐き出すのと同じく、前傾姿勢に構え、木刀を両手で固定した。


 右腕を後ろに引き、左足を垂直に立てつつ右足も力強く伸ばし、地平線を其とした垂直へと刃を構えなおして。


 ひらりと舞う葉が落ちて、地の音を鳴らす。

 額を伝う水が、地に落ちた。


「でやぁああああ!!」


 一気に足を踏み抜き、間合いを詰めずに連は木刀を横に力強く振り切った。

 だが振るった木刀は音を立て、宙を舞っている。


「……え?」


 瑛人の木刀に触れた瞬間、刃の部分は綺麗に折れて、手持ちと根本だけが連の手に残っていたのだ。


 宙を舞った刃は回転し、後ろの地面へと突き刺さった。


 希朝や希夜の方に飛ばなかったのは良かったが、問題はそこではないだろう。

 木刀を見ると、明らかに細工を施された跡がある。それは、折れた断面が明らかに平面すぎたのだ。


 ゲラゲラと笑う瑛人の声が聞こえてくる。


「ははは、流石流石。実はな、夜な夜なぎりぎりまで、渡す木刀を頑張って削ってたんだよ」

「……何してるんですか!? そんな危ないものを持たせないでくださいよ!」

「別に怪我してないんだ、問題ないだろ」

「お父さん!!」


 笑っている瑛人に対して、希朝はご立腹とも取れる様子で近づいてきていた。

 希夜が苦笑しているのを見るに、希朝は怒っているのだろう。


 瑛人に近づくなり希朝は厳しい言葉を投げかけているので、相手が父親であっても度を越した行動を見逃す気は無いようだ。


「希朝、悪かったって。連」


 希朝を躱し、瑛人は連の方を見てきた。


「この休みが明けたら、希朝と希夜を頼んだからな」

「はい」

「……本当に、不器用な人ですよ」


 連はどことなく、父親という形を理解できた気がした。

 それは、本当の父親である仁の振る舞いを不意に重ねてしまったからだろう。


 目に見えなくても、間接的に伝えてくる……そんな父親の姿を。


 打ち合いを続けるのかと思ったが、瑛人は満足したようで終わりにするらしい。


 希朝と希夜が先に戻るのを見送って、踏み込みで荒らしてしまった庭の片づけに戻ろうとした時だった。


「連」

「なんでしょうか?」

「言い忘れてたけど、希朝の誕生日は今月の……」


 伝えられた衝撃の事実に、連は心拍数が上がるのを感じた。

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