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07 家族としての進行

 その夜、連は希朝と希夜とテーブルを囲み、夜ご飯を食べていた。

 夜ご飯は昨日に引き続き希朝が作ってくれたようで、テーブルには白米にお味噌汁、焼き鮭や焼き卵におひたしなど、和食料理が彩とりどりに並んでいる。


 学校でのことを思えば、希朝の手料理を食べられるのはとても幸せなのではないだろうか。

 クラスメイトが知れば羨ましがられそうだが、初日でクラスに馴染み切れなかった連にとっては縁のない話だ。とはいえ、親友である優矢が居てくれたのは、内心でホッとしている。


 箸を進めていると、希夜が話題を振ってきた。


「連にぃ、学校には慣れそう?」

「え、あ……うん」


 慣れそうか、と聞かれれば否に近いだろう。

 環境の変化もあるが、中学から一緒だった人たちの中に放り込まれたのも同然なので、一から対応するとなれば意味が違う。

 優矢が居てくれたから飲み込まれずに済んだだけで、答えはないに等しい。

 連自身、星宮家にお婿として来たことを知らなかったように、転校自体も唐突に決まったのだから。


 躊躇い気味に答えたせいか、はあ、と希朝がため息を一つこぼして箸を置いた。


「……そのゴミ、捨てきれていないのですか」


 鋭くも刺さるような視線に、返す言葉はなかった。

 希朝には最初の頃も言われたが、連は正直なところ意味を理解出来ていない。


「希朝ねぇは厳しいやんねぇ」


 箸を進めながらも苦笑する希夜は、希朝の言葉が日常的なものなのだと伝えてくるようだ。


「連にぃ、希朝ねぇが連にぃに投げかけるその言葉の意味は……あなたの行く道は応援する、でも諦めるなら捨てるだけ……過去よりも歩める未来を見た方がいい、って意味やんね」

「っ……! 希夜ちゃん!!」


 なるほど、と連が思っていれば、希朝は頬を赤くして、隣で箸を進めている希夜を軽く怒っていた。

 希朝の様子を見るに、本当は温かい意味が含まれていたようだ。

 希朝の優しさをたった二日とはいえ感じていた連からすれば、迷いなく受け入れられる真実でもある。


(……そのゴミを、捨てておいてください、か。……過去を引きずっている僕に、希朝さんが……)


 希朝のくれた言葉には、確かに思うところがあった。

 希朝とは初めて会ったような感覚もなかった。だが、それを踏まえてではなく、自分自身が成長したいと思うキッカケになっているのだろうか。


 少し考えていると「連さんを脅さないようにね」とにっこりとした笑みを見せながらも希夜に謎の圧をかけている希朝の姿が映った。

 自然と柔らかな表情を浮かべている希朝が、連は正直一番怖い気がした。


 それから食べ進めていると、希朝が静かに箸を置いた。

 流石に希夜も何事かと思ったようで、箸を咥えたまま希朝を見ている。

 希朝から視線を向けられている連は、首を傾げるしかなかった。


「連さん」

「は、はい」

「どうして敬語やんね?」

「唐突ではありますが、連さんには明日から、当番制としての実力があるかどうか確かめさせてもらいます」

「……とうばんせぇ……?」


 連は考えた末に、ポカンとするしかなかった。

 本当に唐突で、実力があるか確かめさせてもらう、と希朝から前もって言われると予想していなかったのだから。


 ふと気づけば、聞いていた希夜がくすくすと笑っていた。


「希朝ねぇは説明不足やんねぇ」

「……わざとですから」


 露骨すぎる気もするが、指摘しないで、と言いたげな希朝の視線に黙っておくことにした。


「負担になりすぎないように、料理とか家事を当番制にしてるんやんねぇ」

「そういうこと……」


 希夜が近くにあった所々が空白になっているカレンダーを指さしながら教えてくれた。

 カレンダーを見ると、大体は太陽マークが書いてあるので、基本は希朝がやってきたのだろう。とはいえ、月のマークが片手で数える程度しかないのだが。

 希朝たちは多忙な両親とは別で過ごしているようなので、家事や炊事は自ずと自分たちでやる必要があったのだろう。

 連としては、星宮家に住まわせてもらう以上は役に立ちたいと思っていたので、願ってもない話ではあるが。


「うん、やればいいんだね」

「理解が早くて助かります。……希夜ちゃん、どうして顔を赤くしてるの?」

「……べ、べつに、なんでもないやんね……なんでも……」


 希夜がぶんぶんと首を振るのもあり、綺麗な白髪が乱れながらも天使の羽を彷彿とさせてくる。

 頬を赤くしている希夜も気になるが、不思議がっている希朝に連は再度視線を向けた。


「えっと、具体的には何をすればいいの?」

「そうですね……洗濯と掃除、夜ご飯の準備をしてもらおうと考えています。急な話ではあるので、朝ご飯は私が作りますから」

「そんなに少なくていいんだね」

「希朝ねぇ、連にぃの感覚が一般的からかけ離れていそうやんねぇ」

「大丈夫ですよ。一般は一般で語るものではないので」

「……哲学やんねぇ」


 希夜が何を心配しているのかは不明だが、連はやると決めたらやり通す覚悟は持っている。


 実際、天夜家での実態と比べれば、希朝の提案は天国にすら思えるのだから。


 その時、希朝が一つ咳払いをした。


「い、一応言っておきますが、これは連さんがゴミを捨てる覚悟があるかどうか確かめるだけですからね」


 希朝はそう言って、味噌汁に口をつけていた。

 素直じゃないやんねぇ、と言いたげな希夜は口にしないで、照れ隠しなのかにやにやとしている。


 この姉妹は性格こそ真逆のようだが、見えない鎖で結ばれているのだろう。


「うん。頑張ってみるよ」

「……期待していますよ」


 微笑む希朝の笑みは眩しく、凝視してしまった連は鼓動が速まるのを誤魔化すように、静かに箸を進めるのだった。

 この度はお読みいただきありがとうございます。

 連と希朝、希夜の紡ぐこれからの日常が気になったり……この物語の人物が好きだよ、と思ったら、ブックマークや評価で気軽に応援していただけると励みになります!

 今作も変わらず完結する作品になっておりますので、連と希朝の恋の軌跡を温かく見守っていただけると幸いです。

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