68 交わり歩む意味
荷物を運び終えてから、改めて向い合うようにしてダイニングテーブルを囲っていた。
ローテーブルの方だと五人で囲うには物足りないようで、柊凪の要望だ。
連と希朝、希夜、瑛人と柊凪でダイニングテーブルを囲っているのもあり、人数の多さに過去を思い出してしまいそうになる。
今の家族に過去を重ねるのは良くないと分かっている。それなのに、脳はそれをはっきりと理解させてくれないのだ。
理解させてくれないのに、大丈夫、と安心できている。
隣に希朝が座っているからではない……そこに今があるからと、受け止めているおかげだろう。
希夜が不慣れながらも飲み物を注いだコップを五人分用意して、各々の前に置いてから、連の隣に座った時だった。
「連くん、最初に感謝をしないとね」
「感謝、ですか?」
「ええ。希朝や希夜に優しくしてくれて、私たちが居ない間も支えてくれていること、ありがとう」
柊凪は希夜よりもマイペースなのか、掴み所が無いのもあって反応しづらいものだ。
掴み所が無い故に、こうして距離を縮められても拒否感が出ないのも事実だろう。
「……どちらかと言えば、僕の方が希朝さんや希夜ちゃん、二人からたくさんの優しさをもらって支えてもらっています」
「遠慮することないのに」
母親は冷たい存在だ、と思っていたが考えを改める必要があるのだろう。
考えを改めたとしても本当の母親は変わらないし、過去は消えない。
だけど、家族と向き合っている今だから、楽しさも、寂しさも、嬉しさも分かると言える。
家族団欒という、ずっと夢みていた日々が、こうして目の前にあるから。
一緒に居られるだけでも幸せなのに、会話をできる瞬間が幸せだと胸を張れるほどに。
ふと気づけば、柊凪の表情にうっすらと影が見えた。
「ねえ、連くんは、婿入りの話を受け止めてくれているの?」
「……僕は――」
「お母さん、それは私の方から言わせて」
言葉を遮ったのは、隣で静かに聞いていた希朝だ。
どこか覚悟が、情熱が宿った声色は、任せても大丈夫だという安心感をひしひしと伝えてくる。
「ずっと連さんと話してきたの。それでね、その決断を私に話してくれる日がいずれ来るの」
「私たちが心配する必要はなかったみたいね」
にこやかに口角を上げる柊凪は、他人の幸せを受け入れられるほど広い心の持ち主なのだろう。
希朝が正々堂々と宣言したのもあり、連はうちから熱が込み上げてくるようなものだ。
柊凪の喜びとは別に、瑛人から妙に真剣な視線を飛ばされていたことに連は気が付いた。
同じくして違和感を覚えたのか、希夜が首を傾げた時だった。
「連のやりたいように、決めたいようにしてほしいけどな」
「瑛人さん」
「家族が増えるのは構わないが、希朝と付き合うことを強制するほどの人間じゃないからな」
「そんな辛辣は駄目よ、瑛人さん」
もー、と頬を膨らませる柊凪に、放任主義なんで、と瑛人は言いつつも柊凪にべったりと寄り添っていた。
先ほどまでとは打って変わって、目の前でいちゃつく二人に疑問を覚えそうだ。
とはいえ、両親が仲睦まじいのは羨ましさすらある。
真夏のような優しい温かさのある柊凪、放任主義でクールな真冬のような瑛人だが、見えない絆で結ばれているのだろうか。
希朝と子作りをさせても、とかパワーワードが聞こえてきたが、連は聞かないようにした。
その時、ふわりと温かな息が耳を撫でた。
「連さん、お母さんとお父さんはいつもの事なので、気にしないでください」
「そ、そうなんだ」
「そうやんねぇ」
希朝の言葉に付け加えるように、希夜はちゃっかりと連の上に座ってきた。
相変わらず軽いので、しっかり食べているのか不安になる。とはいえ、希夜が内緒で夜食を食べているのは知っているので、口に出す必要もないのだが。
「ひぃはは、うちの事をすぐに受け入れてくれたやんねぇ。えぇちち、放任主義言ってるけど誰よりも家族思いで、うちや希朝ねぇを大事にしてくれてるやんねぇ」
希夜は言葉足らずであるが、希夜目線で実感している世界を伝えてくれたのだろう。
この二人の優しさは数時間とはいえ、連も伝わっている。
受け入れてくれる。それだけでも、連にとっては夢にまで見た、理想だから。
「その様子だと、希夜が違う世界から来たことを話すほど信用しているのか」
「そんなに仲がいいのね。ねえねえ、連くん、もう私たちの子どもみたいなものなんだし我儘を言ってもいいのよ?」
柊凪のマイペースさに言葉が詰まりそうだ。
我儘、と言われても咄嗟に思いつくわけがなく、我儘は何よりも連が苦手としているものだ。
希朝にも好きにしていいと言われているが、ただ生活をさせてもらえるだけで幸せな連にとっては。
「じゃあ、うち、今度ひぃははとえぇちちと、お買い物に行きたいやんねぇ」
「あら、希夜ちゃんの我儘、可愛いわねぇ」
「この二人は置いといて。連。家族であることに変わりはないから、いつでも我儘を言ってくれてもいい。君の事情を知っているから無理強いをする気がないだけだが、大切な息子に変わりはないからな」
しっかりと口にしてくれた瑛人に、目じりが熱くなりそうだった。
泣いておくやんねぇ? と希夜が疑問そうに上目遣いで聞いてくるのもあり、泣かないよ、と答えておく。
婿だから特別扱いをしているわけではなく、本当に家族の一員として迎え入れてくれているのだろう。
気持ちを受け止めたせいか、連は自然と笑みを少しだけこぼしていた。
そんな連の笑みを、希朝が隣で微笑ましそうに見ていたことにその時は気付かなかった。
「そうね。でも、連くん、この後の予定の話をする前に一つだけ言っておくことがあるの」
「言っておくこと?」
「希朝との未来を築くのはいいけど、今の歳なら避妊はしてね? 別に、希朝の衣服纏わぬ姿を見るのは二人の勝手だもの」
「お、お母さん!?」
「衣服、纏わぬ……いだっ!?」
希朝を見て、白い霧に包まれるふくよかな想像をしてしまったのは、きっと罪なのだろう。
連自身、やはり男なのだと、誘導されたとはいえ痛感するものだ。
希朝が壊れた玩具のように言葉を繰り返している中、希夜がピクリとしたのもあり、頭突きを容赦なく顎に連は食らったのだが。
「まあ、別嬪な娘二人と同じ屋根の下で過ごしてんだ、欲情しない方が異性としては無理があるだろ」
「え、瑛人さん!? ちょっ、希夜ちゃ――いだぁあい!?」
顔を真っ赤にした希夜の頭突きを食らいつつ、家族でゴールデンウィーク中はどう過ごすのか、という話をするのだった。




