66 予定を埋めるのは憩いの場で
「連さん、ゴールデンウィークはお暇していますよね?」
五月に入った日、希朝は唐突に聞いてきた。
今は希朝と希夜と一緒にリビングでくつろいでいたのだが、連は目を丸くするしかなかった。
連と希朝がお茶を飲んでいる際、連の足の間に座ってテレビゲームをしている希夜は相変わらずマイペースなようで、話に入る気はなさそうだ。
話をする以前に、希朝が半ば決めつけ気味で聞いてきたのもあり、困惑がより一層濃くなるのだが。
「ま、まあ、暇ではあるけど」
暇以外の選択肢を与えてくれていない可能性もあるが、実際のところ連は暇だ。
ゴールデンウィーク自体、優矢に誘われていないので予定は自然と空くのもあるが、休日の過ごし方を連は知らないのだから。
連に予定が無いと解釈したようで、希朝はどこか安心した様子を見せていた。
そんな希朝の様子を察してか、希夜がワクワクした様子でゲームを止めて、連の顔を見上げてきているので話に混ざる気満々のようだ。
「きぃちゃんは気づいたようですね」
「恒例行事やんねぇ」
「……恒例行事?」
ゴールデンウィークが毎年の行事であるのは理解しているが、希朝と希夜は別の意味を持っているのだろう。
首をかしげていると、希朝はこちらをしっかりと見てきた。
「連さん、単刀直入に言いますと、ゴールデンウィークの初日から私の両親……お母さんとお父さんが家に帰ってくるのですよ」
「長期休暇の時はお仕事で忙しくて会えなかったから、久しぶりやんねぇ」
希夜の発言的に、冬休みと春休み以前、夏休みにも会っていなかったのだろう。
連としては、希朝の両親とは幼い頃に出会っただけなのもあり、顔合わせも含めて少しだけ心配が込み上げてくる。
「お母さんとお父さんは癖こそ強い人ですけど、連さんの事も気に入ってくれますよ」
「ひぃはは、うちの事もすぐに受け入れてくれたやんねぇ」
「そうでしたね。まあ、お母さんはきぃちゃんを一目見て気に入っていましたからね」
希夜も連と同じく、ある意味別の家族ではあるので、受け入れられる幸せを知っているのだろう。
雰囲気こそ覚えていないが、希朝の両親が良い人たちだと、引き取ってくれただけでも感じている。
ワクワクしている希夜に水を差すつもりはなかったが、連はふと思い出したことを口にした。
「希朝さん、前に言っていた、距離感の話は大丈夫なの?」
「心配ありませんよ。あの時の私は焦っていましたが……今は希夜ちゃんに」
希朝が希夜の頭を優しく撫でると、希夜は心地よさそうに目を細めていた。
希夜の健やかな笑みから視線は外されて、ピンクの瞳は連の姿を反射している。
「連さんが傍にいますから」
「……ならよかった」
連自身、婿入りという壁の距離は未だにあるが、希朝との関係自体は縮まったと自覚している。
縮まったとしても、それ以上の関係に足を踏み出せていないのも事実だが。
(……両親、か)
不意に連は、あることを思い出した。
あの日、連の両親がここにやってきて、父親がその際にポケットの中へと手紙を忍ばせたこと。
未だに手紙の文章を全て読む気にもなれないのは、自分は捨てられたんだ、という呪縛に捕らわれているからなのかもしれない。
そんな気持ちもあって、その手紙は二重構造の引き出しの中に眠らせたまま。
目の前で楽しそうに会話をする希朝と希夜。どうしても、家族という距離に、連は踏み込めなかった。
「……捨てきれていませんか」
心配そうに聞いてくる希朝と、そして見上げている希夜に、連はそっと首を横に振った。
捨てきれていないが、両親を憎むことや、恨むことはしていない。むしろ、こうやって囲まれる家族、希朝や希夜に会わせてくれたことに感謝している。
ふと気づけば、二人の手が連の頭を撫でていた。
「うちらは家族やんねぇ」
「連さん、無理強いはしませんが、いつでも相談してくださいね」
「うん。ありがとう、希朝さん、希夜ちゃん」
「久しぶりにうじうじした連さん、可愛いです」
「ど、どこがっ!?」
「そういうところ、ですよ」
これだから、希朝と希夜の優しさは心に染みるものがあるのだ。
ゴールデンウィークはきっと、今までにない経験をする機会の訪れと言えるのだろう。




