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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第二章

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65 星の子の変化と、無防備な小悪魔

 休日明けの学校は、妙に騒がしかった。

 騒がしいというよりも、目に見てわかる変化が起きたせいだろう。

 星の子……いや、星宮希朝が以前よりも自然に笑顔を浮かべており、見る人を魅了しているからだ。

 性別問わず射貫くその笑みは、誰が見ても輝く宝石だろう。


 星の子であった希朝を知っている人からすれば、近しい存在になったのかもしれない。それでも、連は希朝が装いの笑みを携えていると、家族として過ごしている時間から理解している。


 希朝の本当の笑顔は自分と希夜だけが知っている、そんな幸せだと。


 教室含めて騒がしくなっているのもあり、席に座っていた連の前には珍しく二人揃ってやってきているのだが。


「なあ、連」

「知らない」

「何も言ってないんだが!?」

「天夜さん、希朝に何をしたの?」

「……何もしてないよ。あれが、希朝さんだから」


 連は自然と笑みを浮かべていた。

 希朝が希朝らしくいる、それが何よりも嬉しいと感じられるからだ。

 連にとっては笑みを浮かべない理由がないとはいえ、二人からすれば疑問でしかないのだろう。


 実際のところ、希朝から星の子の振る舞いを変えるとは聞いていたが、ここまで変えるのは正直予想外である。

 距離感程度、と予想していたが、ちゃんと希朝らしく変わるのは良い意味でも成長を感じるものだろう。


 ふと気づけば、結は肩を落としていた。


「希朝の周りに湧かないか心配よ」

「ならいっそ、連が婿に――うぅうっつ!?」

「この世間知らず! そんな話題を流せば騒ぎどころの話じゃなくなるでしょうに!」

「すまなかった! それと連、無言で足を本気で踏むな痛いがぁああ!?」


 優矢が爆弾発言を軽くしたが、それを考慮しても足を軽く踏む程度で済ましているので優しいものだろう。

 結が優矢に呆れていた時、聞きなれた声が耳を撫でた。


「ふふ、お友達がいるのは良いことですね。連さん」


 いつの間にか希朝は近づいてきていたようで、自然と話の輪に入ってきたのだ。

 無論、星の子に近しい笑みを浮かべているのもあり、周囲にいたクラスメイトの視線を集めている。


 待っていましたと言わんばかりに、水を得た魚のように優矢が肘で小突いてきた。


「おい連、言われてんぞ~このこのっ」

「優矢……」

「希朝、少し向こうでお話ししない?」

「連さんは賑やかな方々に恵まれていますね。そうですね、お話ししましょうか」


 結がうまく希朝を誘導してくれたのは助かるが、歩くイェス・ユア・筋肉の優矢が変に目立ったのと、連の名前を希朝が自然に呼んだのもあって瞬く間に噂に広がったのは変えることが出来なかった。


 希朝と一緒に登校していても、慣れないものは未だにあるように。




 学校が終わり、自宅のリビングで連は希朝に疑問を投げかけた。


「……希朝さん、あんなに明るく振舞って、星の子……希朝さん自身の印象が大きく変わりすぎないの?」


 星の子という言葉を使うのは不本意だが、聞くからには仕方ないだろう。


 希朝は冷蔵庫から容器を一つ取り出し、ドアを静かに閉めてから連の方を向いた。

 ダイニングテーブルの椅子に座っている連の隣に希朝は腰をかけてから、そっと柔らかな笑みを浮かべている。

 小悪魔の笑みとも受け取れる、連が知っている笑みを。


「心配ありませんよ」

「そっか」

「ええ。私は本来あんな感じですし……今までが周りの目を気にしすぎていたのかもしれません」


 どこか重く思えるのに、吹っ切れたような軽さすらも感じさせる淡々とした口調。


 希朝の過去を聞いたとはいえ、ここまで捨てきれるものだろうか。


 ふと気づけば、希朝はじっと見てきていた。

 ピンクの宇宙を連の姿が泳いでおり、視線の先には連しか見ていないと伝えてくるようだ。


「連さんは、幻滅しましたか」


 希朝が心配するように聞いてきたが、迷わず首を横に振った。


「希朝さんが近くに来た感じがして嬉しいよ。でも、紡木さんが言っていたけど、寄ってたかる人が居ないかは心配かな」


 希朝は分かっていたかのように「既に手は打ってあります」と言ってくるので、用意周到にも程があるだろう。

 どんな手を打ったのか気になるが、希朝が悪に手を染めることはないと安心している。


 問題としては、登校中に弊害があるかだが、希朝と希夜は自分の手で守れば問題ないだろう。


 連が自分の手を見て開いたり閉じたりしていたのもあってか、見ていた希朝は微笑んでいた。


「でも、少しすれば五月ですし、祝日を挟むので先でしょうけど」

「……祝日?」


 希朝が祝日を誇張したが、連は首をかしげるしかなかった。

 幼い頃から休日や祝日と縁がなかったのもあり、行事ごとに疎いのがいけないのだろう。


 希朝の変化が微笑ましい、と脳内変換していた時、希朝は持ってきていた容器の蓋を開けていた。


「連さん、今は希夜ちゃんが居ませんし、一緒に食べましょう。美味しいですよ、このプリン」


 希朝はプリンを取り出していたようで、用意していたスプーンで艶やかな色合いをした薄黄色のプリンを掬っていた。


 そして一口食べては、美味しそうに頬をとろけさせている。

 女の子の食べている顔はまじまじと見るものではないと理解している。だが、ふと見て思わず息を呑み込んでしまうほどに、美味しそう表情を浮かべる希朝は小悪魔だろう。


「ほら、美味しいですよ。連さんも」

「えっと、その」


 希朝は自分の手で食べさせたいのか、持っていたスプーンをそのままに、もう一度プリンを掬って口元に差し出してきた。


 今までの経験もあって連は動揺するしかないのだが、希朝は気にした様子を見せずに、なんで食べないのですか、と言いたげな視線を向けてくるのだ。


 そして連が諦めて口を開けば、希朝は幸せそうに口の中へとプリンを運んでくる。


 あーんをされ、仕舞いには間接キスをしてしまったのもあり、希夜がこの場に居なくてよかったという安心感が込み上げてくる。


 口の中には、卵のとろける優しい舌ざわりに、香ばしいキャラメルソースのビターな味わいがまろやかに広がりつつも、明らかに別の甘さが突き抜けてくるようだった。


「……甘い」

「プリンですからね。……今、首より下に視線を向けませんでしたか?」

「向けてないから!?」


 プリンを食べて視線を逸らしたが、まさか胸元を見ていることになるとは思わないだろう。


 希朝は確かに、程よさそうなふくらみを持っている。だが、連はそこまで落ちぶれていなければ、希朝を大事にしたい気持ちがより強くなっているのだ。


「ふふ、冗談です」

「心臓に悪い冗談はやめてほしい」

「連さん、私をもっと見ちゃいましたか?」

「希朝さんを見ていない日は無いよ」


 希朝は自分で言って、返答されて恥ずかしくなったのか、気を逸らすようにプリンを口にしていた。

 ある意味で無謀な希朝に、やはり連は心配するしかなかった。

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