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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第二章

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54 たとえ非日常の妹だったとしても

 落ち着いてから、三人で和室のテーブルを囲っていた。


「えっと、希朝さんと希夜ちゃんは姉妹だけど。正確には希夜ちゃんが違う世界からやってきた家族で、血は繋がっていないけど血の繋がった家族ってことでいいの?」

「そういうことになりますね」


 希朝が連と希夜を探していた理由は、姉妹の秘密――希夜が並行世界からやってきた存在であることを伝えるためだったらしい。


 唐突な告白ではあるが、不思議ではなかった。

 希夜の深く干渉しないことや、希朝と違ってこの世界を知らない様子を見ていれば、長くいればある程度は疑問として残るのだから。


 連としては、なぜ希朝がいきなりこの話を持ち出したのか、が一番疑問ではあるのだが。

 ふと気づけば、先ほどまでおとなしく希朝の隣に座っていた希夜は、むすっと頬をふくらませていた。


「別の世界からうちが来たってところ、本当は驚くところやんねぇ」


 希夜がむすっとしている原因は、連が動揺していないところにあったらしい。

 実際、明かされた希夜の真実に困惑の一つでもした方が良かったのだろう。


 連は咳払いをしてから、わざとらしく両手を広げてみせた。


「わぁ、驚いた。希夜ちゃんは、夜しかない世界から来た、希朝さんの妹だったんだね」

「……っ! この大根役者ぁ!」


 驚いてみせても不服だったようで、希夜のむすっとした頬は更に膨らんでいる。

 希夜に驚かないのではなく、どちらかと言えば家族を知れたのが嬉しいと、初めての成長に連は戸惑いを覚えているからだ。


(……希夜ちゃんは特別なんだね)


 希夜の白髪は、夜の世界でも見つけやすいように変わったのだろう。また、前に希夜がオペレーターと言っていたのは、裏方で援護をしていた影響らしい。


 希夜が連よりも恋愛面で疎い理由や、家族と離れたくないと言っていたのは、もう一度失うのが怖かったからなのだろう。


 希夜は重いものを背負ってこの世界に来ているのかもしれない。


 人は、生まれた瞬間から個として特別だ。


「そういえば、希夜ちゃんのあの蹴りはその世界の護身術だったりするの?」


 ふと思ったとはいえ、聞いてしまったのは良くなかっただろう。

 こくこくと頷く希夜は、あまり答える気はないようだ。

 ドア越し含め、希夜に強引に聞かれそうになった時にあの蹴りのすさまじさを体験しているのもあり、純粋に興味が沸いたのである。


 白の前髪が希夜の視界にちらちらとしていそうなので、連は深く触れないようにした。

 自分にもあったように、人には触れてほしくない秘密の一つや二つは抱えているのだから。

 無理して聞くのではなく、本人が話したいときに話せばいい……それを連は、この星宮家で学んだのだ。


 風が柔く吹いたのか、地に葉音を立てた。


「……連さん、どうしてこの話をしたと思いますか」


 しっかりとした姿勢で聞いてくる希朝は、圧をかけているわけでも無く、ただ純粋に聞いてきているようだ。


 少し頬を赤らめる希朝に、連は頭を悩ませるしかなかった。

 その時、希夜がやんわりと口を開いた。


「今まで偽っていたことを謝るのもそうだけど、婿入りとしての話に関係があるやんねぇ」

「……婿入りに?」


 希夜の言葉に頭を悩ませるしかなかった。

 婿入り……それは本来、希朝に対して将来の時間を授けるようなものだ。

 だからこそ、希夜の話をされたところで関係性が無いに等しいと言える。


 言えるのだが、連はふとあることを思い出した。それでも、その言葉を口に出来ないのは、希朝が話してくれると確信したからだ。


 不意に首をかしげてみせると、希朝は案の定、覚悟を決めたように真剣に見てきている。


 ピンクの瞳の奥に映る連の姿から見ても、ゆるぎない芯を感じさせてくるようだ。


「……たとえ血が繋がっていなくても、家族としての形であって……希夜ちゃんは私の妹です」

「……希朝ねぇ」

「だから連さんには、私と結婚しても希夜ちゃんと一緒に暮らしていける家族になりたいから……形を知ってもらいたくて、この話をしました」


 希朝の言葉は、一言で表すなら不器用だ。

 希朝が希夜のことを誰よりも大事にしているのは、連が一番身近で見ており理解している。だからこそ、希夜も欠けてはいけない家族だと知っている。


 連自身、家族の形を歪んだ意味でしか知らない。

 家族としてやっていけるのか、心配、その不安すら拭い切れていない方だ。

 そっと息を吸い込むと、希朝の隣で微笑んでいる希夜の姿が見えた。

 おっとりと微笑む希夜は全てを受け止める、折れない覚悟があるのだろう。


「――僕はもう迷わないよ」


 今までなら、決める事すら出来なかっただろう。


 連は立ち上がり、希朝の横に歩んだ。

 求めていたこの手を伸ばし、ゆっくりと希朝の頭に指先は触れている。

 艶やかで絡みのない繊細さを持ったストレートの黒の長髪は、その指先に確かな熱を感じさせてきた。


 おどおどした様子で見てくる希朝に、連は頭を優しく撫でながら微笑んだ。


「非日常的な家族でも、僕の妹は希夜ちゃんだし、家族として居られるのならそれを望みたい」


 日の浴びる方向を必死に向き、今を踏み出す決意に身をゆだね、足跡を残していくために。

 這いずっても見つからない、前を向くためにある。


 言い切った時、希夜はニコニコしたように立ち上がった。


「連にぃ、覚悟が決まったんやんねぇ。それじゃあ、希朝ねぇと契りを――」

「ちょっと待って希夜ちゃん、それはまだ話が早いから!」

「そうですよ、きぃちゃん。私は連さんを待っているので、連さんのペースを見守りたいのですよ」

「うちは早く、希朝ねぇと連にぃの子どもがみたいやんねぇ」

「希夜ちゃん、この歳でそういうのはよくないからね!?」

「きぃちゃん、そんな……子どもだなんて、駄目です」

「二人共、まるで親みたいやんねぇ」


 連は希朝と顔を見合わせて、恥ずかしくなっていた。

 これは希夜のペースに自然と乗せられていたのだろう。


「……うち、二人と一緒になれて……とてもとても幸せやんねぇ」


 恥ずかしくなっていた連と希朝は、希夜がほんのりと呟いた言葉についぞ気づかなかった。

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