53 変わりゆく日常の変化
(……疲れた)
心の中は弱音を吐いてしまう。
無事に教室に辿り着いた連は、様々な視線から解放されて疲弊していた。
クラスメイトからの視線は飛んでくるので、気休め程度にしかならないのだが。
「よっ、朝のヒーローインタビューはお好きかい?」
意気揚々と近づいてきたのは優矢だ。
おかげで、明らかに異質と言える程の視線が数名から飛ばされている。
「……優矢と同じクラスでよかったよ」
「ははは、この学校は仲がいい奴らで固める傾向があるからな。……連さんや、それだけじゃないだろ?」
と言って視線を別の場所に向ける優矢の先には、クラスの中で一番星の人気と言える存在が輝いている。
新学年……高校二年生となった連のクラス、星の子と呼ばれる希朝が一緒になったのだ。
案の定、希朝は周りの女子からの視線はもちろん、一緒になりたいと願っていた男子諸君の視線を集めている。
連としては、その視線が嫌味でないことを祈るばかりだ。
ため息を一つ吐けば、優矢はわざとらしく肘で小突いてくる。
「朝から星の子である二人と一緒に登校なんて、連も立派になったな」
「……誰目線……」
明らかに親目線で優矢は見てきているが、深くは突っ込まないのが身のためだ。
優矢からカウンターを食らうのは目に見えているので、聞くだけ無駄というものである。
黙って優矢を睨みつければ、その顔は引きづっているので意味は理解しているのだろう。
その時、優矢は何故か周りを確認していた。
「いやいや、お嫁さんと一緒になれてよかったじゃないか」
優矢にそう言われたのもあり、連は思わず希朝の方を見た。
ちょうど希朝はこちらを見ていたらしく、手を軽く振っている。
周りでは勘違いをしている人もいるが、明らかに連を意識して手を振ったのだろう。
体内に抜けない熱を感じつつも、やんわりとした視線を向けてくる優矢にイラつきを覚えそうだ。
「連、どうかしたか?」
「……どうもしてない」
「なんでいきなり怒ってんだよ!?」
「……うるさい」
「まるで野生の獣だな」
希朝の振る舞いもあるが、連は優矢に呆れるしかなかった。
(……大変だった)
学校から帰宅した連は、部屋でどっと疲れていた。
同じクラスになった人たちから色々と問い詰められたのもあり、久しぶりに連は疲弊を感じたのだ。
下校も希朝と希夜と一緒にしたのだが、やはり周りからの視線は慣れたものではない。
普段から希朝と希夜がこの視線を浴びているのを考えれば、二人は美少女ゆえの苦労人なのだろう。
「シャワーでも浴びてこよう」
変にじんわりと汗がにじむ体に鞭を打つように、連は突っ伏していた体を持ち上げた。
洗面所兼脱衣所の位置にも慣れたもので、足取りだけは軽々しさを感じさせてくる。
ドアノブに手を伸ばし、木製のドアを開けた時だった。
「……えっ?」
「……!? ……はうぅ……」
ドアを開ければ、そこには湯気を立ちぼらせながら、白髪の少女――希夜がタオルを胸元に持ちながら立っていた。
希夜はちょうど湯上りのようで衣服を身に纏っておらず、血色の良い肌は柔く水を弾くように潤い、やんわりと赤い肌の白さをより鮮明に見せている。
小さな果実は寄せられたタオルで妙に形を変えており、見ている連にとっては塩辛いものだ。
「ごめんなさい!」
すぐさまドアを閉めた、が時は既に動いている。
「きゃぁあああ!! なんで覗くんやんねぇ!! ノックくらいしてやんねぇ!」
「いっだあぁああい!?」
案の定、希夜は木製のドアをものともしない真横に突き出す蹴りで、ドアごと連にぶつけてきたのだ。
蹴られたドアは連を下敷きにしたのもあり、出会った時ぶりにドアの重さを実感した。
廊下にぷすぷすと煙を昇らせていると、足音が駆け寄り気味に近づいてきた。
「よかった。きぃちゃんと連さん、探していたのですよ」
「う、うちよりマイペースやんねぇ」
「きぃちゃん、湯冷めしないうちに拭いて服を着てください。連さんは私が助けておきますから」
希朝がなぜ探していたのか不明なまま、連は救われるのだった。
その際、希夜に何度も謝ったのは言うまでもないだろう。




