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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第一章

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47 春休みの始まりと

(……なんだか、あっという間だった)


 今日という日は、高校一年生の終了を意味する日――修了式だ。

 周囲では仲が良いグループ、そして馴染めなかった人たちで集まり、様々な会話が聞こえてくる。

 クラスがこのままであってほしい人や、少し新しい空気がほしい人、色々な想いが交差しているようだ。


 クラス替え云々の話が出ていたが、連にとってはよくわからないのもあり首を傾げるしかないのだが。


 そわそわした空気がはびこっている中、円から抜けるようにしてある人物――優矢がにこやかな笑みを携えて近づいてきていた。


「……優矢」

「そう睨むなよ、子猫みたいで可愛いな」

「誰が子どもだって?」

「俺が悪かったから、頼むから足を強く踏まないでくれ!?」


 にやけ顔になった優矢にお灸を据えるように、連は加減をしつつ優矢の足を踏んだ。

 足を離すと、優矢は苦笑しながらこちらを見てくる。


「にしても、連はこのクラスに馴染めなかったな」

「……仕方ないだろ。……でも、僕は優矢が居てくれたから、楽しめた」

「そうかそうか。そんなに俺のことが好きだったんだな……このこのー」

「妄想税を取った方がいい?」

「何のだ!?」

「独立国家への反逆として」

「……連は、国だったのか?」


 勢いに負けている優矢を他所に、窓辺の方を見た。

 この机の位置から眺める窓の外も、最後になるだろう。


 優矢の言っている通り、このクラスに馴染めなかったのも事実だ。

 否……馴染めなかったと言うよりも、馴染もうとしなかったが正しいだろう。

 優矢は連の過去を知っているうえで、あのような言い回しをし、少しくらい上を向いて歩け、という隠語を含めていると連は知っている。


 ため息一つこぼした時、優矢が頬を無理やり指で押してきた。


「今度は何?」

「春休み勉強を教えてもらいたいって言っただろ? ――あれは撤回だ」

「……は? 少しは脳を使って話してもらってもいい?」

「おいおい、そんな邪険した顔すんなよ」

「誰のせいだと」

「へっ、単刀直入に言うとよ。……今日でもいいか、勉強を教えてもらうの?」

「最初からそう言ってくれればいいのに。ちょっと、連絡とってみる」


 優矢に報連相は求めるだけ無駄なので、連は渋々スマホを取り出した。

 メッセージを打てばすぐに既読が二つ付いたので、丁度見ていたのだろうか。

 もしくは修了式を終えて解散になっていたのもあり、二人は既に家に帰っていた可能性もある。


「……優矢、少し付き合ってもらってからで」

「おうよ!」


 優矢を引き連れ、教室を後にするのだった。




 お昼を食べ終えてから、連は優矢と一緒に星宮家の和室に居た。

 連絡をした際、希朝たちからお昼の食材調達を頼まれた代わりに、勉強を教える許可は簡単に得られたのだ。というよりも、変な人を連れてこない限りは、自由にしてもらってもいいのだとか。


 連自身、自由にさせられすぎても困るのだが、希朝は最初の頃から変わっていないのだろう。

 自分らしさを大切にしてくれる、その気持ちは。


 テーブルの上に勉強する資料を広げていると、わざとらしく優矢は背伸びをしていた。


「いやー、にしても連の腕は落ちてないんだな」

「……それはどうも」

「まさしく、文明の力を持たせれば神の手そのものだな。口の中でべっちゃりせず、喉が軽く受けいれる、程よい塩梅のチャーハンを作るなんて乙なやつだぜ」


 おそらく優矢は、連が自然を使って料理していたのを知っているので、それを重ね合わせたうえでも評価してくれているのだろう。

 とはいえ優矢に何度か普通にお昼を作っているので、料理の腕前を褒められるのは悪くなかった。


 勉強から逸れるように優矢が語っていると、ふすまをノックする音がした。


「……失礼します。飲み物をお持ちしたので、置いておきますね」

「急にお邪魔してすんません」

「連さんが決めたことですので、私は問題ありませんよ」


 連自身、希朝に優先されすぎても怖いのだが、一定の距離感があるのは希朝らしいのだろう。


 希朝は近くに飲み物を載せたトレイを置きつつ、テーブルを見ていた。

 テーブルには資料を並べ、優矢に教えやすくしている程度だ。だが、希朝は何か気にした様子を見せている。


「希朝さん、どうかしたの?」

「……お前、星宮さんには甘いよな……」

「いえ、その……連さんと高橋さんは、昔からの知り合い、なのですよね?」


 希朝がどこまで優矢に聞いたのかは不明だが、この様子を見るに深くは教えていないようだ。

 実際、連も聞かれない限りは優矢との事は話さないので、希朝が知る由もないのだが。


 顔色を少し曇らせつつも、連は優矢をチラリと見た。

 優矢が頷いてくれるので、話す気はあるらしい。


「知り合いって言うか、俺と連は小学生の頃は同じ学校に通ってたんだ。で、中学生の頃、俺が分け合って今の学校に行ってから、連とは疎遠になったんだ」

「……疎遠に、ですか?」

「ああ。言っちまえば、俺はここら辺の地域に引っ越した、ってところだな」


 軽々しく言い切る優矢に、顔を曇らせるしかなかった。

 優矢はあたかも、自分の家族が、的な言い回しをしているが恐らくは違うだろう。違うと言うよりも、違わなければいけないのだ。


 ふと気づけば優矢は知った様子を見せずに、こちらを呆れたように見てきた。


「なあ、連。まさかだけどよ、未来のお嫁さんに未来永劫大親友のことを話してないのか?」

「……聞かれてなかったから」

「えっと、私に話してもよかったのでしょうか?」


 一番困惑しているのは希朝だろう。

 優矢が気にした様子を見せていないとはいえ、連の方が顔を曇らせていれば、察しが良い希朝であれば不信感は抱くはずだ。


「どうせ、こいつを知れば、どこかで知ることになっただろうからな」

「……優矢」

「いやいやー、お婿さんを独占して悪いですなー」

「べ、別に今はそんな関係じゃありませんから!」


 優矢の茶化しが効いたようで、希朝は顔を赤くして部屋を後にしていった。

 連としては、ちゃっかりと障子の隙間から覗いている希夜に詰められなければいいのだが、不安でしかないだろう。


 落ち着かないのもあり、希朝が持ってきてくれたお茶を連は口にした。

 渋みもなく、さっぱりとした飲み心地のある緑茶を選んでくれたようだ。

 勉強の妨げにならない考慮をしてくれたのだろう。


「いやー、にしても星宮さん、連に気があるんだな」


 苦笑いをしながら優矢が言うので、連は危うく飲んでいたお茶を吹きかけた。

 変に気管に入ったのもあり、咽てしまうのは避けられない運命にあったようだ。


 なに馬鹿なことを、と言おうとして優矢の方を見た時、優矢が真剣な眼差でこちらを見てきていた。


 優矢の様子を見て、連も姿勢を軽く正した。


「……勉強を教えてほしい……それ以外の目的もあって来たんだよね?」

「バレてたかー」


 あっけらかんとした物言いだが、明らかに声には重みがある。

 彼は確かに世間知らずのチャレンジャーと連は言っているが、それは全ての情報戦に置いて彼の右に立つ者がいないからだ。


 会話を成り立たせるには、その者と平均レベルの会話力を必要としているように。


「ここ最近の話になるんだけどよ――天夜、つまりはお前の両親を目撃した情報がある」

「……話していいことなの? 優矢の親、そこは厳しいよね?」

「なに、親友の為だ、許可は取ってあるさ。でだ……以前の件も含めて、接触される可能性は十二分にありえるだろ?」

「……僕には、価値が無いから……」


 たとえ両親がこの県に来ていたとしても、連には価値がない。

 価値があれば、捨てられることもなかったのだから。

 嫌という程、ひそかに言っていたのは、連が一番よく知っている。

 うつむき気味に言えば、呆れ混じりのため息が一つ言葉と吐き出された。


「本当にそうか? 俺の知っていた連は、確かに不甲斐ない奴だけどよ……今は違うんじゃねぇのか?」

「……今」

「ああ。その価値がないって言うんならさ、お前を迎え入れてくれた星宮さん達に本気で頭を下げろよ。一人じゃ、無いんだろ?」

「優矢はよく見てるね」

「これでもお前の――唯一の親友を名乗る腐れ縁だからな」


 ひょうきんな優矢は「話もほどほどにして勉強を教えてくれよ」と言ってくるので、連は静かに頷いた。

 優矢は連の心配というよりも、今を見るために、近くに来てくれたのだろう。

 様々人に生きる上で迷惑をかけてしまっている。だが、その迷惑をかけても、より一歩先の良い未来に歩めるのが今を生きる方法なのかもしれない。

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