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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第一章

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44 デートと言えば好きな一面も見れるもの

「映画、すごくよかったですね」

「うん。希朝さんは、希夜ちゃんから聞いてた感じなの?」

「そうですね。というよりも、あれはゲームが元になった映画なので、希夜ちゃんの相手をする時に多少遊んでいたゲームなので」


 希夜の話をする希朝は、凄く楽しそうに頬を緩ませている。

 映画を見終えてから、連は希朝と共にお昼を食べていた。

 ここは以前来たショッピングモールで、お昼は軽く取ることにしていたのもあって丁度いいのだ。


 ちなみに希朝と見た映画は、電子の世界を駆け巡る歌姫と、それぞれの想いを持ったキャラクターたちの物語だ。


 連自身、映画を見慣れていない方だが、ゲームが元になっていたとしても凄く楽しめる映画だったので満足している。

 実際、希朝が今でも補足を軽くしてくれているので、ある程度はそれだけでも理解できるのだから。


 こうして楽しそうに話す希朝を見たのは、希夜が居ない時くらいではないだろうか。

 希朝は何かと希夜が居るとお姉ちゃんを実行するので、おせっかい焼きに生真面目という称号がお似合いなくらいだ。


 軽く食べ終えてから、連の飲み物を味わいたい、と言って連が飲んでいた飲み物を飲んでいる希朝を見た。

 さり気なく人前で間接キスをされているが、美味しさを分け合う、という面では微笑ましいものだろう。

 無論、希朝から連にもと、希朝の飲んでいたのを渡されている。


「えっと、この後はどうする?」

「そうですね。以前慌ただしくなって買いそびれた、お皿でも買おうと思っています」

「うんうん……お皿?」

「ええ。連さんが来てから、連さん用にお皿を新調したいのですよ。それと、連さんが気に入りそうな物を探したり、ぬいぐるみを見たりもしたいですね」

「僕のことも視野に入れてくれてるんだ……そうだね、全部やってみたい」


 どこか他人行儀みたいな発言になってしまったが、内心では楽しみなのだ。

 連自身、他の人との楽しみ方、というのを知らないのもあり、今日だけは外でも心から笑って過ごせるような気がするのだから。


 結果だけを求めてしまう悪い癖を出してもいいのだが、希朝とのデートの間にあるのは結果よりも過程だと、連は重々承知している。

 たとえお目当ての物を買えた、手に入れられたとして、結果の途中でギスギスしてしまっては意味がないだろう。

 連は楽しみに口許を緩めた時、不意に希朝と目があって恥ずかしくなり、そっと頬を赤くするのだった。



 お昼を終えてから、連は希朝と一緒に食器の置いてある雑貨店に来ていた。

 ショッピングモールなだけあって、他にもお皿などの食器が置いてある場所はあったのだが、希朝がここを見てみたいという事で決まったのだ。


 お店を吟味するのも、モールでは醍醐味なのだろうか。


 お店の棚には、様々な形のマグカップやお皿が置いてある。

 使い勝手の良いものから、動物などがデザインされていたり、白色以外だったりと様々だ。

 全てを見るだけでも目移りしかねないほどの量は、住んでいる地域ではお目にかかることはないだろう。


 お皿を眺めていると、希朝がうさぎ柄の描いてあるお皿を一つ手に取っていた。

 そしてお皿を見るなり、目を輝かせながら柔く頬を緩ませているので、連もついつい笑みをこぼしてしまう。


(……この横顔、どこかで……?)


 耳にかかる艶めきのある黒い髪に、宝石のように光るピンクの瞳を……思い出した過去、手を引かれている時に見た気がするのだ。


 見ただけならまだしも、その柔らかな笑みは、過去に見た少女と瓜二つであると言い切れてしまう。

 連は自分の勘違いだと、そっと首を振った。


「連さん、どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ。ただ、過去を見たような気がした」


 希朝は首を振った連を心配してなのか、それとも何か聞こうとしていたのか、不思議そうに見てきていた。

 そして聞くなり穏やかに見てくる希朝は、静かに見守ってくれているのだろう。


「ふふ、連さんにも、大切な、忘れたくない過去の記憶があるのですね」

「……忘れたくない、過去……」


 連自身、デート中に希朝に気を使わせるつもりは無い。今はただ、楽しみたいと思っている。

 とはいえ、忘れたくない過去があるのは、連の中では珍しいのだ。

 過去は全て、捨てたいと願えるほどに、あまりにも暗く冷たいものだから。


 ふと気づけば、希朝は違うお皿を手に取り、連に見せてきていた。


「連さん、このお皿とこのお皿、どちらの方がよかったりしますか?」

「シンプルなお皿に……深皿? どうして別の物を?」

「どうしてだと思いますか?」

「……わからない。希朝さん、少し意地悪してる?」

「そうですね、この問題は意地悪かも知れませんね」


 そう言って希朝はお皿を棚に置き、連の耳に口を近付けてきた。


「もしもですよ……人の意味で聞いてきたとしたら、どうですか?」

「……人の、意味……!?」


 連は思わず、希朝の服装を見ていた。

 先ほどと変わらず、白いブラウスに、水色のフレアスカートの組み合わせだ。

 特徴的な太陽がモチーフの髪飾りは当然のように身に着けており、天使の輪が見える程の黒いストレートヘアーはより印象を際立ててくる。

 デートの為に希朝が力を入れているのだと、見た目だけでも十二分に理解できる程だ。


 ただ希朝に言われた言葉……人の意味、を真に受けてしまったのもあり、連はついつい希朝のふくらみあるその胸元に目をやってしまった。

 別に下心あって見ているわけではなく、そのままの意味で捉えてしまうのなら、そう言う事になってしまうのだ。


 連が顔を赤くしかけた時、くすくすと笑い声がこぼれるように聞こえてくる。


「連さん、実際は変態さんだったりするのですか?」

「……神に誓ってもない。それに、仮にそうだとしたら、希朝さんや希夜ちゃんに対して既に手を出してると思うよ」

「知っていますよ。連さんが切実で真摯な人という事は」

「なら、心臓に悪い冗談はやめてほしいかな」

「私もたまには、連さんの気を引きたくなるのですよ」


 言葉巧みに誘導してくるので、希朝の冗談は心臓に悪い事この上ない。

 本人が悪気合って言っていないのは理解出来ても、性別的な意味では程々にしてほしいものだろう。

 連自身、確かに他者に微塵も興味は無いが、希朝を知りたい欲は出来ているのだから。

 希朝の服装を見たついでに、連はふとある事に気が付いた。


「そう言えば、服とかは見なくてもいいの?」

「……そうですね。今回は連さんとのデートを多く楽しみたいですし、待たせるのもどうかと思いましたので。ですが」

「ですが?」

「夏のお洋服を選ぶ際には、一緒にお買い物しに行きたいですね」


 どこか含んだ笑みを浮かべる希朝に、連は正直苦笑するしかなかった。

 連が三手先の未来を見ているとすれば、希朝は四手、五手と更に先の未来、ましてや枝分かれした未来の全てを見透かしていそうなのだから。



 お揃いのお皿を選んでから、次にぬいぐるみが置いてあるお店に訪れていた。


 壁掛棚から商品棚の全てに、この空間はぬいぐるみがあります、と言わんばかりにぬいぐるみが並べられている。

 うさぎに馬、猫や犬などの動物は当然のようにあり、大々的なコーナーにはアニメやゲームのキャラクターのぬいぐるみが置かれていた。


「ぬいぐるみ……こんなに種類があるんだ」

「すごいですよね……! 形もそうですが、手触りから抱き心地など、同じぬいぐるみでもそこが違って一つだけでは物足りなかったりもするのですよ」

「……そんなに違うんだ」


 ぬいぐるみについて熱くなっている希朝を見て、連も自分事のように嬉しくなってしまう。

 実際、学校では凛としていて、家では妹の前でシスコンながらも面倒見で真面目で優しい一面を見ているからこそ、ぬいぐるみを見て心躍っている希朝の一面を知れたのは嬉しいものだ。

 他の人には見せない、そんな一面のように思えてしまう。


 幼子のように無邪気な笑みは、星のように輝いている。

 隣でぬいぐるみをみていれば、希朝が白いうさぎのぬいぐるみを棚から手に取っていた。

 黒くつぶらな瞳に、細長い耳で何も着飾らない、本当に白いうさぎのぬいぐるみ。


「希朝さん、うさぎ、好きなの?」


 希朝は聞かれると思っていなかったのか、楽しそうにしていた笑みはすぐさま沸騰するように、白い頬をほんのりと赤く染め始めていた。

 希朝はうさぎのぬいぐるみを軽く抱き寄せてから、上目遣いで恥ずかしそうに見てきては、こくりと頷いている。

 彼女の口から出ていないが、好きであるのは間違いないのだろう。


「そっか。ぬいぐるみか……僕が持っても、悪くないのかな……」

「……なら、わ、私が選んであげます」

「……希朝さんが?」

「ええ。連さんが選ぶよりも、私が選んで持っている方が羞恥心も少ないでしょうし」

「お願いしても、いいかな?」

「はい」


 希朝の幼い一面を見たのも束の間、何気に呟いた言霊は願いとして受け取られたようだ。

 希朝が気合いを入れ過ぎて空回りしないか心配だが、自分の為に選んでくれる、というその付加価値だけでも連にとっては正直十分すぎている。


 あれやこれやと選んでいた時、希朝のスマホが鳴った。


「あっ、ごめんなさい。少し見ますね」

「分かった。……!?」


 希朝は鞄からスマホを取り出し、画面を手慣れた手つきで操作した。

 希朝のスマホ画面を覗くつもりは無かったのだが、見えてしまったその画面に、連は驚きを隠せなかった。


(……どうして?)


 その画面はすぐに通りすぎてしまったが、連は嘘だと思いたかった。

 二度と会うことがない、だから記憶の奥底に、本棚に隠してしまったはずの記憶が垣間見えてしまったから。


 連の様子を気にも留めずに、希朝はメッセージを返しているようだ。

 返し終わったようで、希朝は連の方に再度目を向けてくる。


「お待たせしました。帰りに希夜ちゃんのお土産を買うついでに、切らしている食材を買いたいのですが、いいですか?」

「……うん」

「――今に続く、私の捨てられない過去ですよ」


 明らかに希朝の声色が深く、それでいてどこか寂しげに聞こえた。

 ふと希朝を見れば、希朝はいつも通りの笑みを宿している。

 まるで先ほどの声色の持ち主ではない、と言った様子だ。


「えっ?」

「どうしました? ぬいぐるみを選びましょうか」


 希朝に促されるままに、連は希朝と共にぬいぐるみ選びを始めるのだった。

 その後、買い出しを終えてからショッピングモールを出ても……小さな鐘の音は鳴りやまない。

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