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04 家族としての始まり

 テーブルに用意されたお茶を挟んで、連は白髪の少女と向かいあって座っていた。

 ドアの下敷きから解放された後、希朝の誘いのもと、先ほど出会った『きぃちゃん』と希朝に呼ばれた少女と和室で対面しているのだ。


 今は服を着てくれているからいいが、脱衣所での件を踏まえでも連は気まずさしかなかった。


(……何を言えば、いいんだろ……)


 前髪に月モチーフの髪飾りを身に付けた、白髪のショートヘアーをした少女が申し訳なさそうにしている。

 その隣に希朝が腰を下ろした時、希朝は少女と連を見てから、ため息を一つこぼした。


「連さん、紹介します。この子は私の妹、星宮希夜(きよ)です」

「希夜やんねぇ……よろしくやんねぇ」

「よ、よろしくお願いします」


 希夜が顔を引きずっているのを見るに、気まずさしかないのが今を物語っている。

 希朝に紹介された希夜は、希朝と同じく美少女と言える。整った幼い体型や、お餅のような白い肌、綺麗な目鼻立ちを踏まえて、傍から見ても美少女以外の何ものでもないだろう。


 希夜に視線をやっていると、希朝が少し頬を膨らませていたので、連は思わず首を振った。


「えっと、僕は天夜連。今日からこの家に住まわせていただくことになりました」

「うちもよろしくやんね」


 自己紹介をすれば、希夜は警戒を解いてくれたのか、やんわりとした明るめの笑みを浮かべた。


 希朝と希夜を見たところ、ピンクの瞳以外に共通点らしきところは無いが、太陽と月で相対する髪飾りを見るに姉妹ではあるのだろう。

 黒髪のストレートヘアーで、出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいるのが希朝。

 白髪のショートヘアーで、発達途上ながらも、もっちりとしたお餅肌を持って整った体型をしているのが希夜。

 傍から見れば他人のように見えるが、お互いに自分らしく成長した結果なのだろう。

 連がそんな二人を微笑ましく思っていると、希夜に少し呆れた様子をしている希朝が連を見てきていた。


「本当は連さんがこの家に慣れてから話す予定でしたが、偶然とはいえ、出会ってしまったのでは仕方ないですよね」


 希朝の言う通り、連が希夜に出会ってしまったのは本当に偶然である。

 連が顔を洗うために洗面所兼脱衣所に足を踏み入れたら、先客で居た希夜とぱったり出会ってしまったのだから。


 とはいえ、連からすれば希夜が警戒を解いてくれたおかげで多少は気持ちが落ちついている。


 警戒され続けていれば、希朝が居てくれたとしても、希夜との関係が気まずくなる可能性だってあったのだから。

 実際、先に覗いてしまったのはこちらなので、申し訳なく希夜に視線を送る。


「えっと、その……」

「希朝ねぇを名前呼びしているから、うちも希夜でいいやんね」

「それじゃあ……希夜、ちゃん」

「……希夜ちゃん、ですか……」


 希朝が何か言いたそうな表情をしていたが、連は見て見ぬ振りをしておいた。

 今触れてしまえば、話が逸れそうなのもあるが、ちょっと羨ましそうな視線が飛んできていたのが連にとっては痛かったのだ。


「その、さっきは覗いてしまってごめんなさい」

「べ、別にうちは気にしてないやんね」


 連が深く頭を下げると、希夜は慌てたように手を振っていた。

 本当に希夜が気にしていないかは不明だが、心残りにならないように、後の亀裂にならないようにしっかりと謝っておきたかったのだ。


 たまたま居合わせてしまったとしても、覗いてしまったのは事実であり、乙女の肌を目に焼き付けていい理由は無いのだから。

 連がもう一度頭を下げると、希朝が苦笑しながらも「きぃちゃんもそう言ってるわけですから」と声をかけてくれた。


「私が連さんに先に時間を伝えておけばよかった話ですし、不可抗力ということで」

「それじゃあ、希朝ねぇがわるぅ――いたたたやんねぇ、口がすべっただけやんねぇ」


 希朝は無言で希夜の頬に指先でつまむように触れ、むぎゅむぎゅと伸ばしていた。

 流石に頬を引っ張られることで、希夜は希朝が何を意味したいのか理解しているようだ。


 姉妹というのは言葉を交わさなくとも……言葉の物理があれ、ここまで理解し合えるのだろうか。


 間を取るのもほどほどに、と希朝から軽く注意を受けた希夜は、少しして指を離されていた。

 希夜の白い頬がほんのりと赤いお化粧しているのもあり、希朝がやや強めにやっていたのだと理解できる。


 その時、お茶から立ち昇っていた白い湯気が柔く揺れた。


「希朝ねぇのお婿候補……いや、お婿さんやんねぇ」


 ふと気づけば、白い髪を揺らし、希夜が近づいてきていた。

 希夜は中学生らしく、身長的にも小柄なので、テーブルが上手いこと物陰になっていたのだろう。


 ニマニマと下から連を見てくる希夜は、明らかに期待を寄せているのだろう。


「きぃちゃん、あまり連さんを困らせては駄目ですよ」


 希夜のゆるふわながらのマイペースな口調は、姉である希朝のおしとやかで凛とした口調とはまた違ったものがある。


 とはいえ、希朝の方は少しシスコン気味なのか、この短時間だけでも希夜に甘い一面を見せているのが顕著に出ている。


「えっと関係的には、希夜ちゃんは義理の妹、ってことになるのかな?」

「それでいいと思いますよ」

「えへへ、家族としてよろしくやんね、連お兄ちゃん」

「……お兄ちゃん呼びは恥ずかしいな」

「それじゃあ、連にぃやんねぇ」


 ちゃっかりと距離を詰めて足の間に座ろうとしてくる希夜に恥ずかしくなり、連は頬を軽く掻くのだった。

 その際、やはりというか希朝が羨ましそうな視線を飛ばしていたのは云うまでもなく。

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