36 冬休み明けの事情聴取
冬休みが終われば学校生活はやってくる。
学校に登校すると、冬休みにあった出来事だったり、仲のいい人たちが再会を喜んで戯れていたりと、沢山の話題が校内を彩っていた。
その中でも一際異彩を放っていると言えば、星の子に関する噂だろう。
「なあー、連」
優矢はさも当たり前のようにメロンパンを頬張りながら、連の前の席に腰をかけていた。
明らかに知っているような、それでいて話す気が無い、という姿勢は優矢らしいだろう。
おそらく優矢が知りたいのは紛れもなく、廊下などで噂になっている星の子のことであるのは間違いない。
実際、希朝と希夜が一緒に初日の出を見ていた事や、そこに知らない男の人が一緒に居たなどと話題性が高いのだから。
星の子が様々な告白を避けてきたからこそ、一緒に居る男の存在が話題を大きく膨らませているようだ。
連は星の子との件を登校早々に聞かれたが、あくまで他人であるということで避けている。
「話す気はないのか?」
「おはよう」
「おはよう、挨拶は大事だよなー。いや、そうじゃなくてだな!」
優矢は、仕方ない、と言った様子でため息を吐いてから、何処からともなく取りだしたメロンパンを机の上に置いてきた。
刑事ドラマでありそうな事情聴取のカツ丼がメロンパンに代わっている。優矢目線で言えば、背に腹は代えられない、と言ったところだろうか。
連自身、優矢がどこまで知っているかは不明だが、答える気はそこまで無いのも事実だ。
そっと窓の方を見れば、澄みわたる空の下を飛ぶ白い鳥が見えた。
優矢は連が話さないと知ってか、呆れたように口を開いた。
「……あるショッピングモールの出来事だ。正月明けに強盗事件……そして、警察の介入があった」
「警察、ねぇ……」
「その様子を見るに、お前だな」
警察に反応してしまった連も連だが、優矢はどうやら鎌をかけてきていたらしい。
警察の介入が嘘ではないとしても、事件性によるものなのか、誘導尋問を連にしようとしているのだろう。
優矢は世間体だけなら馬鹿ではあるが、厄介なことに頭の回転が速いのだ。
おかげで事件に関することや謎解きに向かわせれば、答えに辿り着くのも時間の問題だろう。
人は知識だけじゃ測れない、を優矢はその身を持って体現している存在と言える。
「監視カメラの映像だけどよ……周囲の人間の記憶の差異。その全てが意味するのは――天夜の名を持つお前なら言わなくてもわかるよな」
天夜――それは紛れもなく、連を捨てた家計の名字だ。
天夜家は代々伝わる一族の存続なので、多く言われなくとも張本人だから理解はできている。
そして、見ていた人間と、監視カメラの映像に生じている差異は迷うことなく、両親のどちらかが介入しているということだ。
連自身、両親に出会うことは避けたいが、いずれは希朝との件も踏まえて、一度は顔を見合わせる必要はあるだろう。それでも、胃の底から否定する感情に、連は吐き気を覚えているのだが。
連が暗い顔をしたのを察してか、優矢はわざとらしく笑い混じりの声を出した。
「そりゃあまあ、本来は表に出ない筈の柔術、それを出来損ないと思っていたやつに持ち出されたら黙っていないよな」
「……どこまで知ってるんだ?」
「おお、怖い怖い」
優矢には悪いが、お喋りが過ぎているのだ。
実際、あの場で希朝を守るためとはいえ、連が介入したのがトリガーになってしまった。だからこそ、どこまで確信を持てるかどうか、それが大事だろう。
優矢はメロンパンを頬張ってから、一つ間をおいた。
「……世間知らずのチャレンジャーこと俺でも、これ以上はお喋りできないな」
「そうか」
優矢がここで断るとなれば、優矢の父親に止められているのだろう。
連が出されていたメロンパンに渋々手を伸ばした時、優矢はじっと見てきていた。
「――いつまで星宮家に黙っているつもりだ」
静かに気持ちは震えた。
しっかりとこちらを見てくる優矢は、何もかもも知っている過去からの親友だ。だからこそ、連が希朝や希夜に事情を話していないと知っているのだろう。
過去に何があって、どうして今の連が構築されてしまったのか。
「別に俺がとやかく言う事じゃないけどさ……お前の家庭環境に口を挟むつもりは無い。だけどよ、今の家族は、お前を受け止めてくれないのか?」
「……今の、家族」
「おっと、冬休み明け早々重い話をして悪かったな」
「気にしないで」
「というか連……少し顔つきが変わったな?」
「……そうかな?」
優矢が何も無かったかのように振舞うのもあり、連は苦笑いするしかなかった。
連としては『今の家族』という優矢の言葉が気持ちに残り続けているのもあり、心はそこに在らずだ。
優矢から貰ったメロンパンを口にした時、廊下から星の子と一緒に居た子が気になる、という噂を耳にするのだった。
学校が終わり、連は一人で帰宅していた。
家に帰ると電気は付いておらず、希朝はまだ帰ってきていないようだ。
ただいま、と言ってリビングに向かった時だった。
リビングに入った瞬間、こめかみめがけて空気が当たる。
横目で見ると、伸ばされた足からの蹴りがこめかみに当たる寸前で止まっていた。
ふわりと暗闇に落ちていく白髪は、希夜がその場にいるのだと伝えてきている。
「避けなかったやんねぇ。連にぃ……事件の話ってなにやんねぇ? 朝、仲のいい人と連にぃが話してたやんねぇ?」
下手に動けば足が再度加速する、と希夜の瞳が睨むように警告していた。
希夜が聞きたいのは恐らく、ショッピングモールであった事件の話についてだろう。
「さあね」
「誤魔化すんやんねぇ」
当たる視線は、静かに暗闇に火花をちらしているようだ。
切羽詰まる空気がリビングに充満し始めていた、その時だった。
「ただいま」
希朝が帰ってきたらしく、その足でリビングにやってきては電気をつけた。
電気がつくと、希夜が今まさに連に蹴りを入れようとしている状態になっている。
希夜は希朝を見てなのか、慌てたように足を下ろしていた。
「……きぃちゃん、プリンを勝手に食べられたの? もしかして、お風呂覗かれたとか?」
希朝は今の状況に疑問を持っていないのか、原因を究明しようとしているようだ。
どちらかと言えば、黙っている連に負はあるので、善悪の判断は意味をなさないだろう。
希朝は首を傾げ、連と希夜を交互に見てから、そっと息を吐いた。
「連さん、二人で少しだけお出かけしよっか」
希朝の唐突な誘いに、連は固まるしかなかった。




