35 家族でのお買い物と、戒める家族の距離感
正月が明ければ、約束の日となっていた。
この日、連は希朝と希夜と共にショッピングモールにやってきていた。
連たちの居る地域は田舎で大型店舗が無いのもあり、電車で数十分揺られた先にある、市内で最も有力候補の一つにあがるショッピングモールに来たのだ。
連自身、大きな場所に来たことがあまりなかったのもあり、物珍しさに心が躍っている。
(……希朝さんと希夜ちゃん、やっぱり二人と歩いているだけでも、チラチラと見てくる人は多いよね……)
連も装いの格好をしているが……お出かけ姿の希朝と希夜の姿を見ては、通りかかる他のお客さんが珍しそうに見てきたのだ。
連は二人のおまけ程度、もしくは不釣り合いに思われたかもしれないが、希朝の隣を譲る気は毛頭もない。
今目の前でお昼ご飯を食べている希朝の服装は……白色の長袖ブラウスに水色のカーディガンを羽織り、黒色のフレアスカートで大人びた雰囲気を出しつつも、おとなしい中に明るい雰囲気がある。
希朝の黒いストレートヘアーに、宝石のようなピンクの瞳も相まって、かわいいの権化とすら言える美しさを自分のものとしているようだ。
「……連にぃ、希朝ねぇをじっと見てるの、うちの服はそんなに見ずらいやんねぇ?」
「えっ、いや、そうじゃなくて……希朝さんはいつも綺麗だし、希夜ちゃんは希夜ちゃんで元気な感じがあって良いなと思ってね」
「連さんに、褒められた……嬉しいです」
「の、希朝ねぇ!?むむっ、希朝ねぇ、連にぃにどう思われるか心配だったやんねぇ」
頬を軽く膨らませながら見てくる希夜も希夜で、連からすれば手の届かぬ星のような可愛さを持っていると言える。
肩につけたストールで肌の露出を押さえつつも、胸元に紐リボンが付いた半袖シャツは、希夜の無邪気で幼い中にある明るさを醸しだしていると言っても過言ではない。
冬でも無難にミニスカートなのは、希夜の体温調整が心配になってしまう。だが、希夜だから、ということで連は自分を納得させている。
ストールに関して言えば、希朝が希夜の事を思って身に着けさせたようで、心からの妹想いは微笑ましいものだろう。
「えっと、この後はどうする?」
「そうですね……私はお洋服を見たいですが、希夜ちゃんはどうします?」
「うちは二人と一緒なら楽しいやんねぇ」
「なら、希夜ちゃんが好きな食べ物でも見て回ったりもしましょうか」
希朝の優しさに反応してか、希夜は嬉しそうに目を輝かせている。
希朝がどうしてここまで希夜を大事にできるかは不明だが、仲睦まじい程の姉妹愛を見られるのは、連自身も心洗われるというものだ。
食事を終えてから、連は希朝と希夜と共にショッピングモールを回るのだった。
ショッピングモールなだけあって、普段近場のお店では見ないような品物が目白押しで、気持ちは満足していた。
正月明けとはいえ、やはり人混みが多かったのもあり、希朝たちと離れないようにするだけでも精一杯だったのは内緒だ。
それぞれで回った感想を話ながら歩いていた、その時だった。
「向こうの方、騒がしいやんねぇ?」
「何かあったのでしょうか?」
(……あれは)
希朝と希夜が見ている方向を見た時、連はハッと目を見開いた。
人混みを掻き分けながら、一直線でこちらに向かってくるフードを深く被った人物が居たのだから。
手には何も持っていないが、懐のふくらみに、黒の長いバッグを見るに危険な雰囲気でしかない。
無論、周りを無造作に掻き分けているのもあり、悲鳴に近しい声が飛び交っている。
「そこの女、お前で良い! 俺と来やがれ!」
その人物がこちらに向かいながら、希朝に手を伸ばそうとした。
僅か十数秒の出来事に、隣を見れば希夜は固まっている。
希朝に至っては動揺しているようで、驚いたように目を丸くしていた。
僅かな時間の中、連だけの時が止まっているように、視界がスローで動いているように見えている。
希朝と希夜の様子を確認し、周囲の状況を確認してから、連は自分だけの時間を進ませ、音を立てずに仮称強盗犯と希朝の間に割って入る。
そして伸ばされていた腕を、下からそっと押し上げた。
「――触れるな」
刹那、腕を押し上げられた強盗犯は宙を舞い、力強い音を立てて床に体が叩きつけられた。
打ちどころが致命傷ではなくとも、彼自身の力も相まって呼吸は軽く困難になるが、大事なものを襲おうとした罰だ。
視界に浮いた前髪が降りていく時、連の瞳は照明に照らされ、額の影も相まって険しい表情を露わにしていた。
強盗犯が苦しそうに藻掻いていれば、周りでは騒ぎを察してか警察を呼ぶ人や警備員に伝えに行く人も現れている。
だがその時すでに、連は二人を連れて速やかにお店を後にしていたのだが。
「……あの、連さん、守っていただきありがとうございます」
お店の外に出た時、希朝は手を力強く握ってきていた。
その手は震えており、怖かったのだと理解できる。
手が震えないよう、寒くならないように、連の方からも手を柔く握った。
希夜がニマニマと見てきているが、仕方ないだろう。
「気にしないで。……希朝さん、希夜ちゃん、怪我はない?」
「私は連さんが守ってくれたので大丈夫です」
「うちもやんねぇ。それにしても、あの体術……いや、柔術はこの世界に来て見たことがないやんねぇ」
「……」
希夜に連が行った技……柔術を見抜かれたのもあり、静かに鼓動は揺れた。
連自身、染み付いた柔術を人前で使うつもりは無かった。だが、守るために自然と体が動いていたのだ。
守るためというよりも、傷つく希朝を見ないようにするため、の方が正しいだろう。
連は暗い過去を自分から掘ったようなものだが、過去を拭える訳が無いと知っている。むしろ、下手をすれば大変な目にあうと、勘が囁いているのだから。
「きぃちゃん、今は感謝だけにしなさい。それに、連さんは騒ぎが大きくならないうちに外に出てくれたのですから」
駐車場を抜ける頃には、サイレンが後ろから聞こえてきている。
その時、希夜が手を繋いできた。また、希朝が負けじと握っていた手を更に強く握ってくる。
「もう一度、感謝させてください……ありがとうございます。……連くん」
「えっと、その……うん」
「連にぃ、くん呼びされて照れてるやんねぇ」
希夜の茶化しに連が頬を熱くしていると、希朝は微笑ましそうに笑みを浮かべていた。
今日という日は――家族の距離を知るため、のお買い物ができた、そんな日だったのかもしれない。




