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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第一章

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34 支えてくれる近しき者

 作ったオリジナルおせちを三人で食してから、リビングで希朝と希夜と共に連は過ごしていた。


 希夜はおせちを食べて満腹になったようで、今は希朝の太ももの上で心地よさそうに瞼を閉じている。


「きぃちゃん、本当に寝正月を実践するなんて」

「……ブランケットをかけてあげる希朝さんは優しいね」


 希夜ちゃんのお姉ちゃんだから、と言って希朝は頬を緩ませながらも、希夜の頭を優しく撫でていた。

 髪を傷つけることのない繊細な指の触れ方は、希朝の人柄を露わにしているようだ。

 連自身、何かと多くの人を見てきたのもあり、その人がその人たらしめる形を……些細な仕草からなんとなく理解できている。


 実際、希朝が希夜にシスコンと言っても良いほどに優しいのは事実なので、強ち間違ってはいないだろう。


 希夜の眠りを微笑ましく見守っている希朝だったが、不意に四角い紙袋を希夜の近くに置いていた。


「……それは?」

「お年玉ですよ。もしかして……見たことがないのですか?」

「……うん。都市伝説くらいにしか聞いたことがなかった」

「……」


 心配したように見てくる希朝に、悪い話をしたものだろう。


 天夜家の家柄もあるが……たとえ親戚が集まったとしても、いびつな空気は蔓延し、連はいない存在として扱われていたのだ。

 自室に戻ろうとしても、戻ることが許されず、ただ置物としているだけの存在。傍から見れば、部屋の隅で静かにたたずんでいた、影法師に近いだろう。


 冷たい暗闇を、父親が手を差し伸べてくれるかどうかの、不安定な平均台を一人で歩いていたのだ。

 少しでも風が吹けば暗い奈落に落ちてしまう、救いのない世界だった。


 連自身、家族に、両親に救いを求めるのは無駄だと、その幼い頃の記憶もあるからこそ諦めてしまったのだろう。

 少しでも自分を見てもらおうとして、振り払われた時に傷つくのが怖かったから。


 お年玉という一つの言葉で思い出した過去に、連は手が震えていた。

 今は孤独ではないと理解していても、孤独が蝕むようで、冷える手が人肌を求めてしまう。


 連が諦めかけた時、ほっそりとした温かな手が自身の手に重ねられていた。

 ふと顔を上げれば、隣に座っていた希朝が軽く微笑んでいる。


「――そのゴミ、捨てておいてください」


 久しぶりに聞いた、出会った時の言葉。

 希朝には隠したい気持ちが見透かされていたのだろう。


 見ピンクの瞳に反射する連の姿が、今の視界には鮮明に映っていた。

 驚いている、と自分でも分かるほど腑抜けた顔なのに、どこか落ち着いている自分だ。


「そうは言いましたが……いつでも、吐き出してくださいね」

「……えっ」


 過去に戒められていることを指摘されるのかと構えていたのもあり、希朝の発言に連は動揺を隠せなかった。

 肩を静かに揺らしていた希朝は、語るように希夜の頭を撫でた。


「私も、連さんと同じ一人っ子ですが……両親に溺愛されていたので同じ境遇だとは言いません。ですが……いつの日かの泣き声は決まっています」

(……一人っ子?)


 希朝が自分のことを話してくれるのは願ってもない話だ。

 だが問題はそこではなく、希朝の言った『同じ一人っ子』という言葉に突っかかっている。

 実際、希朝はストレートヘアーの黒髪で、希夜はショートヘアーの白髪であるが、共通のピンクの瞳に、体型や仕草は違えども雰囲気は似たり寄ったりの姉妹である。


 連自身、二人の事は未だにわからずじまいなので、余計な詮索も出来ないのも事実だ。

 仮に聞いたところで、希朝が素直に答えるとは考えにくい。


 それでも今わかるのは……希朝が家族としてではなく、今を共に過ごす連に伝えているということだ。


「色々と気になるかとは思いますが」

「分かってるんだ」

「これでも、連さんとは夫婦を形作る関係ですから。ですので……壊れてしまう前に、心を開いてほしい、私はそう願っていますよ」


 やんわりとした笑みを向けてくる希朝の表情は、今の連にとって辛かった。

 辛かったと言うよりも、ずっと求めていた手を差し伸べてくれる存在が希朝だったからこそ、気持ちの整理がついていないのだろう。

 連も実際、希朝の隣で一緒に居たいと心から願っている。それでも、今の不安が未来を押し潰すからこそ、覚悟が決まってから、ちゃんと希朝に自身の気持ちを伝えたいと決めているのだ。


 婿としてだから言える言葉ではなく、初歩的な歩みを決める――後悔の無い言霊を。


「ありがとう。駄目になる前には、きっと話すよ……」

「ええ。話さなくても、私は連さんを見捨てませんからね」


 頬を緩ませる希朝は、連が話さないことを読んでいたのだろう。


 そんな希朝の笑みが眩しくて目を逸らした時、ゆったりとした声が聞こえてくる。


「希朝ねぇと連にぃはお似合いやんねぇ」

「き、きぃちゃん、寝たふりをしていたのね」

「す、少しだけ仮眠してただけやんね」


 軽く頬を揉まれるのがくすぐったのか、希夜は白状していた。


「だったら、思い出作りをすればいいやんねぇ」

「もう……だったら、って言葉はどこからくるの?」

「でも、思い出作りはしてみたいかも」

「れ、連さんがそう云うならしたいですね」

「じゃあじゃあ、正月明けに家族でショッピングに行こうやんねぇ」


 希夜ちゃんが行きたいだけでしょう、と嗜めていた希朝だが、希朝は希朝で満更でもなさそうな笑みを宿している。

 考え方は違っても、想いが重なり合う良き姉妹なのかもしれない。


 その後、どこのショッピングモールに行こうか、という話を三人でするのだった。

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