29 星降るクリスマスに祝福を
「希朝ねぇ、ぐっすりと眠っているやんねぇ」
「……こんな僕の近くなのに……安心でき――」
「それは、連にぃを選んだ希朝ねぇに失礼やんね」
希夜は連の口を塞ぐように、指を一つ唇においてきた。
小悪魔のようにしーっと指を添えている希夜は、迷いを口に出させたくなかったのだろう。
希朝が連の膝枕で眠っているのもあり、それを見て口にしようとしてしまった。
その迷いが希朝にとって嬉しいものかと言えば、限りなく否だろう。
うじうじしていた頃の連は今も多少ある。だが、今は希朝の隣で立っていたい……そんな後押しを得た、大事な気持ちが存在しているのだ。
連として、希朝のお婿さんとして選ばれた理由を探すように。
「うん。そうだね。希夜ちゃん……えっと、ありがとう」
「うちは何もしてないやんねぇ。連にぃが希朝ねぇと一緒になってくれれば、うちは嬉しいだけやんね」
そう言ってウインクする希夜は、本音をしっかりと伝えてきてくれたのだろう。
眠っている希朝を見てから、連はそっと天井を見上げていた。
時が過ぎれば、外は灰色の雲の隙間から金色の光を差し込ませている。
空をソリが飛んでいるのではないか、と無邪気な妄想を膨らませてくる空模様だ。
そんな夕暮れ時に、小さく喉を鳴らし、閉じられていたカーテンは幕をゆっくりと上げて、うるりとしたピンクの瞳を露わにしていた。
「えっと、希朝さん、おはよう……」
「……あっ……ご、ごめんなさい……お、重かったですし、動けませんでしたよね……」
「き、気にしてないから! それに、希朝さんは軽いし、動く予定もなかったから」
見ていた希夜がニヤニヤとしてくるのもあり、溜め息をつきたくなってしまう。
それでも希朝が勘違いしないように、連はそっと息を呑み込んでおいた。
希朝が起きてから、少し居たたまれなさはあったものの、三人で横に並んで座っていた。
ただし、希朝の距離感が変わり、ぴっとりと寄り添うような距離感になっている。
服越しに離れない希朝の体温は、ほんのりと温かさを伝えてくるのもあり、本当に近いのだと実感できるものだ。
その心地よさを静かに感じていた時、温もりとなっていた。
横に目をやれば、希朝は立ち上がり、近くの棚をこそこそと探っている。
希夜を見てみると、希夜も希朝が何をしているのか知らないようで、不思議そうに首を傾げていた。
ふと希朝に目を戻した、その時だった。
「えっと……希朝さん、それは?」
隣に戻ってきた希朝の手には、緑色のリボンが巻かれた四角い小さな箱が携えられている。
その取り出された箱に、連と希夜は不思議と視線が集まっていた。
希朝はほんのりと白い頬を赤く染めてから、柔く微笑んだ。
「え、えっと……これは、その……さ、サンタさんから貰ったものです。本当は夜に配る予定だったみたいなのですが、ご不在だと困るということなので……その、連さん宛のを私が代わりに受け取ったので、その……」
「希朝さん……」
希夜に隣でニヤニヤしないように言いたかったが、希朝の反応を見るに仕方ないのだろう。
サンタは居ない、と連は幼い頃に知っている。
クリスマスの日はいつも、一人だったから。
それでも今、この瞬間。連は希朝に向けられた、サンタさんという言葉の想いに、気持ちの整理が追い付かなかった。
どれだけ遠まわしだとしても、確かに向けられたその箱が信じ切れない気持ちを否定してくるのだ。
「これを……僕に……」
「ええ。連さん、クリスマスプレゼントですよ。メリークリスマス」
「ありがとう、希朝さん」
「か、感謝はお髭を蓄えたダンディなサンタさんにお願いしますよ。私はただ……代わりに受け取っただけなので……」
希朝から箱を受け取りつつも、連はそっと首を振った。
「サンタさんに感謝してるかもしれない。でも……僕が受け取ったのは希朝さんからだから、希朝さんに感謝したいかな」
「れ、連さんは簡単に言いすぎですよ」
何を簡単に、なのか理解できず連は首を傾げた。
それでも受け取った小さな四角い箱だけは、そっと胸に抱き寄せている。
形あるものが嬉しいわけじゃない。
希朝から貰えた、その事実が連は嬉しいと感じているのだ。
「えっと、開けてもいい?」
「ふふ、連さんの好きにしていいのですよ」
相変わらず好きにさせてくれる希朝に、連はそっと笑みを宿していた。
連自身が気づかない、そんな笑みを。
改めて見ると、クリスマスプレゼント用の箱、といった感じに作られている。
希朝や希夜に見られながら、リボンをほどいていく。
そして箱の蓋を開けた時、連は目を見開いた。
「これは……」
「連にぃ、なにが入っていたやんねぇ? ……あっ」
「ブローチですね」
希朝が補足してくれた通り、箱の中にはブローチが入っていた。
ブローチは、二つの円の中に星が一つずつ入った……所謂、連星に近いデザインが施されている。
装飾や色合いも目立ちたがり屋なわけではないので、一つのアクセントとして日常的に使用しても良いほどだ。
連星のブローチを手に取ってみると、手のひらの上で小さく散りばめられた装飾が光を反射し、円の真ん中に浮かぶ星が輝いて見えた。
連はブローチを見てから、思わず希朝を見ていた。
「え、えっと、ですね……さ、サンタさん曰く――」
「希朝ねぇ、白状した方が連にぃにとっても良いと思うやんねぇ」
「ううぅ。それは、連さんも家族になったわけですし――私ときぃちゃんが似た髪飾りを付けているように、連さんも似たものを付けた方が……その、親近感が湧くかなと思ったので……。いや、でしたか?」
希朝は恐る恐る、と言った様子ながらの上目づかいで連の顔色を窺ってきている。
連自身、ブローチの扱い方は正直理解していない。それでも、希朝に貰えたからこそ、このブローチが似合うようになってみたいと一歩を踏み出す覚悟ができるのだ。
太陽の髪飾りを付けている希朝、月の髪飾りを付けている希夜。その二人に合うように、希朝は連星のブローチを選んでくれたのだろう。
「希朝さん、ありがとう。とても嬉しいよ」
「喜んでもらえたようで何よりです。きゃっ、きぃちゃん!」
「希朝ねぇ! うちも希朝ねぇ大好きやんねぇ」
「どこから好きが来たのですか、まったく」
希夜が唐突に希朝に抱きついたのもあり、ふわりと揺れる風が肌を撫で、二人の甘い香りを運んできた。
相変わらず仲のいい姉妹を見て、連はそっとブローチを手繰り寄せていた。
ずっと大事にしたい、そんな宝物に出来るようにと願って。
希朝は希夜を受け止めながら、ほんのりと甘い笑みを浮かべている。
「そのブローチ、連さんときぃちゃんに尾行されていた時はどうしようかと悩んでいたのですよ」
「……あっ」
「それは、ごめんなさいやんねぇ」
あの日、希朝を尾行していた時に寄っていたアクセサリーショップは、ブローチを探すためだったようだ。
危うく見てしまう所だったのだが、希朝は尾行に気づいていたらしい。
希朝の考慮に感謝をすればいいのか、自身の早とちりに反省すればいいのやら。
「このブローチ、大事に使わせてもらうね。希朝さんのセンス、僕は好きだよ」
「す、好きになってもらえたのなら、よかったです」
希朝が頬を赤く染めた時だった。
「わぁあ!! 希朝ねぇ、連にぃ、外、外!」
希夜は希朝に抱きついたまま外を見ていたようで、おっとりしているのに興奮しているのだと理解出来る。
希朝と顔を見合わせてから、連も窓の方を見た。
「これは、ホワイトクリスマスですね」
窓の外には、静かに白結晶が降ってきていたのだ。
空は暗くなっていると言うのに、降り注ぐ雪は星のように白く輝いている。
ここら辺の地域、というよりもこの県は雪が降ること自体都市伝説なので、クリスマスに降るのは奇跡に近いだろう。
海とも無縁、雪とも無縁と言えるからこそ、降る雪に連は心が躍りそうだった。
希夜みたいに無邪気すぎる程ではないが、少量でも降ってくれる雪はついつい笑みをこぼしてしまう。
「クリスマスに雪、降るんだ」
「まるで祝福してくれているみたいですね。積もらなければ、準備や雪かきに慣れていない県民としては幸いなものです」
「すごく現実的だね」
「ふふ、雪を見て嬉しさもありますが、希少な分知らない怖さもありますからね」
大人びているのか、子どもの無邪気さが抜けていないのか、希朝は凛としていながらも不思議な立ち位置に居るのだろう。
希朝は、小さく口を開けて喉を鳴らしている希夜を見て「大きくなっても希夜ちゃんは幼くてかわいい」と声を漏らしていた。
希夜はそれを聞いてなのか、ぷくりと頬を膨らませたが、嫌という訳ではなさそうだ。証拠に、先ほどよりも希朝に張り付いているのだから。
三人で寄り添うような形になった中、連はふとある事を思い出した。
「……えっと、夜ご飯を食べ終わったら……僕も、二人に渡したいものがある」
この言葉を口に出来たのも、家族としての距離が縮まったおかげなのだろう。
今日というクリスマスは、本当に祝福されているのかもしれない。




