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星宮家の恋軌跡  作者: 菜乃音
第一章

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26 クリスマスの予定は?

 希夜の誕生日が過ぎると、世間はクリスマスムードに染まっている。

 以前からクリスマスの片鱗は見せていたが、その雰囲気や色をより鮮明に濃く見せてくる。それは、町中やスーパーに行くだけでもクリスマスが近いのだと理解できる程に。


 そんな世間だけが例とは限らず、身近にも一つの果実は色めいている。


「なあ連」

「……答えなくていい?」

「そんな水臭いこと言うなよ? で、お前はクリスマスの予定はどうなんだ?」


 学校行事の一つでもある冬休みが近づいている中、連は優矢にクリスマスの予定を尋ねられていた。

 ふと周りを見渡せば、仲のいいグループで集まったり、各々のクリスマスや冬休みを満喫したりするムードが作られている。

 周りの雰囲気とは裏腹にニマニマ顔で聞いてくる優矢は、明らかに別の意味も含めているのだろう。


「……どういう意味で?」


 優矢がどういう意味で聞いてきているのかは理解しているが、本人確認も含めて聞いてみた。

 正直なところ、世間知らずの彼にまともな回答は期待していないのだが。


「そりゃー。もちのろんろん、お前のアイドルこと星の――あの、すいません、俺が悪かったんで脛は蹴らないでくださいぃぃんん!?」


 教室内、ましてやピンポイントで優矢が二人のことについて触れてきたのもあり、連は軽く圧をかけるように柔らかな笑みを浮かべた。

 優矢が逃げないように足を踏んでからの、追撃で軽く脛を蹴られるのは応えたらしい。

 連は姿勢を整えて、椅子の背もたれに重心を預けた。


「まあ……今のところ、特に予定はないかな。別に、僕は過ごさせてもらっているわけだし、毎分毎秒くっついているわけじゃないし……」


 ほんとかよ、と言いたげに優矢が視線を飛ばしてくるのもあり、連は息を吐くしかなかった。

 実際のところ、希夜は変わらず部屋に遊びに来ている。また希朝に関しては、距離感は近くて遠いところがあるものの、凛とした姿勢に変わりはないまま、距離をじりじりと詰めてきているくらいだ。

 連自身、希朝の距離の詰め方に違和感は覚えているものの、お互いにお互いの事を知りたいと思えば心地よいものと認識している。


 そんな思いにふけるように、連はそっと窓の外を見た。

 ただ光が差し込んでいる窓辺を。


「そういや、星の子で思い出したけどよ? 案の定って言うか、クリスマスデート前の屍置き場を生みだしているみたいだな」

「……なんて……?」


 屍置き場と聞こえたのもあって、連は首を傾げるしかなかった。

 だが、その疑問とは裏腹に、答えは明確なものだとすぐに理解できたのだ。


「あ、希朝さん、今度のクリスマス、デートをー」

「ごめんなさい。クリスマスはもうすでに予定が埋まっているので丁重にお断りさせていただきます」

「なんだとぉぉ!?」


 一般通過生徒は、丁度見に来ていた希朝にデートの誘いをしたみたいだが、迷うことなく撃沈していた。

 連自身、予定が埋まっている、という希朝の発言に疑問を覚えてしまう。

 とはいえ、希夜と一緒に居る予定なのだろうかと安易な考えも通り過ぎるのだが。


 嘆きの声が聞こえてきた廊下を、優矢と苦笑して見ていた時だった。


「希夜さん、イブやクリスマス、よければ俺と熱いデートを――」

「うちはー、既に枠が埋まっているやんねぇ。ごめんねやんねぇ」

「ああぁああああ!?」


 続いて断末魔を奏でさせたのは、希夜だ。

 希夜もちょうど連のクラスを見に来ていたようで、誘ってきた上級生に笑みを浮かべて丁重にお断りしている。


 更なる通過人生徒は胸に手を合わせて、意気消沈するかのように仰向けで倒れていた。

 優矢の言った屍置き場とは、つまりはそういうことなのだろう。

 希朝と希夜は大変だなと思う反面、連としては少々引っかかる所もあるが。


「ははは……無理って分かってても、男は止まらないもんだな」

「それは考えてないだけ」

「お前は相変わらず冷たいな。でもよ、星の子がクリスマスで予定が埋まっている宣言は珍しいな……な?」

「こっち見ないで。本当に知らないから」


 クラスメイトの視線が星の子の方に集まっているからいいものの、優矢の発言にはひやひやしてしまう。

 優矢が半信半疑のような視線を向けてくるが、知らないのは事実だ。


 実際、宣言が珍しいと言われたところで、転校してきて数ヶ月の連が知るはずもないだろう。


「……クリスマス、か……」

「……へっ、連が季節行事に興味を示すのを見ると、季節が変わったんだなって実感するぜ」

「優矢、いい加減にしろよ?」


 連は優矢に静かな怒りを向けつつも、そっとため息を吐いた。

 クリスマス、そんな縁の竹縄もないと思っていた行事に想いを馳せながら。

 一人だけだった、哀しみ以上の幸せを望めなかったころと違っているように。


(……僕の見ている世界って、こんなにも水が弾けてたのかな)

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