24 愛らしい妹は姉をよく見ている
「希夜ちゃん……どうして変装を……?」
「ゲームでもよく、尾行やNPCに偽装する時は、こうして服装を変えるやんね」
理由になっていない希夜の理論に、ついつい連は苦笑いしてしまう。
現在の希夜は、レンチコートにレトロな帽子、そしてメガネという、探偵感が溢れ出るような変装をしているのだ。
とはいっても、帽子からはみ出ているショートの白髪や、横顔から見えるピンクの瞳の珍しさが目立つ可能性もあるので、変装が完璧とは言い切れない。
とことん追求しない希夜の自由さに、気持ちは微笑ましさを覚えているのだろう。
希夜の口合わせにより、連も適当に一般人風のレトロな服を着ているので、星の子と一緒に居た騒ぎが起こることは無いだろう。
(まあ、もしもの時は僕が空間把握できるし、バレないようにすればいいよね……)
連自身、今回の件はあまり乗り気ではなかった。
尾行相手は隠すこともなき近しい存在……希朝なのだ。
この日、連は希夜との約束通り、答え合わせとして希朝を尾行することになっている。
家から出る間も監視気味だったので、連は既に疲弊していた。
女の子をずっと見ている、という自分の気持ちとの戦いもあるが、希朝を束縛したくない……過去から続く連の本心が表に出てしまいそうになるからだ。
連が暗い表情を軽く出しかけた時、一緒に電柱に身を隠していた希夜が服の袖をくいくいと引っ張ってきた。
「ここは……アクセサリーショップ?」
「装飾品のところやんねぇ? ……もしかして、バレた……いや、希朝ねぇはうちらの存在に気づいていないはず……」
希夜がぶつぶつと考え込んでいるのを見るに、希朝の行動は不可解な点でもあるのだろう。
希朝が入っていったアクセサリーショップは、外から店内に置いてある物が見える外見になっている。見たところ、身に着ける小物をメインで取り扱っているようだ。
希朝の後を追うために、足を進めようとした時だった。
「希夜ちゃん?」
希夜が腕を引っ張り、その足を止めてきた。
「……連にぃ、ここはうちが思っていた場所じゃないやんね。計画とは違う……きっと、踏み込まない方が良い場所やんねぇ」
おっとりとしているのに、確かに芯を感じさせる声色。
ぎゅっと握り締められた服の袖を見て、連はそっと足を引いた。
そんな連の様子を見てか、希夜は分かりやすく微笑んだ。
「分かった。でも、どうして違うって思ったの?」
希夜の意見を受け入れたからこそ、変に誤魔化される真似はしない、と踏んだ上で連は聞いている。
自分は悪い奴だ、と自覚しておきながら、知っておきたいという欲が勝っているからだろう。
希夜は悩んだように首を傾げてから、上目づかいで見てきている。
メガネに瞳が隠されているにも関わらず、その視線は確かにこちらを見ていると理解できる程だ。
「今の希朝ねぇなら、スーパーや……アクセサリーとは違った雑貨屋に行くと思っていたやんね。だから、なにかおかしいと思ったやんねぇ……」
「そうだったんだ。教えてくれてありがとう」
「れ、連にぃを付き合わせているのはうちの方やんね……だから、感謝するのはうちの方やんね」
希夜に笑みを向けられて変に恥ずかしくなった時、お店のドアが開いた。
同時に希朝が出てきたが、手には何も持っていないようだ。買い物をせずにお店を出た、もしくは肩から掛けている鞄に入れたのだろうか。
そんなことを思っていると、希夜が合図をするように服を引っ張ってきたのもあり、連は希夜と一緒にひそひそと隠れて尾行の続きを開始した。
次に希朝が向かった先は、希夜の言っていた通りスーパーだ。
流石にスーパーともなれば外から見るわけにもいかず、連は希夜と顔を合わせてから、歩幅を合わせて希朝の後を付けて行く。
「……希朝さん、今度は調味料を見ているみたいだね」
「希朝ねぇ、連にぃが来てからは同じ味付けでも多少の違いを研究してるから、謙虚に現れているやんねぇ」
「希朝さんが味の研究?」
希朝の料理は、連が密かに、時折本人に言うほど絶賛の味わいを持った至高の食事だ。
それの更に先を追及しているともなれば、胃が掌握されるのも時間の問題だろう。
とはいえ、希朝も連の料理が好きなのか、朝昼夜の当番制は変わらないままではある。
「あれ、希朝さんは?」
「ありゃりゃ、希朝ねぇが調味料を取って他人が通り過ぎたら消えた、やんねぇ……?」
棚の端からこっそりと希朝を見ていたのだが、希朝が調味料を取るタイミングで人が横切ったのもあり、姿を見失ってしまったのだ。
探そうとしても、雑音に近い人数なのもあり、希朝の気配を察知しづらくなっている。
希夜に続いて、調味料棚の方に連が足を踏み込んだ、その時だった。
「――そこのお二人さん、なにをしているのですか?」
「えっ」
「……あっ」
声がした方向である後ろを希夜と同じタイミングで振り向けば、そこには希朝が立っていた。
凛とした立ち振る舞いながらも、こちらを見てくるピンクの瞳は、希夜とはまた違った圧が存在している。
希朝は連を見てから、希夜を見て、そっとため息をついた。
「の、希朝ねぇ……こ、これはやんねぇ……」
「えっと、希朝さん、気分を悪くしたのならすいません……」
「はあ。希夜ちゃん、単体ならまだしも、連さんを巻き込まないの」
希朝は恐らく、希夜が主導権を持っていると理解した上で、諭すような言い方をしたのだろう。
希朝はそんな説教もほどほどにしてか、柔らかな笑みを浮かべていた。
「希夜ちゃん、連さん、夜ご飯は何を食べたいですか?」
「希朝さん、怒ってないの?」
一応、思い残すことがあっても嫌なので聞いてみると、希朝は表情一つ崩さない笑みを浮かべたままだ。
「仮に今、私が怒ったところで何も変わりませんよ。それに、この月になると希夜ちゃんが別の意味でもそわそわするのは今に始まった事じゃないので」
「の、希朝ねぇ、そう言うのは良くないやんねぇ」
「先に希夜ちゃんが付いてきたのでしょう?」
姉の風格を崩さない希朝は、希夜にとっては良いクスリと言えるのだろう。
その後、希朝と一緒にお買い物をしてから、帰り道を三人で辿るのだった。
夕焼けを背にして、希夜を間にした希朝との距離感で。




