20 明かす秘密と、増える秘密
「えっと……だから、そういうことで僕は……星宮家でお世話になっていると言うか、居候させてもらっていると言うか……」
スーパーの帰り際、偶然にも会ってしまった優矢の誤解を解くべく、連は家の和室で優矢に事情を話していた。
優矢を野放しにしてもよかったのだが、希朝の考えも汲み取って、優矢を星宮家に誘うことになったのだ。
希朝は変な誤解をされなければよいらしく、連としては安心している。
優矢は事情を聞いてなのか、軽くしかめっ面をしている。
腑に落ちない話、という訳ではない筈だが、優矢にとっては突っかかるものがあるのだろう。
「なあ、連。なんで今まで黙っていたんだ?」
「高橋、さん? それは、私が――」
「ごめん、希朝さん。でも、これは僕が黙っていたのも原因だし……何よりも、自分で落とし前をつけさせてほしいかな」
希朝が庇うために言葉を口にしてくれようとしたが、連は自然と腕を横に出し、そっと首を振っていた。
希朝に対して抱く気持ちというよりも、前を向いて歩けているのは希朝のおかげだ、と間接的にも伝えたい気持ちが先走ったからだろう。
優矢との関係も踏まえれば、親友と向き合うのが連自身なのは最善の選択である。
希朝は連の覚悟を聞いてか「私は静かに聞かせてもらいますね」と笑みを返してくれたのもあり、連は強くうなずいた。
「ひゅー、ナチュラルに名前呼びかよ」
「名前呼びの方が都合いいから」
「都合がいい、か……?」
まだ何か隠しているんだろう、と言いたげな優矢だが、彼がそこまで踏み込まないのは知っている。
「そうか。――天夜連、親友のお前に聞くけどよ、両親はどうした?」
「りょう、しん……うっ……おえぇ……」
両親。その刃は鋭利で、静かに体内から嫌悪感なるものを湧き上がらせてくる。
連が口を手で覆えば、希朝は心配したように背を優しくさすってきた。
希朝は最初の頃から、両親の話題を連が嫌っているのを知っているからこそ、避けさせるように受け止めてくれたのだろう。
連という存在が壊れないように。
落ち着いてくれば、優矢からは呆れた視線を飛ばされている。
「――両親の話題には反応か」
優矢は知っていた上で鎌をかけてきたのだろう。
先ほど話をした事情が事実なのか、その為の天秤を傾けるように。
連がどうにか口から手を離した、その時だった。
「――これ以上、連さんを苦しめるのなら、近づかないでください。高橋さんの方が私よりも彼の事情には詳しいのかもしれませんが、人は痛みだけで成長できる程、強くないのですよ」
空間が静かに震えている。それなのに、希朝の声は柔くいつものトーンなのに、彼女の出す雰囲気が重みを感じさせてくるようだ。
希朝が表情一つ変えずに優矢を真剣に見ていると、優矢は頭を下げた。
「すまない。連を苦しめるつもりはなかった。けど、苦しめたのは事実だし、近づかない確約は絶対にできない」
「えっ、あっ……すいません、私もつい熱くなってしまって……どうして、私、連さんのために……」
希朝はどうして自分が怒ったのか理解できていないようで、戸惑ったように頬に両手を当てている。
首を振る希朝の髪は無造作に動いているのだが、その仕草にすらも可愛らしさが溢れ出ているようだ。
戸惑っている希朝を横目に、連は優矢と顔を見合わせ、気づけば笑っていた。
「なるほどな。連の笑顔が増えたのも、彼女のおかげってことか」
「世間知らず、少しは言葉を慎む、って辞書に刻んで」
「おいおい、そんな照れんなよ? 俺まで恥ずかしくなるだろ……愛人との恋の巣にまでご招待されてんだからよ」
「前向きな優矢が羨ましいよ」
「……愛人、恋の、ス……」
まるで、ボンッ、と沸騰して爆発しそうなくらいに頬を赤くしている希朝は、壊れた機械のように言葉を繰り返している。
普段は気付かなかったが、希朝は恋や愛関係の言葉には弱いのだろう。
恥ずかしそうに首を振る希朝を見ていると、ついつい微笑んでしまう。
「星宮希朝さん。今後とも、連を宜しくお願いします。こいつはたまにうじうじするんですが、根は強く良い奴なんです」
「なんで親目線?」
「こ、こちらこそ。連さんにはお世話になっていますし、彼は一歩一歩成長している、勇敢で誠実な方なのは存じております」
「の、希朝さんまで乗らなくていいから!」
さりげなく板挟みになっていたのもあり、聞いている連の方が恥ずかしくなりそうだった。
ふと気づけば、希朝は腑に落ちないところがあったのか、優矢を真剣に見ている。
「あの、高橋さん」
「おん?」
「その、私と連さんの関係もですが、この事を学校で言いふらさないでほしいのですが」
優矢は連を見てから、納得したように希朝を見ている。
連からすれば、なぜ一回こちらを見たのか、と疑問でしかないのだが。
「俺は人に言いふらすほど育ちが良い奴じゃないぜ。大丈夫だ、そこにいるお婿さんの連が保証してくれる」
「……なんで巻き込むの? でも、希朝さん、優矢は信じても大丈夫だよ。いざとなったら、僕が優矢を、ね?」
「そうしていただけると幸いです」
「なんで俺はついで感覚で杭を刺されるんだよ!?」
凛としている希朝は、優矢の警戒を解いたとまではいかないが、悪い人ではないと判断してくれたのだろう。
実際、優矢は世間知らずなチャレンジャーなところはあるが、根は友達想いの善人なのは事実だ。
その後、優矢は長居したからを理由で帰宅するついでに、勉強を教えてもらいやすくなったと喜んでいた。




