18 星の子には星の子という美しい形がある
約一カ月も経てば、新しい学校生活にも慣れ始めると言うものだ。
連の入ったクラスは運が良かったのか、男女間の仲の良さに救われている。
連自身、男女関係での会話などを苦手としているわけではないが、ただ単に人付き合いが苦手という欠点があるのだ。
そんな馴染み始めた学校の席で今、親友である優矢が机にもたれかかりながら、こちらをじっとりと舐めまわすように見てきている。
視線的には、歩く筋肉と呼ばれている所以が分かるほどの熱を感じてしまう。
「なあ、連」
「……気安く触るな」
机にもたれかかるだけならまだしも、ニマニマしながら頬をごっつい指で突っつかれたのもあり、連は嫌悪感を覚えてしまう。
優矢が変に触れてくる世間知らずなのは今に始まったことでは無いが、昼休みなのもあって周りの視線が変に飛んできているのだ。
実際、優矢は連の親友だと周りに言いふらしてくれたが、集まる視線は別物だろう。
軽く指を払いのければ、すまんすまん、と言いたそうに優矢は苦笑している。
確信犯どころか、全ては計画通りなのだろう。
ため息を一つ返すと、優矢は知らない様子で話を進めてきた。
「ところでさ、最近の星の子の様子についてなんだけどよ」
「なんで僕に?」
「いやいや、星の子の噂をよく聞いてるのもそうなんだけど……似たお弁当を食べている連に聞かないと、っていう使命感だ」
「勝手に使命感を抱かないで?」
「それにさ」
「ボールをキャッチする方法を教えた方がいい? ……それに?」
優矢は悪戯に笑みを浮かべた。
「連がこっちに来て以降、毎日のように星の子のお二人さんは教室に様子を見に来るからな!」
「……」
「いやー、俺も最初は転校生が気になっただけ、って思ってたんだけどよ……毎日ともなれば、話は違うよな?」
「……どうだろうね」
決めつけるように、びしっ、と指を差してくる優矢には悪いが、連はただ苦笑して誤魔化すしかなかった。
優矢の言っている通り、希朝と希夜はそれぞれ別の時間に、毎日連のクラスに様子を見に来ている。
連自身、大したことではない、と思って二人には事情を聞いていない。しかしそれが良くなかったようで、優矢に指摘されているのを考えるに、考えは改めた方が身のためだろう。
星の子は学校では噂の一番星、ましてや行動が監視されているのではないか、というほど話題に上がる化け物じみた浸透性を持っている。
仮に同じ家で二人と過ごしているのが明るみに出れば、平穏な学校生活を送るのは夢のまた夢になるだろう。
うわの空になっていると、優矢がじっと見てきていることに気が付いた。
「おやおや、連さんや、もしかして星の子のことを妄想――」
「してないから。それに、僕は星の子って呼ばれる二人には興味無いし、高嶺の花はありのままの美しい姿であるべきだと思うよ」
「すまん。そこまで考えてない」
優矢からドン引きされているが、結果的にはよかったのだろう。
連としては『星の子』という存在には興味はない。
星宮希朝と星宮希夜……二人と生活している上で、学校でしか関わらない生徒とは見ている世界が違うからだろう。
星の子は連の目から見ても、一寸の隙も無い、完璧すぎる程の優等生であり、誰が見ても美少女と答える程の容姿端麗だ。
それでも、家での小さな積み重ねという努力に、相手を思いやる優しさを見ている連にとっては、偽りの一番星にしか見えていない。
「でもまあ……来年のクラス替えは、星の子と連は一緒になりそうだな」
「妄想も程々にしてくれないか?」
「おっ、なんだなんだ? もしかして妄想したのか、このむっつり――ごめんなさい」
「うん」
連はただ微笑んだだけなのだが、優矢は焦ったように姿勢を正していた。
学校が終わり、帰れる場所となった星宮家に帰宅していた。
夜ご飯の当番だったのもあり、連は帰宅早々に作り始めている。
事前に準備をしていたとはいえ、希朝と希夜の好みにズレがあるのもあり、二人に美味しく食べてもらうために時間を惜しみなく使うつもりだ。
連は鍋を火にかけている際に、ふと思ったことを口にした。
「そう言えば、僕のクラスで星の子が毎日来るって噂が絶えないんだけど……優矢にも聞かれたから、少し気になって」
この日は珍しく、希朝と希夜がリビングに居たのもあり聞いたのだが、二人はお互いに頬を赤くして目を逸らした。
心当り、というよりも張本人としての自覚はあるらしい。
希夜は首を振って火照った頬を冷ますように、少し困った様子でこちらを見てきた。
「うーん。星の子として噂になってるから、学校で連にぃに近寄りがたいやんねぇ……」
「えっと、希夜ちゃんは学校でも関わりたい、ってこと?」
「うちは二人と違って中学生やんねぇ……だから、その……」
希夜が少し恥ずかしそうにするのもあり、連はただ微笑ましく見守るだけにした。
希夜の距離感の近さを不十分とはいえ、家での生活で知っているのもあり、適度に近づこうとしているのは目に見てわかるのだから。
希夜が恥ずかしそうにしていると、希朝がため息を一つ吐いていた。
希朝の様子から察するに、希夜に呆れているのは理解出来るので、触れてはいけない理由があるのだろう。
「希夜ちゃん、ほどほどにね? 私はそうですね……連さんがクラスに馴染めているか心配だから様子を見に行っています」
言い切る希朝に、連は苦笑して誤魔化すしかなかった。
「希朝さんから見れば、まだまだ過去を捨てきれていないかもしれないけど……心配してくれてありがとう」
「べ、別に心配をしているわけじゃないです。……ただ、馴染めているか心配だっただけで」
「うん、そういう事にしておくよ」
「そういうことにしておいてください」
心配をしてもらえるのは、ありがたいことだろう。
照れたように頬を赤くする希朝に対し、柔らかに微笑んだのが悪かったのか、むすっと頬を膨らまされた。
そんな希朝との空気を崩すように、小さな元気の風が吹く。
「連にぃ、なにかお手伝いすることはある? うちもたまには、お手伝いをしたいやんね」
「きぃちゃんを一人でお手伝いをさせると怖いので、私もお手伝いしますよ」
「うぅ、一言余計やんねぇ……むむむっ……」
「ふ、二人共喧嘩しないで、ね?」
未だに学校で馴染めているとは言えないが、星宮家での生活に馴染めているだけ、連にとっては幸せなのだ。
希朝や希夜、二人の笑顔溢れる、そんな空間に家族の一人として迎え入れてもらった今があるのだから。




