15 決まる覚悟と更なる距離
この日、連はそわそわしていた。
そわそわしていると言うよりも、今日は希朝に呼び出されていたのもあり、和室の座布団に座っているから落ちつかないが正しいだろう。
呼び出した張本人である希朝は未だに来ておらず、落ちつかない鼓動は今か今かと心拍数を上げている。
実際、希朝からの呼び出しは今までなかったので、なぜ呼び出されたのか不明なのだ。
連としては、心当りが無いのもあって余計に疑問となっている。
(……何を話されるんだろう)
希夜に心当りが無いかと聞いてみたが、少し苦笑した後、笑って誤魔化されているので知ってはいるのだろう。
連が軽く息を吐いた、その時だった。
和室の障子は静かに開き、希朝がやってきたのだ。
服装はいつもと変わらないワンピースをメインとして、カーディガンを羽織るような格好をしている。
いつもより気を確かにしているからか、希朝が歩く度に揺れる毛先のしなやかさに目線がいってしまう。
「あの、希朝さん……呼び出した、理由って……?」
縮小気味に聞けば、こちらを見るピンクの瞳は静かに閉じられ、小さなため息が一つ返される。
「連さん、女の子を急かす殿方は嫌われますよ?」
「ご、ごめんなさい」
希朝に軽く手取られている時点で、女の子に対する気持ちの整理が下手なのはバレているだろう。
実際、連は女の子と関わり合う……むしろ他人と関わることがないに等しい過去を歩んできたので、他人のペースに合わせるのが苦手ではあるのだ。とはいえ、希朝と希夜のペースはどこかまったりしているので、連の方が合わせやすい節もある。
連が謝ると、希朝は微笑ましそうに見ていた。
希朝からの評価は未だに不明だが、見た感じ悪くは無いのだろう。
希朝は淡々とした様子で歩を進め、テーブルを挟んで相向かいになり、座布団に姿勢を正して正座していた。
向かいあう瞳は、落ちつかないものである。
普段であれば、何かと希夜が間に居たのもあり、希朝とは一対一で話す機会がそこまで無かったのだ。
訪れていた静寂の空間に、小鳥のさえずりが響いた。
「こほん。連さん、単刀直入に聞かせていただきます」
しっかりと声で咳払いを挟む希朝は、相も変わらず生真面目なのだろう。
「――連さんは、婿として。いえ……婿に、本当になりたいのですか?」
「……」
希朝は恐らく、決められた道ではなく、連の覚悟を聞いてきているのだと理解出来る。
実際、連はこの家に来るまで婿になる話を聞いたことがなければ、知る由もなかったのだから。
連が少し曇った表情をすれば、希朝はふと何かを思い出したように付け足した。
「別に他意はありません。両親から、私直々に連さんに聞いてほしいと言われたにすぎませんから」
どこか他人事のようで、それでいて声色に芯のある希朝の言葉は、静かに心の裏を撫でてくるようだ。
希朝は相手に強制をしない。それは、この一ヶ月過ごしてきた中で、連が一番実感している。
希朝の両親から聞いてほしいと頼まれたのが事実だとしても、証信は希朝自身の気持ちにあるのだろう。
ぶれない瞳で見てくる希朝。彼女が何処まで見通して話をしているのかは不明だ。
連としては、真剣に問いてくる希朝の気持ちを、無下にした発言をする気はない。
反射する連の姿が視界にある中、頭の中で整理をする。
時間に猶予をくれている希朝に、確かな気持ちを伝えたいと、自分がどうしたいか言葉にしたいと連は初めて思えたのだ。
今会話をしているのは他でもなく、星宮家の希朝……迷っていた自分を救ってくれた、近しい存在である。
連は静かに、熱い息を呑み込んだ。
「僕は……僕は……希朝さんと過ごした、この約一カ月を考えるのなら、悪くない話だと思っているよ」
「それは、どのように、ですか」
「上手く言葉に出来ないけど……僕は――希朝さんに憧れたから」
「……あこが、れた……直接言われるのは、て、照れますね……」
実際、今までの連なら、話している中でうじうじし、自分の意見を口に出来なかっただろう。
だけど、希朝に出会い、希朝から貰った言葉で、連はハキハキとした自分に変わろうと思えたのだ。
婿としてだけを云うなら、他人を好きになる、という感情は未だに理解できていない。それでも、一つの歩み寄りとして、希朝の立ち振る舞いに憧れるのは悪くないのではないだろうか。
家での希朝、学校での希朝の振る舞いを見て判断した、連自身の決断だ。
ふと気づけば、希朝は白い頬を薄っすらと赤くし、恥ずかしそうに頬を掻いていた。
「……そう言えば、希夜ちゃんはどう思っているの?」
希朝が軽く首を振れば、艶やかな長い髪はゆっくりと肩から落ちている。
「希夜ちゃんは口を挟みません。連さんを唆す言動はあるかも知れませんが、あの子は深い干渉……因果律を揺るがすような真似をしません」
「深い干渉? 因果律? それってどういう?」
「……いずれ話しますよ」
静かに目を閉じて、首を横に振る希朝は、今はまだ答える気がないらしい。
希夜に関しては傍から見れば積極的ではあるのだが、連としては心が見えないのだ。そこに居るのに、まるで違う世界に居る、そんな不思議な少女のようで。
連は希朝を信じて、ただ頷いた。
「本題に戻りますが、連さんの想いを聞けてよかったです」
「希朝さんが満足のいく答えを言えたようでよかったよ」
「……これでやっと、話が進みますね」
「……え?」
連は思わず息を呑んだ。
光の玉が揺れないピンクの瞳は、静かに連の姿を反射している。
「――両親が来るまでに、距離を縮めますよ」




