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01 出会い/再会

(……迷子になった)


 天夜(あまや)(れん)は雨が降り続ける中、弱々しく公園のベンチに腰を下ろした。

 高校生になって十月に差しかかった頃、理由も聞かされないまま連は別の家に行くことになったのだ。


 両親の救いもなく、口でしか言われなかった所在地を理解できるはずもなく。

 幾千もやむことなく降り続ける雨は、うじうじとしている連の視界を慌ただしく通り過ぎている。


 冷え切った体に耐え切れず、小さく息を吐いた、その時だった。


「……やっぱり、ここに居たのですね」


 視界の雨は遮られるように、温かな影が隠してくる。

 重なった影以外は雨が降っており、思わず顔を上げた。

 雨の跳ねる音で連の元に届く声は掻き消えていたが、声の持ち主はすぐそばに来ていたのだ。


 見上げれば、そこには傘を持った制服姿の少女が立っていた。

 見たところ年は同じくらいで、初めて出会ったとは思えない、そんな感覚が連の中に滞っている。


「えっと、君が濡れちゃうよ?」

「……またうじうじしているのですね。他人の心配をする暇があるのなら、今の自分の状況を心配するべきです」


 初めて会ったはずなのに、彼女は辛辣な言葉を投げかけてきたのだ。

 傘を傾けてくれている彼女は黒髪のストレートヘアーをしている。

 キューティクルが引き締まった絡まりのない長い髪が、雨模様の空の下でも天使の輪を生みだしていた。


 前髪に身に着けている太陽モチーフの髪飾りは、彼女のトレードマークだろうか。


 整った顔つきから連なる、うるりとした潤いある唇に、綺麗に整えられたまつげ、もっちりとした白い頬は、誰が見ても美少女そのものだ。


 何よりも特徴的な、お人形さんのようにまんまるとした綺麗なピンク色の瞳。

 大き目な瞳は下手な宝石よりも輝いており、柔らかな口調である彼女の印象に染まる色を持っている。


 制服の袖から見える白い柔肌に、整えられた体型ながらも富むんだシルエット。

 絶世の美女、と言っても過言ではない彼女に、連は接点を持った覚えはない。


「警戒していますね」

「全然知らないし、突然話しかけられれば……」

「自己紹介がまだでしたね。私は、希朝(のあ)。希望の希に、朝と書いて、希朝と言います」

「……なんで自己紹介?」


 警戒心、というものが希朝にはないのだろうか。

 素性も知らない男に名前を教えれば、希朝ほどの美少女であれば後を付けられてもおかしくないだろう。


 じっと見つめてくるピンクの瞳は、ただ待っているようだ。


「私が自己紹介をしたのですから、あなたも自己紹介をするのが筋と言うものでは無いのですか?」


 首を軽く傾げながら、希朝はこちらを見てきている。

 雨の中で希朝を変に待たせるのも申し訳ないので、連はため息交じりに希朝を見上げた。


「僕は、天夜連」

「……間違いなかった」

「なんの話?」

「私のことです、お気になさらず」


 口調は凄く丁寧で、凛としている希朝は、同じ学校であれば美少女で優等生という立場を確立していただろう。

 言いかけた言葉は気になるが、表情一つ変えない希朝を気にしないでおいた。


 連自身、なぜ彼女――希朝が見ず知らずの自分に傘を差し、ましてや気にかけたのかも不明だ。

 それでもどこか残り続ける、初めての出会いとは思えない感覚。

 ピンクの瞳を持っている、そんな珍しい人を忘れてしまうほど記憶率が悪いわけでは無いのだが、連の中では靄がかかるようで思い出せないのだ。


(……まあ、分かるのは一つだよね)


 今一番分かっていることは、希朝が優しい、ただそれだけである。

 損得勘定ではなく、少し会話をしただけでも希朝の思いやりを理解できたからだ。


 見つめてくる希朝に傘を差し続けてもらうのは悪いと思い、連はベンチに座る理由になった経緯を話すことにした。

 普通なら話さなくてもいい筈だが、希朝なら家族と違って話を聞いてくれる、そう思えたのだ。


「……その、希朝さん」

「どうしたのですか?」

「えっと、星宮(ほしみや)さんのご自宅……その場所って知っていますか?」

「存じ上げていますよ。よろしければ、案内しましょうか」

「えっ、いいんですか?」

「あなたのことですから、あまり来たことがない町で、迷子になって途方にくれていたのでしょう?」


 理由を話さなくても、迷子になっていたことは希朝にはお見通しだったようだ。

 優しい人ほど人をよく俯瞰して見ていると言うが、ここまで簡単に理解出来るものなのだろうか。


 ふと気づけば、希朝は柔らかな笑みを浮かべて、連の方に手を差し伸べてきた。


「それじゃあ、行きましょうか。星宮はこの地域だと珍しい名字ですし、家も和風さながらで間違えることはありません」

「そ、そうなんだ」


 希朝には星宮としか言っていないのに理解されたのもあって不思議だったが、そこまで有名なお宅だとは思いもよらないだろう。

 道案内をしてくれる希朝のご厚意に甘えて、連はベンチから立ち上がり、星宮家まで道案内してもらうことにした


 公園から出る際、希朝と相合傘になったのもあり、変に鼓動が速まると言うものだ。


 鼓動を落ちつかせていると、希朝がやんわりと口角をあげていた。


「連さん、言い忘れてしましたが」

「言い忘れ?」

「ええ。――そのゴミ、捨てておいてくださいね」


 突如として希朝から投げかけられた言葉に、ゴミを持たない連はただ茫然とするしかなかった。


(……気にしなくても、いいよね……?)


 雨音が響き渡る中、一つ傘の下を一緒に歩きながら、道案内が終われば希朝と関わるのはこれっきりだ、とこの時の連は思っていた。

 道案内をしてくれる希朝との出会いはこれっきりだと。星宮家に着く、その時までは。

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