シークレット・ポリス
この世は弱肉強食の世界だ。弱い者は強い者に喰われ、弱者は言いなりの犬となってしまう。
そんなことを思うようになったのは、俺の親が殺されてからだ。俺の家族は都市から離れた村に住んでいた。そこでの生活は自然も豊かで裕福に暮らせていた。父も母も温厚で俺のことをとにかく愛してくれていた。だがある日、家に黒服を被ったおっさん達が襲いにきて父と母を目の前で殺されてしまった。俺の親は多大な闇金を抱えていたらしい。今思えばそれが理由で都市から離れて住んでいたんだと思う。
「お前は、殺さないで生かしといてやるよクソガキ。だがお前には俺たちのために働いてもらうぜ」
そんなことを言われ俺はおっさんの下で金稼ぎをすることになった。
「今日も結構稼げたな....あの人で最後にして今日のところは帰ろう」
当時の俺は7歳、この年齢でまともに働けるわけがない。だから俺はスリで金を稼いでる。
(シュッ.......)狙った女が横を通るとき素早く指から糸を引いてお金を盗んだ。そのままお金をポケットに入れ、何事もなかったように歩いていくと後ろからさっきの女が声をかけてきた。
「ねぇキミー、大事なもん取れてないけどー」
そういいながら女はお金が入ったポチ袋を見せびらかしてきた。俺はポケットの中を確認した。確かに盗めたはずだと思っていたが、ポケットの中には何もなかった。
まだ別で盗んだお金を持っている。捕まってそれを取られ、俺の身分がバレたら俺はおっさん達に殺されてしまうかもしれない。そう思いその場を全力で逃げた。
「どこに行くんだい、ぼうや?」
初速だけで100m近く差をつけたはずなのに目の前には女がいる。だがこれでわかった。この女はきっとこの国を陰から支える組織の人間、秘密警察の一員だ。俺を追い詰めた奴なんて今まで誰一人いなかった。国の騎士や警備隊でさえも俺を捕らえることはできなかった。
「キミ、もしかして今町で話題になってるスリのプロ?」
「ちっ.....だったらなんだよ!?」
「へぇー、こんな小さい子が.....訳アリって感じかな。」
女が近づいてくると同時に俺は魔力が詰まった無数の細かい糸で攻撃した。だがそれらの糸は全て跡形もなく指パッチンで消えてしまった。女が近づき手を伸ばしてくる。俺はこのまま殺されるんだと思い足に力が入らなかった。
「よいしょっと」
「........え?」
俺はなぜかこの女の肩の上に担がれていた。
「なにすんだよ!?殺すならここで殺せよ!はなせ......このババァ!!」
「誰がババァよ!?まだピチピチの14歳よ!」
俺は必死に抵抗した。だがこいつには何もきかなかった。
「それに、殺しなんてしないわよ。おチビちゃんにはこれから私のところで働いてもらうから」
「はぁ?なんで俺が秘密警察なんかに......!」
「いいじゃない別に。秘密警察になったら今までの罪、全部チャラになるかもよ」
罪がチャラになる。取り返しがつかないほどの犯罪を犯した俺にとってそれは最も都合のいいことだ。
「それにキミ.....わたしの好みだしね♡」
その言葉を聞き悪寒がした。俺は女に担がれて秘密警察のアジトへと向かった。そこで女が言ってた通り俺の今までの罪はチャラになりそしてこの女の部下にもなった。
「これから君は秘密警察の一員で私の部下として働くんだよ!」
「アンタ、なんで俺を秘密警察なんかに?」
「アンタじゃなくてシャルルね。一応あなたの上司なんだからシャルル班長とでも呼びなさい。そうね、あなたを誘った理由か.....私のタイプだったからかな」
「そんな理由で?」
「それが一番の理由かな。それに、町で見たあの魔力や運動能力....キミみたいな逸材は中々いないんだよ!それを放棄しておくのはもったいないからね」
俺は霧の中を手探りで進むような目でシャルルを見た。
「なによその目.....そういえばアンタの名前聞いてなかったね。なんていうの?」
「.....パルト」
「パルトね。これから過酷な訓練や日々が続くけど一緒に頑張るわよ!」
その日から俺は秘密警察の一員として働き始めた。秘密警察の仕事は裏から国を支えること。戦争を吹っ掛けようとする国を事前に鎮圧したり国の周りにいる特級モンスターの駆除、内部からの転覆などを目論んでいる奴らの確保だったりとハードなことばかりだ。そんな仕事を耐えるためにも当時7歳の俺は鬼のような鍛錬を積まされた。
そんな毎日を続けて10年。俺の目の前には今、親を殺したおっさんが後ろに倒れこんでいる。
「ま、まってくれ!あの時のことは悪かった!ほしいものならなんでもくれてやる!だから命だけは勘弁してくれ...!」
「........死んだ者を蘇らせることはできない。今俺がほしいものはお前の首だ」
俺は糸でおっさんの首を体から綺麗に離した。
この10年で俺は大きく成長した。シャルルの部下だったが今では彼女と同じ秘密警察幹部の第5班班長に任命されている。組織の中でも俺は5本の指に入るほど強くなっていた。俺はそんな過去を振り返りながらおっさんのポケットを探る。
「このおっさんやはり隠し持ってたか....」
おっさんのポッケトにあった危険種に属する黒い魔晶石をとった。
「そろそろ始まるのか.....戦争が」
ボソッとつぶやき俺はその場を去った。