第8話 実力を見せる
「なぜ彼は俺をにらみつけているんだ?」
ギルドマスターとやらの案内で訓練室? 小学校の体育館くらいの場所に案内された。
そして、いきなり彼と戦って欲しいということだ。
彼は40代前半くらいだろうか。
軽そうな鎧を着ていて長剣を持っているので前衛だろう。
すでに剣を抜いていて、いつでも戦える態勢だった。
てか、サービスとか特典はどうしたんだ。
「それを受けるには彼と戦ってもらわないといけないのよぉ」
なんだか詐欺られそうな気がしてしまう。
10万円を受け取るためにはこのサービスに登録して2万円支払う必要があります!
みたいなやつ。
「まぁ……いいか。戦えばいいんだな?」
「そうよぉ。それだけでいいわぁ。証明できるから」
彼女はそう言って、周囲にいる冒険者たちをチラリと見回す。
周囲には結構な人が集まっている。
20人くらいはいるだろうか。
「あれが噂の……マックスさんに勝てる訳がない」
「Bランクのすごい実力者なんだぞ」
「あんなぽっとでの奴がいきなりなんて……《星導》も……」
などなど散々な言われよう。
まぁ、《アクリスケディアス》のクランマスターのおかげ(せい)で精神攻撃耐性はついている。
「とりあえず勝ったらいいんだな?」
「そうよぉ。では始め!」
「死ねぇ!」
相手は剣の長さを見せないようにして俺との距離を詰めてくる。
俺も右手で剣を抜いて迎え撃つ。
でも、なんだか変な気がした。
奴が斬りかかってくる寸前に魔法を詠唱した。
「『魔法の矢』!」
「ほう!?」
彼の背後に10本程の魔法の矢が現れ、そのまま俺に向かって飛んでくる。
しかも、彼はそのまま突っ込んできて、魔法の矢に対処しているとそこを突かれるだろう。
かといって、これだけの近距離ではゴーレムを作っている時間もない。
なら、
俺は剣で魔法の矢を叩き落とす。
「それならおれの剣は躱せまい!」
そう言って剣を振り下ろしてくる。
俺はその剣を半身になって避けながら、残りの矢も叩き落とした。
「な!」
「驚いている暇があるのか?」
秘書としてマルチタスクをこなし続けてきた。
この手紙の返信をしろと言われながらゴーレムの開発もやらされていたり、それはもう同時にやらなければならなかったのだ。
この程度の攻撃であれば正面から切り抜けられる。
俺は空いている左手で奴の首を掴もうと手を伸ばす。
「っ!!!」
彼は慌てて跳び下がった。
俺は当然のように追撃する。
「『魔法の矢!!!」
今度は10本程度では済まない。
3,40本だろうか。
なかなかに歯ごたえがある。
「だが遅いな」
それだけの魔法を構築する速度が足りていない。
1対1の状況で、その遅さは致命的だ。
奴の魔法が完成する前に、俺は奴の首元に剣を突きつけた。
「くっ……降参だ」
奴はそう言って魔法を消し、剣を落として両手を上げる。
「ああ、これでいいのか?」
俺は後ろを振り返り、ギルドマスターをみる。
彼女はいい笑顔をしていて、何度も頷く。
「ええ、ええ、最高よぉ! みんな。これで納得してくれたかしら?」
「あぁ、そいつがおれより強いことはわかった」
「マックスさん相手に無傷だなんて……」
「Aランクでもできるのか?」
「あり得ない、なんて強さなんだ。どこに隠れていたんだ?」
「どこかの国のSランクが身分を隠しているとか……か?」
ギルドマスターに目を向けられた観衆たちは思っていることを口にする。
表情は理解していないけれど……。
ただ、
「そもそも俺たちを待ち構えていたよな? どういうことが説明してもらうぞ」
俺がこの村に来てから冒険者に勧誘されたり、マックス? という奴と戦わされる段取りなどが早すぎる。
ギルドマスターはうふっと笑い、教えてくれる。
「ええ、いいわよ。それは私の予言魔法で、これから起きる問題を解決してくれるのがあなた……と出たのよ」
「予言魔法?」
この世界には色々な魔法がある。
一般的な火魔法、水魔法等は当然として、さっきの『魔法の矢』のような無属性魔法、珍しい所だと回復魔法や洗脳魔法などもある。
秘境にしか伝わらない伝承魔法等もあったりする。
全ての魔法を把握することは不可能で、初めて聞く魔法もあったりするくらいだ。
まさに今がそうなんだけれども。
彼女は頷いて説明してくれる。
「ええ、予言魔法は突然言葉が降ってくるのよ。『悪しき翼を捕らえ、訪れる旅人、その者により光あらん』っていうのが来たの」
「それで俺だと?」
「うーん。まぁ……そうね」
「でも、今日ってことはわからないんじゃないのか?」
「そっちは今のこの村が直面している問題ね。高ランクの魔獣が出たかもしれないから、その対応のためにマックスを残していた感じね」
「なるほど」
そして、それをやらせるために俺を冒険者に勧誘していた……。
ということだろうか。
正直だまし討ちに等しい気はするけれど、まぁいい。
「別にいいぞ。ただし、その高ランクの魔獣を倒した時に肉はもらいたい」
「当然ねぇ! じゃあこっちで詳しい説明をするわね! ちなみに……あなたはどうする?」
ギルドマスターに目線を向けられたシーナは少し迷った後に頷く。
「ええ、わたしも冒険者になります。エクスさんの調理をするのかわたしですから!」
「そう。なら普通に一番下のFランクからでいいかしら?」
「はい。それで構いません」
シーナが頷いたのを見て、ギルドマスターは俺たちに告げる。
「じゃあまずはエクス君は……Cランクからスタートね!」
「本当にサービスするんだな」
「それだけの強さだったらもっと上からスタートでもいいんだけどぉ。私の権限だとここまでしか上げられないの。ごめんなさぁい」
「いいさ。それじゃあ説明をしてもらおうか」
「ええ、こっちよぉ。ちなみに森には今は偵察を送っているから、後でその話も聞いてね?」
「ああ」
ということで、ギルドマスターについて行こうとすると、訓練所の扉が大きく開かれた。
「ギルドマスター! 緊急事態です! 偵察の結果、見つかったのは……」
偵察が話す内容はなかなかにやばいものだった。