第7話 ドチュウの村
山賊のアジトを出発して数日、俺たちは森の中の村に到着した。
「それにしても拍子抜けだな」
「何がですか?」
「もっと魔獣が出たり、山賊が襲ってくるものだとばかり思っていた」
「山賊は彼ら《強欲の翼》がここら一帯を縄張りにしていたらしいですよ。魔獣に関してはわかりませんが」
「そうだったのか。まぁさっさと行くか、あいつらの精神も壊れそうだし」
「ずっと拘束は厳しそうですよね……」
山賊たちは俺が造ったゴーレムでずっと拘束してある。
ただ、そのままだと食事やトイレ等が済ませられないので、それ用の介護ゴーレムを造ってあった。
最初こそ、『こんな赤子みたいなことはやめてくれ!』『好き嫌いしないから! だからピーマンの量を増やさないで!』だったのが、途中からは『そこ! そこいい! もっとやってくれ! もっと強くてもいい!』『ばぁぶ~ばぶばぶ~?』と、様々な声をいただくようになった。
ちゃんと綺麗にしてあるので大丈夫だろうとは思うが……大の大人の姿としては少々やばい。
そんな感じで俺とシーナは山賊を連れて村に到着する。
村は周囲を柵で囲われていて、門の前には兵士が槍を構えていた。
彼らは俺たちが近づくと槍を向け、声を上げる。
「おい! 止まれ!」
「なんだ?」
「その後ろにいる奴らはなんだ!」
「こいつらは……確か《暴食の胃袋》とか言う山賊だ」
「エクスさん。《強欲の翼》です。それだとただ喰らい尽くし系の人になっちゃいます」
「ああ、そうだったそんな名前だった」
「《強欲の翼》だと!? それは本当か!?」
「後ろの奴らに聞いてみろ」
俺はそう言って兵士に後ろに捕らえてある奴らを指さす。
「生きているのか?」
「ああ、拘束してある」
「逃げ出さないか?」
「問題ない。いいから早くしてくれ。こいつらを渡せば金がもらえるんだろう? それをもらってさっさと次の町に行きたいんだ」
「わ、わかった」
兵士はそう言って話を聞くと山賊と話をしたらすぐに村の中に走っていく。
「おい、どこに行くんだ」
「ちょっと待っていろ! すぐに呼んでくる!」
「どこに行ったんだよ……」
「まぁまぁ、すぐに戻ってきますよ。でも……わたしとしても早く村に入りたいです。魔獣が出そうな予感がしますから」
「その時は俺が守ってやる」
「……ありがとうございます」
シーナは顔を赤らめて、もじもじとしている。
「シーナ、どうかし……「あなた達ちょっといいかしら!?」
「!?」
いきなり両肩を掴まれそうになったので、相手の手を掴んでそれを止める。
相手を見ると、40代くらいの女性だろうか。
とてもカラフルに化粧をしていて、一目見たら数か月は忘れないだろう。
服装はショッキングピンクのワンピースを着ている。
彼女は俺に手を掴まれているのも気にせず話しかけてきた。
「あなたたち2人でその後ろにいる奴らを捕まえたのかしら!?」
「いや、俺一人だが」
「本当!? それなら職業は!? どうしてこのドチュウの村の村に来たのかしら!?」
「職業は……」
ここで秘書……と言えるのか、俺はわからなかった。
なので、一応……トライマイスターからある程度は合格と言われた職について話そうと思う。
彼女の手を放してから俺は答え始める。
「ゴーレムマイスターをやっている。ここに来たのはもっと先、オードリアの街に行く途中に寄っただけだ」
「ゴーレムマイスター……後ろの奴らもそれで捕まえたのね。ちなみに、最近この辺りでたくさん魔獣を狩ったりした?」
「魔獣は……ゴブリンくらいしか狩っていないな」
「じゃあ関係ない……? いえ、でもあなた、冒険者にならない?」
「冒険者? 突然だな」
「それだけの腕前なんだもの! 絶対になるべきよ! しかも強くて厄介と言われていた《強欲の翼》を全員捕縛! 最高じゃない!? それだけの腕前があればきっと素晴らしい功績を残せるわ! 英雄にだってなれるわよ!」
「いや、別にそういうのは興味ない」
俺が興味があるのは美味しいものを食べること。
ついでに他の人もその美味しさを味わってくれればよりいいというくらいだ。
しかし、ワンピースの女性は諦めない。
「でもでも、冒険者はいいわよぉ! ギルドからは生活の支援もしてくれるし、それにモテるし、ランクが上がれば上がる程すごい人ってみんなから羨望の目で見られるわ! さらにさらに、高ランクだと、1回の依頼で普通の人の年収を稼ぐことも可能なのよ! しかもしかも、今なら登録料無料! 1か月続けて依頼も受けてくれるのであれば一万ゴルのキャッシュバック付き! どぉ? すごいでしょう? 夢があるでしょう? 今なら登録特典としてサービスしちゃうわよぉ!」
なんだろう。
水〇の音とか言ってそうだ。
あ、ちなみに1ゴル=1円くらいと思ってくれていい。
俺は胡散臭そうに思いながら答える。
「別に興味はない。というか、あんたは誰だ」
「私? 私はドチュウの村のギルドマスターよぉ! サービスするから冒険者になってくれない? 受付の美人の子たちともセッティングしてあげるし、なんなら私でもいいわよ? ランクだってサービスしちゃうんだから!」
「いや、そこサービスしていいのか? っていうか、受付と一緒とか別にいらない。ランクだってそもそも冒険者になる気がなければサービスにならないだろう」
「もう……つれない姿も素敵ねぇ」
どうしようか。
正直面倒だから終わらせてしまいたいのだけれど……。
「なぁ、もう行っていいか? 俺はオードリアの街に行って美味い飯が食べたいんだ」
「美味しい物が……食べたい?」
「そうだが?」
「なら、やっぱり冒険者になるべきね! 高ランクの冒険者になれば、高ランクの魔獣がいる危険区域に入ることができる! そして……そういう所にいる高ランクの魔獣って、美味しいのよ?」
その言葉を聞いたのなら、やることは決まっている。
「登録はどうしたらいいんだ? 早くしろ。ランクが上がるサービスも忘れるなよ?」
「早いわぁ!」
「エクスさん!? 本当にそんな簡単に決めていいんですか!?」
シーナが突然止めようと俺の袖を引く。
俺は彼女の方を向いて力強く言う。
「美味い物を食べるために妥協はしない。世界中の美味しい物を食べるんだ。そして、シーナ。お前もそういった美味い魔獣を調理はしたくないか?」
「! 確かに……調理技術も欲しいですが、新しい食材を調理する。とってもやりたいです!」
「そうと決まれば後は簡単だ! 冒険者になって、高ランクになる! そして、危険区域に入って魔獣を狩って食う! これだ!」
「いいわねぇ! それじゃあ早速ギルドに行くわよぉ!」
「ああ!」
「はい!」
ということで、俺とシーナは冒険者になることを決めた。
そして、ギルドに到着してすぐに、ギルドマスターから一人の男性を紹介される。
「ちょっと……お願いがあって……彼と……戦ってくれない?」
「……」
「……」
紹介された相手は、ものすごい形相で俺のことをにらみつけていた。
なぜだ。