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第6話 追放サイド 《アクリスケディアス》での一幕

 《アクリスケディアス》のクランマスターの執務室。


 クランマスターは自身の前に立つ美しい女性に笑顔を向けていた。


「よくきてくれた。ヴァセラ女史、君にはこれからわたしの秘書として働いてもらう」


「はい。私にできる限りのことをさせていただきます」


 ヴァセラの本名は、ジュディ・ヴァセラ、ヴァセラ子爵家の女である。

 年齢は23、本来なら結婚をしていてもおかしくないが、彼女は知識を集め、それを活かしたいと思っていた。

 そのため、今回の話には喜んで飛びついた。


 ただ、彼女は学園には通っていたけれど、魔法が使えないということもあり、婚姻話にいい物がなかった……という理由もある。


 ヴァセラは眼鏡をクイッとあげて、肩口で整えられた金髪を軽く払う。


 クランマスターはその所作を見てにやりとする。

 貴族らしい優雅な……まるで本物の秘書のような仕草だったからだ。


 彼は彼女に向かって話す。


「前任者は大した者ではなかったからな。奴がいなくなってから数日経つが何も問題は起きていない。君であれば素晴らしい成果を出してくれるだろう。早速トライマイスターに挨拶をしてきてくれ」


「かしこまりました」


「彼らは気難しい職人の中で性格のいい素晴らしい者たちだ。失敗しても許してくれる。といってもくれぐれも失礼のないように」


「はい。当然です」


 彼女は一礼して、部屋から出ていく。

 そして、そのままトライマイスターの元に向かった。


「まずは……開発のクブリさんからでいいかしら」


 それぞれ超が10個付くほど優秀なゴーレムマイスターだ。

 作業場もお互いに邪魔しないように離れているし、そもそも話すこともないという。

 ただそのつなぎは前任者ができるくらいには簡単な物だったらしい。


(優秀な方々はそれ相応にプライドも高い。だから普通はつなぎと簡単に言えるものではないはずなんだけれど……そこも問題ない人が3人もいるとしたら、それはこの国一番のクランにもなれる。そこに席があれば私の評判も上がるはず……いい席が空いたものだ。この席を維持するためにできることをやっていこう)


 彼女は1人でそう考えて、クブリの作業室の扉をノックする。


「開いている」


「失礼します」


 部屋はとても広く、そしてそれを満たすように本や設計図、ゴーレムの試作などがこれでもかと置かれている。

 そんな部屋の中には灰色の髪を持つ中年の男性がいた。

 彼は机に向かっていて、何か書き物をしているようだ。

 そんな彼はジュディの方を見て聞く。


「誰だお前は?」


「この度クランマスターの新しい秘書として働かせていただくことになりましたジュディ・ヴァセラと言います。以後、よろしくお願いいたします」


「新しい秘書……? 前任者はどうした? そんな話は聞いていないが」


「そうなのですか? 申し訳ありません。クランマスターは前任者は大したことができなかったので、クビにしても問題ないと伺っているのですが……」


「ふむ……。ヴァセラ女史、時に君は魔法を使えるかね?」


「いえ、使えません」


「なるほど……わかった。要件は?」


「ご挨拶だけになります。何かお力になれることはありますか?」


 クブリは少し考え込むようにしてうつむき、彼女に出ていくように手で払う。


「……失礼いたします」


 彼女は部屋から出ていき、次の場所へと向かう。


(開発のクブリさんはもしかして気難しいのかな? それになんで魔法を使えるか聞いてくるんだろう?)


 彼女はまだわからないが、今後ゆっくりと仲良くなって仕事をこなせるようにしようと考えた。


 次の場所は製造のカンテの場所だ。

 部屋は同じような感じだけれど、製造途中のゴーレムだったり、核となる魔石が出てきた感じだろうか。


 カンテはクブリと同じ場所で机に向かって本を読んでいたらしい。

 彼は茶色の髪を持つ中年だ。


「君は?」


 同じような自己紹介のやり取りをして、ジュディが新しい秘書だということを伝える。


「何? 君が新しい秘書? 聞いていないが……」


「そうなのですか?」


「ああ、まぁいい。それで、エクスはどこへ行った?」


「エクス……前任者の方ですか?」


「その通りだ。奴がどうしてもというのであれば、俺専属の秘書にしてもいいが」


「クビにされたと伺っています」


 ガタッ!


「!」


 ジュディがそう言った途端、カンテは椅子が倒れるほどに勢いよく立ち上がる。

 その表情もかなり切羽詰まったものだった。


「あの……どうかされましたか?」


「……あ、いや、何でもない。時にヴァセラ女史、君は強かったりするかな?」


「強い……? 武力ということであれば、あまりお力にはなれないかと」


「そうか……。わかった。よろしく頼む。はぁ……」


 彼はそう言って椅子に座り、深くうつむいてため息を吐く。


「失礼いたします」


 彼女は部屋から出て、考える。


(何かしてしまったかしら。でもどうして強いかを聞くのだろうか。戦うことが秘書でも必要ということ? そんなの秘書のやることではないと思うのだけれど……)


 そして、最後には量産のティダーの所で挨拶をする。

 彼はカーキ色の髪を持つ中年で、ゴーレムの点検をしていた。


「それで、エクスは今どこに?」


「クビになったと伺って……」


 彼女が答えると、彼は彼女に迫り両肩をつかむ。


「そ、それは本当か!?」


「え、ええ。クランマスターからはそのように……」


「…………なら。君はその……ゴーレムを造れたりするのか?」


「ゴーレムを……? そもそも魔法が使えませんので……」


 彼女がそう言うと、彼は絶望したような表情でゆっくりと彼女から手を放す。


「そう……か。わかった。用事があったら呼ぶ」


「は、はい。よろしくお願いします」


 彼女はそう言って部屋から出ていく。


(とりあえず挨拶はできた……ただ、トライマイスターは全員が前任者のことを気にしていた。なら、前任者は優秀だった? それならどうしてクビになんて……)


 彼女は考えるが、答えが出ることはなかった。


****** クブリ視点


 ヴァセラ女史が部屋から出ていき、机に向かってこれからのことを考える。


「どうする……どうする……どうしたらいいんだ……。エクスがクビ……これではワシの立場が……」


 どうしたらいいのだろうか。

 このままでは途中から全てのゴーレム開発をエクスにさせていたことがばれてしまう。


「なぜ……なぜエクスをクビなんかにしたんだ……」


 最初はただの秘書だと思っていた。

 でも、彼に気まぐれにどんな風にしたらいいのか聞いてみた。

 本当にただの気まぐれだった。

 だが、奴は120点の答えを出してきたのだ。


 次に造る奴はどんなことがいいか聞いて回ってこいといったら、アンケートを取ったりして、わかりやすくこういう機能があるのがいい。

 こんな感じで作ったらどうか……ということを、提案してきた。

 その通りに造るとほぼ完璧に作れた。


 エクスに任せてやっていると、クランマスターの要求はドンドンと上がっていった。


 しかし、エクスはそれをなんなくこなしていく。


「だったらもうエクスに任せるじゃんかよぉ……。だってあいつに任せておけば開発全部上手く行くんだぞ? これなら勝てると思った設計図も、俺よりあいつが作った奴の方が性能高いんだぞ? どうなってんだ……」


 このまま行くと、ワシはクランマスターが納得する程のゴーレムを造ることは難しいだろう。


「そもそもあのカスこそ、ワシらが何できるのか知らずに適当に投げてその功績を使ってよろしくやっているくせに……。いや、しかしこのままでは……」


 そこまで考えた結果、ワシはあることを決意した。


****** カンテ視点


 ヴァセラ女史が出ていき、俺は大きくため息を吐く。


「はぁ……まじか……まじか……まじかぁ……エクス……せめて一言あっても……いや、まぁ……クランマスターのゴミカスがやったんだろうが……」


 まぁ、俺も奴に製造に使える魔獣を狩らせに行かせたりしたからあれだが……。


「っていうか、あいつが俺よりもゴーレムを上手く作れるのがよくない。なんであんな才能を持っている奴が秘書なんてやってんだよ」


 エクスに任せたら必要な素材は自分で取ってくるし、ゴーレムを設計図通りに造る魔力操作も抜群だ。

 それに、設計図では問題なかったが、それを実際に造ると不具合があって暴走することもある。

 暴れるゴーレムを止めて、造り直すことも奴に任せていた。

 しかも、それを問題ないように修正もできるのだ。

 何がなんでも手元に置いておかなければならない。


 それをあのクランマスターは……。


「いや……今は……今はいい。なんとしても奴を連れ戻さねば、クブリとティダーに無能と言われて追放されてしまう……そうだ!」


 こうしたらいい。

 俺はあることを決めた。


****** ティダー視点


「失礼します」


 パタン。


 新しい秘書とやらが部屋から出ていき、儂はガタガタと震える身体を抑えるのに必死だった。


「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」


 それもこれも全てエクスに量産のことは任せていた。

 そのつけが回ってきたと言える。


「そもそも何度も打診したではないか……エクスを儂専属にしろ……と。それをあのクランマスターがあんな小僧が欲しいなんてトライマイスターは落ちたのか? なんてほざくから……。ああ、イライラしてきた」


 ゴーレムの量産……普通に儂一人でやろうとしたら納期の5倍くらいは余裕で必要だろう。

 だが、エクスならそれを一人でこなしてみせた。

 だから少しは儂がやってみて、無理そうなら全て奴に任せていたのだけれど……。


「このまま行けば儂はトライマイスターではなくなる……なくなってしまう。これだけの優遇がなくなるなんて……そんなのは絶対に嫌だ……」


 毎日毎日ゴーレムを造るのは本当に神経を使う。

 一から製造し、問題があったらそれをなんとかする製造とはまた違った問題があるのだ。

 毎日毎日針の穴を通すような神経を使うことをずっと続ける。


 量産を担当するゴーレムマイスターは精神をやむことが多い。

 それほどに厳しい部署なのだ。

 少しでも設計図通りにできないと起動できないこともあるし、そのくせ、開発や製造ほど日の目も見ない。

 それに、失敗して素材がなくなったらものすごく嫌味を言われる。最悪、自分で取りに行かされることもある。


「まぁ……それに見合うだけの待遇は受けられているが……それも時間の問題だ。なら……やるしかない」


 儂は今の待遇を守るため、次にやる行動を決断した。




 この時、3人のトライマイスターの心は一致した。


「「「エクスを追いかけて、必ず連れ戻す!」」」


 こうして、トライマイスターは3人ともこの日の内に《アクリスケディアス》を後にした。


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