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第4話 囚われていたエルフは

「で……お前たちは俺に奴隷商にでもなれというのか?」


 エルフはものすごい形相(ぎょうそう)で俺のことをにらみつけている。


 なので、ここはブレイクタイム、少し後ろの山賊たちに話を聞こうと思う。


「そ、それは……いえ、そんなつもりはないんですがね?」


「ならこの財宝よりも価値のあるエルフをどうしろと?」


「そ、それは……そうだ! 貴族に献上すればいいんですよ! そうしたら売らないまでもその褒美として……」


 俺が貴族にエルフを献上か……。

 なるほど、確かにエルフはこの国……どころかほとんど世界中で姿をみることはできない。

 彼らはどこかに隠れ住んでいて、そこから出ることがないとされているからだ。


 彼らは美しく寿命が長く、魔法がとても得意な種族。

 そんな彼らは世界中の人々から狙われた。

 美しさを求めて、寿命を延ばすため、魔法の研究のため。


 彼らは狙われ続けた。

 そういった理由から徐々に姿を消していき、今ではほぼ見ることができない。

 国のトップになっている人だったり、有名な魔法使いだったりはいるけれど、基本はいないのだ。


「俺に結局は奴隷商をしろと言っているのと違うのか?」


「い、いえ……貴族ならひどいことはしませんから……きっとそいつも幸せになれるかも……っていうだけですぜ旦那」


 拘束されたままの山賊はそう言って取り繕ったように笑う。


 俺は目の前の牢のカギを剣で切断した。


 扉を開けて、エルフに向かって言う。


「出ていいぞ。ここにいる山賊を全員拘束したら後は好きにしていい。ただ、財宝とかどこにあるのか知りたいから力を貸してくれ」


 乱暴なことはされていないようなので、それだけを頼む。

 服が綺麗なままなのは、その方が貴族に高く売れるからと思われたのだろうか。


「……あなたは誰ですか」


「俺はエクス。しがない美食家だ」


「美食家?」


 俺の言葉にエルフは目を大きく開いて驚く。


「ああ、先日食べた店の料理が美味くてな。いや、美味過ぎてな。最近仕事をクビになったからついでに世界中の美味い物を食ってやろうと思っている。そして、その料理を作れるゴーレムを造り、世界中の人に食べてもらいたいと思っている」


「……なら、なんで山賊退治を?」


「ああ、そうした方が人のためになるだろう? 後は金にもなる。世間のためになる、俺の懐が(うるお)う。一石二鳥っていう奴じゃないか?」


「そのためだけに……この《強欲の翼》を狙ったんですか? 仲間は?」


「いないぞ。旅に出てまだ数日だからな」


 そろそろ美味しいものが食べたい。

 移動用の携帯食料は仕事を思い出させるから本当は食べたくない。


 エルフは慌てて椅子から立ち上がると、俺を外に出すように押してくる。


「早く逃げてください! この《強欲の翼》にはボスがいるんです! 《剛腕》という二つ名持ちで、Cランクの冒険者パーティも撃退されたんですよ!」


「なんだと、そんなに強いやつがいたのか」


「そうなんです! だから早く逃げてください! 命あってのものだねです!」


「ならお前も一緒に逃げよう。ああ、ただ他に捕まっているやつはいないか?」


「他にはいませんよ、それにわたしはいけません。わたしが逃げれば、絶対に《剛腕》はわたしのことを追いかけてきます。だから、今のうちに逃げてください。わたしはもう……諦めましたから」


 そういうエルフは本当に全てを諦めたような顔をしている。

 彼女に何があったのか……詳しいことはわからないし、聞いている時間もないだろう。


 そんな諦めた彼女の表情が、少し前、クビを宣告されたばかりの自分に重なった。

 だからか……彼女も助けてあげたいと思った。


「よし、エルフ。一緒に飯を食べよう」


「……はぁ!? どうしてそうなるんですか!?」


「美味い飯を食えば解決する! 敵のボスだったか? 俺が狩ってやる。だから飯を食って一緒に脱出しよう」


「……いいんですか? わたしを連れてどこかに行くと、あなたまで狙われるかもしれませんよ」


「どうせ世界中を旅する予定なんだ。逃げるだけ、問題ない。一人がいいなら近くの町までなら案内するぞ」


「……わかりました。でも、まずは《剛腕》をなんとかしてからです。わたしも魔法を使えるので少しは力になれると思います」


 彼女はそう言って手に風と炎をまとわせる。


「助かる。最悪このアジトを崩落でもさせればいいからな。そうだ。魔石がどこにあるかわかるか? それがあると戦闘が楽になっていい」


「それならこの奥ですよ」


「そうか、しかしボスはどういう敵なんだろうな。スピードメインか……それともパワータイプか。それ用のゴーレムを作ってきちんと対策をしていかないとな。ああ、そうか、転がっている奴らは邪魔だからなんとかしておく方がいいか? ボスとの戦闘でゴーレムが壊されて逃げられても面倒だし……」


 俺はそう思って後ろで拘束している山賊を見ると、彼らは慌てて叫ぶ。


「待ってください!」


「何だ?」


「もうボスは倒されています!」


「「へ」」


 俺とエルフの声が重なった。


「さっき旦那に話しかけようとして顎をうち抜かれて倒れたのがボスです」


「まじ?」


「まじまじ」


「………………結果オーライ! 敵を拘束したら飯にしよう!」


 ということで、ボスはしばいていたらしい。

 なので、財宝を全て回収した。

 ちなみに、地面に転がっていた山賊は全て拘束用のゴーレムで動けなくしてある。

 財宝の中にあった魔石を使ったからだ。

 財宝の中にはサンドリザードの魔石や、サラマンダーの魔石、トレントの魔石等もあった。



 俺はアジトの入り口で暗くなった外を見ながらつぶやく。


「今夜はここに泊まるか」


「そうですね。外も暗いですから」


 答えてくれるのは隣に並んでいるエルフだ。

 一緒にアジトを探索したり、隠し通路などを魔法で発見してくれた。


「だな。そろそろ次の町でご飯でも食べたかったけど……」


「そのことなんですけど、エクスさんは世界中の美味しい物が食べたいんですよね?」


「そうだぞ」


「エクスさんは料理を作れるんですか?」


「作れないな」


「なら、わたしをあなたの旅に連れていってはくれませんか?」


「君を……? どうして?」


 彼女は俺の方を向き、目をまっすぐに見てくる。


「わたしは世界中の美味しい物を食べて、それを作れるようになりたいんです。世界中の美味しい料理を食べるのもいいと思いますが、美味しい魔獣を狩って食べるのもいいと思うんです! わたしにはそれが出来ます! しかも、道中はわたしが調理できますよ! それにそれに、魔法もそこそこ使えるので、戦力としても多少は力になれます!」


 なんだかものすごくアピールをされた。

 でも、彼女の提案にはとてもそそられる。


 何よりも道中に料理をしてくれるというのがたまらない。

 近くの魔獣を狩ってそのまま料理に……最高だ。


「よろしく頼む」


 俺はそう言って彼女に手を差し出す。


「……よろしくお願いします。エクスさん」


「ああ、お前は……」


「わたしはシーナ。果てなき森のシーナといいます」


「よろしくな。シーナ」


「はい。エクスさん」


 俺は彼女と握手を交わし、これから旅をすることになった。


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