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第34話 メタルドラゴンの味

 俺たちはトライマイスターの3人の話にかたをつけてオードリアの街に戻る。

 すると、以前トレメスで受付? をしていた男性が待っていた。


「エクス様でいらっしゃいますね?」


「そうだが……どうかしたか?」


「エクス様におかれましては、この度のご活躍、誠にありがとうございます」


「お、おう」


「エクス様は以前トレメスで食事をお求めでしたね?」


「そうだが」


「よって、本日はお休みなのですが、あなた様の活躍に感激し、何かお返ししたいと思っております」


 ということはまさか……。


「《トレメス》の貸し切りでのお食事を今夜にでもご招待したいのですが、いかがでしょうか?」


「もちろん行かせてもらおう! あ、ちなみに人数は……」


「50名までなら構いません。ご自由にお選びください」


「わかった! 感謝する!」


「いえ、あなた様のご活躍ほどではありません。お待ちしております」


 彼はそう言って去っていこうとするので、俺はそれを止める。


「待ってくれ!」


「はい?」


「どうせならいつものメニューだけじゃなく、あのメタルドラゴンの肉も使ってくれ。美味いんだろう?」


「確かに美味と伺いますが、よろしいのですか?」


「たくさんあるんだ。みんなで食おう」


「かしこまりました。ありがとうございます」


 彼は深く頭を下げて去っていく。


 俺はそれから振り返ってシーナの方を向く。


「シーナ。招待したい人がいるんだが、そっちはいるか?」


「そうですね……同じ人たちかと」


「行くか」


「はい!」


 ということで、俺たちは《トレメス》に行くために誘う人の準備や、メタルドラゴンの素材の分配や解体などについて話し合う。

 メタルドラゴンの肉は1%は俺がもらい、素材も魔石や希少部位などを優先的に分けてもらった。

 まぁ……倒したから当然、もっともっていけ……とも言われたのだが、なんせあの巨体だ。

 マジックバッグに入らない! 


 それに、1%と言っても体重は何トンもあるだろう。

 仮に1万トンだと考えても、100トンももらえるのだ。

 考えてほしい。

 肉100トンを一体どれくらいで消費できるのだろうか。

 シーナと分けても50トン。

 こんなに食えるか、ふざけるな。


 まぁ……身体についていた鉱石が大多数を占めていたようなので、こんなに重くはないと思うけど……。

 それでも洒落にならない量だ。

 ということについてなど色々と話していたら、あっという間に夜になっていた。



「なぁ……なんでオレがこんな格好をしてんだ?」


 そう言ってくるのは俺の財布をスろうとした赤毛の子供だった。

 ただ、今は綺麗な薄緑色のドレスをまとっている。

 来る前に全員公衆浴場で風呂に入れて、服も新調させたのだ。


 っていうか、こいつ女だったのか……。


 《トレメス》へ招待された時に、色々と苦労したであろう。

 それも子供を連れていこうという訳だ。

 他に誘う人とかギルマスとか黒髪ロング美人受付嬢さんくらいしかいないからな。

 ギルマスはメタルドラゴンの素材をどうさばくかで領主と話し合っていてこれないらしい。


「こんな素材を任せていただけるなんて食事よりも大切なんですよ! もう今までの地獄が嘘のようです!」


 と、テンション高かったからいいと思う。


 そして黒髪美人受付嬢さんだが、彼女は流石だった。

 今はこういう店に相応しいドレスを着て楚々(そそ)とした態度。

 あ、でも時折よだれをぬぐっているので早く食べたい欲求はありそう。


「おい。無視すんな」


 そう言ってゲシゲシと俺の足を蹴るのは赤毛のガキ改めリタだ。


「こういう所はドレスコードがあるんだよ。レストランは食事を扱うんだ、あのままだと不衛生だろう」


「だからってなんでドレスなんだよ……」


「似合ってるからいいだろ」


「にあ! ふ、ふーん。オレみたいな子供が好きなの? ロリコン?」


「違うわ」


 俺はそう言って彼女の頭にチョップを置く。

 ポンという感じで。


「そういいながら……も? まだ小さいからできねーけど、大人になったらいいぞ?」


「何をする気だ。お前はこれから腹いっぱい美味い飯を食うんだよ」


「たくよー。そう言いながらもってことだろ。仕方ねーな。英雄がそこまで言うんなら今夜相手してやるよ」


「子供は大人しく親と寝てろ」


 話が通じない……。

 どうしようこの子。


「エクスさん。お待たせしました!」


「シーナ。こいつを……」


 俺が声をした方を振り向くと、シーナがちょっと恥ずかしそうに立っていた。


 彼女は最初の出会った時とは違って水色のドレスを着ている。

 ただ、今回は長い髪もまとめてあるし、ちゃんと? 一流の人に化粧もしてもらっているのか、今まで以上に美しかった。

 いや、もちろん今までも綺麗だったのだが、その領域が果てしなく上がっているという感じだろうか。

 もはや美の女神が降臨したようだ。


 その証拠に、彼女をチラリと見た人は皆彼女に視線を奪われている。

 男も女も関係ない。

 全ての人を魅了し、彼女が歩いた後をつけてぞろぞろとついてくる。

 ギルドの偉い人や貴族の人なんかも彼女の後ろにつき従っていた。

 ウェイターも並べかけのグラスを持ったままついてきている。

 そこのウェイターは仕事をしろ。


「あ、あの……へん……ですか?」


 俺が頭の中で色々と考えていると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめて自分の姿を見なおす。


「そんなことないぞ。美〇巨人が現れたのかと思った」


「大きくないですよ? 何を言っているんですかもう……」


「いや……そうか……そうだな。ビックリするくらい綺麗で驚いたんだ。悪かった」


 俺は素直に思ったことを伝える。

 今の彼女が美しくないと言う奴がいたらそいつの目は腐っていると断言できるからだ。


「そ、そうですか? ちょっと時間はかかりましたけど、やって良かったです」


「おっふ」


 彼女の笑顔が俺の心臓を撃ち抜く。

 そう錯覚するような美しさ、可愛らしさ等々、思いつく限りの美しい関係の言葉が含まれた笑顔だった。


「え、エクスさん?」


「大丈夫だ。問題ない」


「大丈夫じゃなさそうな顔してますけど」


「そうか? 一番いい装備を頼む」


「これから戦うんですか?」


「ある意味そうかもしれない」


 適当にしゃべって彼女の姿に慣れようとする。


 すると、ちょうどいい助け船が入った。


「うわーエルフの姉ちゃんキレーだな。女のオレから見ても美人だぜ」


「本当? ありがとう」


 シーナはそう言ってリタに微笑みかける。


「うわぁ……オレも惚れていい?」


「あはは、それはダメかな。と、そろそろ始まるから席につきませんか?」


「あ、ああ」


 ということで、俺たちは席につくと待ちに待った《トレメス》の食事がくる。


「おお……これが……」


「はい。《トレメス》をもっとも有名たらしめている料理になります」


 目の前に運ばれてきたのはサラダだった。

 基本は千切りにされたキャベツで、具材としては細切れになった肉や彩用の野菜が入りとても美しい。

 その上からは少し酸味の香りがするドレッシングがかかっていた。


 俺はそれをフォークで刺して口に運ぶ。


「!!」


 美味い。


 口の中に広がる野菜の清涼さと、肉の荒々しさが絶妙なバランスで成り立っている。

 ただ、それらはあくまでも下支えで、一番印象に残るのは酸味のあるドレッシングだ。

 野菜と肉を酸味でまとめ、食事が始まることを告げる鐘のような役割をしている。


 ただ、これは美味しいが、最高に美味しいを味わってもらうことが目的ではないような気がする。


「これは……次への布石か」


「そうですね……これは次の料理へのバトンとなっているような気がします」


 シーナも同意している。

 この味を表現するならば、ほどよい酸味と塩気が口の中にを刺激し、美味い食事をする準備をしろと言っているような物だった。

 一口食べるごとにもっと……もっと口に含んで食べたい。

 いっきに全て食べてしまいたいと思わせてくる料理だった。


 この次に料理を期待しろと言わんばかりに。

 このサラダを食べ終えるころには、よだれが溢れそうになって抑えるのに必死だった。


 一緒に座っている2人もそうなのか、口をぐっと閉じて待っている。


 それからすぐに次の料理が運ばれてきた。


「お待たせしました。メタルドラゴンのステーキになります」


 ゴトリ。


 目の前に置かれたのは先ほど倒したメタルドラゴンのステーキ。

 茶色い塊にはほどよい焦げ目がついていて、最高級のステーキと言われても納得できる。


 ジュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ。


 熱された鉄板の上では、メタルドラゴンの咆哮を放たれる。


 ゴクリ。


 俺はたまりにたまったツバを飲み込み、ナイフとフォークでステーキを切り分ける。


 大きさは500gくらいあるだろうか。

 肉もかなりの硬さを誇っていて、すぐにナイフが入っていかない。

 少し心配になりながら切り分け、それを口に運ぶ。


 ドガガガガガガガガガガ!!!!!!!


 俺はメタルドラゴンのブレスを食らったような感覚に陥った。


 それほどにこの肉の味は濃く、重く、重厚感があった。

 噛むとしみだしてくる肉汁も、その全てに旨味がこれでもかと詰め込まれているようだった。

 肉をかみ切るころには、口の中は肉の旨味が暴力的なまでに暴れ回っていた。


 味付けは塩だけのシンプルな物ではあるのだろうが、元々の肉に含まれていた旨味がもうけた違いだ。

 余計な物などいらないと言うように、口の中……いや、喉に至るまで全てを旨味で満たす。


 ゴクン。


 一口食べきるのに100回以上は噛んだ気がする。

 それだけ噛んでも、もっと味がある、もっと旨味があると主張するようなうまさだった。

 たった一切れ、たった一口でそれ。

 そんな肉が500gもある。


 シーナとリタも一心不乱に肉をかみしめている。


 俺も……肉を食べきるまでずっと集中して食べ続けた。



 食べ終わった頃には、少しアゴが疲れてしまっていたくらいだ。

 ただ、この日の食事は最高に美味かった。

 オードリアに来て本当に良かったと思う。


 それから、満腹の限界以上になるまで食べ続けた。



 《トレメス》での食事の翌日。

 俺とシーナは街の門にいた。


 見送りにはギルマス、黒髪美人受付嬢さん、リタがいた。

 少数なのは、多くの人たちが宴会でいまだに眠りこけていることと、俺がそんなたくさん人が来られてもと言ったためだ。


 口を開くのはギルマスだ。


「もう行くのですか」


「ああ、次の飯が待ってくれているからな」


「そうですか……もっと依頼をこなし……いえ、残念です」


 今依頼をこなして欲しいと言おうとしたか?


「メタルドラゴンの素材も好きにしてくれ。それを使って冒険者を集められるだろう?」


「ええ、あなたには感謝してもしきれません。この街を救っていただき、本当にありがとうございました」


 彼と黒髪美人受付嬢さんがそろって頭を下げる。


「気にしないでくれ。またどこかで食いに来る」


「はい。いつでもお越しください」


「お待ちしております」


 そうして、次はリタだ。


「兄ちゃん! 次に来る時はオレも美人になっておくからよ! 早く帰ってこいよな!」


「身体に気を付けて大きくなれよ」


「何!? ロリコンじゃないのか!?」


「たく……ま、元気でな」


 俺はそう言って彼女の頭をぐしゃぐしゃにする。


「子供扱いするな!」


「はは、なら次会う時にはそれなりの態度を見せてくれよ」


「むぅ……でも、ありがとな。父さんたちも感謝してたからさ」


「いきなりだな。だけど、それならよかった。家族仲良くな」


「ああ!」


 俺たちはそうして別れる。

 シーナもシーナであいさつを済ませていた。



「ふーそれにしても……《トレメス》は美味かったな。もちろん、メタルドラゴンも」


「はい。あんな味になるなんて想像もしていませんでした。でも、いつかわたしはあの味も再現してみせますよ!」


「楽しみにしている」


「ええ! 世界中の料理をエクスさんに食べてもらいますからね!」


「ああ、一緒に食べて回ろう」


「はい!」


 俺たちはそうして、新しい街に向かう。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

これで1章は終わりになります!

2章は絶賛鋭意執筆中です!

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