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第33話 3馬鹿との別れ

「すごいぞー!」


「最高だ! 世界最強なのはあんただ!」


「そのゴーレムもかっこいいぞ! 素晴らしい!」


「君は最高だ! Aランクに認めるぞ!」


 そうやって口々にゴレムジガンテのことを褒めてくれるのは自分のことよりもうれしい。


 しかし、激戦をくぐり抜けたばかりのゴレムジガンテは、ついに限界がきていた。


 ボロボロボロ。


「やば」


 俺は急いで肩から降りた。


 頑張って耐えてくれたゴレムジガンテに敬礼をして見送る。

 後ろにいる人たちも、俺の行動を見てか真似をして静かにしてくれた。


「……」


 それから、残っていた残骸を調べると、ブルームバイソンの魔石はまだ残っていた。


「まだ使えるのか……ありがとうな」


 俺はそう言って回収した。


「エクス! そんなボロボロなゴーレムを設計するとは!? まだまだ未熟なのではないか!?」


「そうだ! 製造にも甘い部分が見受けられた! 俺がさらに指導してやろう!」


「いずれあれを量産できるようにせねばな! その時には儂の教えを受けたことに感謝するだろう!」


「その声は……」


 静かな周囲を切り裂くのはかつての上司……。

 設計のクブリさん、製造のカンテさん、量産のティダーさんだった。

 彼らはその場にいた人たちをかき分けて、俺の前に立った。


「お久しぶりです」


「ああ、久しぶりだ。そして早速だが、ワシらの元に帰ってこい」


「クブリさんたちの元へ……ですか?」


 俺がそう言うと、シーナは悲しそうな表情を浮かべた。


 クブリさんはそんなことは気にせず、さらに話し続ける。


「そうだ! クランマスターはお前の価値を誤解していた! だが、ワシらがそれをちゃんと説明し、復職させる! それがダメならワシら3人専属の秘書として雇ってやるのだ! 給金は倍出す!」


 彼の言葉に、カンテさんとティダーさんも続く。


「秘書はお前でなければならないんだ。だから俺たちと共に帰るぞ! ゴーレムの造り方でまだまだ教えてやらねばならんこともあるからな!」


「そうだ。《アクリスケディアス》での仕事もたくさんたまっておる! 大人として、仕事の責任は果たさねばならんんだろう?」


 3人がそう言って俺に手を差し出してくる。


 やっぱり……俺がやっていた仕事は無駄ではなかったのか。

 ゴーレムを造り、多くの人に届けるということ。

 そういうことができて、多くの人に喜んでもらえてとてもうれしい。


 クランマスターも、トライマイスターの3人の言葉であれば嫌とは言わないだろう。


「エクスさん……」


 しかし、シーナはとても……心の底から悲しそうな顔をしていた。

 俺のためにずっと食事を作ってくれて、世界中の美味いものを一緒に食べようと約束したのだ。


「トライマイスター。その申し出は断らせていただく」


「なに!?」


「狂ったかエクス!?」


「あり得ない待遇だぞ!?」


「俺は俺のやりたいことをする。だから秘書にはならない」


 俺は世界中の美味いものが食べたい。

 でも、それは俺だけではなく、シーナも一緒にいて欲しい。


「その邪魔になるようならば……トライマイスター、あなたたちが相手でも排除する」


 俺は腰の剣に手をやり、徹底抗戦の構えを見せた。


「な!」


「これまでの恩を忘れたか!」


「そうだ! 今まで教えてやっただろうが!」


「ああ、トライマイスター。あなたたちは俺よりも強いのかもしれない。ゴーレムを造る技術も上なんだろう。だが、それでも俺は俺の進みたい道を選ぶ」


 秘書として、優秀な人を支える。

 それはとても素敵なことで、そういう人たちがいるからうまく回っていることもあるのだろう。


 だが、前世でも、今世でも俺に秘書は務まらなかった。

 俺はもう誰かの支えではなく、自分で自分らしく、やりたいことを全て選び取る。


 それから、すぐにでも一触触発になりそうな時に、1人の男性が叫ぶ。


「待ってくれ! そいつがエクスさん程の実力だとは思わない!」


 誰だと思ってそちらの方を見ると、兵士らしき男性とツルハシを持ったどこかで会ったような赤毛の男性が出てきた。


「な、なんだお前たちは!」


 クブリさんの言葉に、彼は答える。


「オレは鉱山の監視だ! お前たちがトライマイスターで、メタルドラゴンを狩れるといったな!? それでも止めるオレたちを振り払って鉱山の中に入り、メタルドラゴンを起こした! 違うか!?」


「……」


「しかも狩れると言ったのに狩るどころかすぐに逃げ出してきやがった!」


 兵士に続いて、ツルハシを持った赤毛の男性が叫ぶ。


「私も鉱山にいた時に彼らを見た! その時、彼らのゴーレムは瞬殺されていた! エクスさんよりも強いゴーレムを造れるなんて嘘だ!」


「な! 鉱山は侵入禁止なんじゃないのか!? でまかせだ!」


 カンテさんは慌ててそう叫ぶ。


「当然領主様の許可はもらっている! そのための護衛もつけているんだ! それでも細々とやっていたのに貴様らときたら……」


 ツルハシを持った男性は憎々し気にトライマイスターを睨みつける。


 そこに、ギルドマスターが割って入った。


「ということだ。トライマイスターのお3方にはお下がりいただこう」


「な! こんな地方のギルドマスター風情が!」


「ほう。ではギルドそのものと敵対される……ということでよろしいのですかな。エクスさんはAランク冒険者になり、ギルドとしても決して無視できない存在。さらに、あの《星導》様と親しくされている間柄。ギルドだけ……いや、国だけが敵で済むと思いますか?」


「くぅ……」


 そして、シーナも続いてくれる。


「わたしもエクスさんを連れて行かせるような真似は絶対にしません! エクスさんの料理はわたしが作り続けるんです! エルフの寿命を舐めないでください! 地の果てまで追いかけますからね!」


「小娘風情が何を!」


「わかります! エクスさんは優しく、とてもすごいんです! ゴーレムを造るのだって、けた違いの物をいともたやすく造るんです! あなたたちからはそう言った物は何も感じません! 造れるというのなら今ここで造ってみせてください! どうせできませんから!」


 シーナは目を燃やしながらトライマイスターの3人に強く出る。


 それに続いて、周囲の人たちも叫んでくれる。


「そうだそうだ! エクスさんはこの街の英雄だ! 望んでもねぇことをさせるんじゃねぇ!」


「トライマイスターだか、トライアスロンだか知らねぇが帰れ帰れ! ここにはお前たちの居場所はない!」


「できもしないことを言うな! 3馬鹿トリオが!」


「な、貴様ら……トライマイスターを……《アクリスケディアス》を馬鹿にするとどうなるかわかっているのか!」


 クブリさんがそう言って怒鳴り返すと、ギルマスが出てくる。


 彼はさっき受付嬢さんから手紙を受け取り読んでいたけれど、それを持ってトライマイスターに近づく。


「なるほど。その《アクリスケディアス》のクランマスターから緊急で帰ってくるように……という連絡があったぞ?」


「なに?」


「仕事が溜まっているようだな? 何をおいても帰れ……場合によってはギルドへの依頼で連れ帰ってもかまわない……とある」


「え……それは……」


 ギルマスは俺に意味深な視線を送ってくれる。


「なるほど、確かに、大人なら仕事に対する責任は果たさないといけないんでしたね」


 俺はそう言って剣から手を放し、魔法を起動する。

 それもわざとトライマイスターの3人に見えるように。


「『設計図(ブループリント)』」


「な、何をする気だ」


 トライマイスターの3人が少し下がる。


「『土人形製造(クリエイトゴーレム)』」


 俺が造るのは当然、ゴーレム。

 それも、山賊を捕らえた時の拘束用ゴーレムだ。


「な、なんだこのゴーレムは!」


「あれ? 設計図はさっき見えていましたよね? わからないんですか? クブリさん」


「っく……」


 クブリさんは悔しそうな顔をしている。


 俺は彼の首根っこを掴んで拘束用ゴーレムにはめた。


「な! こんなことをして許されると!」


「カンテさん。さっき設計図を見たんです。すぐに造れますよね? それと弱点も看破できるんじゃないですか? すぐに造れてこそ一流……そうおしゃっていましたよね?」


 クブリさんを無視して、俺はカンテさんの方を向く。


「そ、それは……設計図(ブループリント)』」


 しかし、カンテさんは魔法を起動させるが、一向に作る気配がない。


 俺は彼もクブリさん同様に拘束させる。


「ティダーさん。量産してください」


「『設計図(ブループリント)』」


 彼は魔法を起動し作ろうとするけれど、魔力は乱れて全然できていない。

 俺は優しさで設計図を見せてあげているが、それでも全くできていないのだ。


 俺は何も言わずに彼らを拘束する。


「え、エクス……」


「頼む、助けてくれ!」


「お前が戻ってきてくれなければ儂たちは!」


「大人なら……仕事の責任を果たしてください。ちゃんと……《アクリスケディアス》まで送り届けて差し上げますよ」


「いやだぁ~! あんなすごい設計図書ける訳ないだろう~!」


「俺だって暴走したゴーレムをどうしたらいいんだ! 素材だって取れる訳ない!」


「3徹は無理! あんなスケジュールでどうやって造ればいいんだ!」


 トライマイスターの3人はそう叫ぶけれど、俺は安全に届けるためのゴーレムを製造して護衛や介護につける。


「ではお3方。《アクリスケディアス》での仕事、頑張ってください」


 俺はそう言って彼らを見送る。

 彼らは遠く見えなくなるまで、ずっと泣き言を叫んでいた。


 こういう時は……はい、みなさんご一緒に『ざまぁ』かな。


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